鍼灸師の中には、一般の方たちに広く知られるような「著名人」もいます。
その一人が、「ペットボトル温灸」を開発した若林 理砂(わかばやし りさ)先生でしょう。著書は20冊以上。臨床だけでなく、連載や発信にも積極的に取り組まれています。
ポップに伝えることを大切にしているという若林先生に、鍼灸との出会いから、啓蒙活動への思い、そしてバク転に取り組み続ける理由まで聞きました。
そこには、カリスマ性がありながらリアリストな姿がありました。
若林 理砂(わかばやし りさ)先生

略歴1976年生まれ。高校卒業後に鍼灸免許を取得。
早稲田大学第二文学部卒(思想宗教系専修)。
2004年にアシル治療室を開院。
Studio Libra主宰。現在の趣味はカポエイラとブラジリアン柔術。
著書に『絶対に死ぬ私たちがこれだけは知っておきたい健康の話』『謎の症状 心身の不思議を東洋医学からみると?』(いずれもミシマ社)
『安心のペットボトル温灸』(夜間飛行)、『決定版 からだの教養12ヵ月―食とからだの養生訓』(晶文社)など。
早稲田大学第二文学部卒(思想宗教系専修)。
2004年にアシル治療室を開院。
Studio Libra主宰。現在の趣味はカポエイラとブラジリアン柔術。
著書に『絶対に死ぬ私たちがこれだけは知っておきたい健康の話』『謎の症状 心身の不思議を東洋医学からみると?』(いずれもミシマ社)
『安心のペットボトル温灸』(夜間飛行)、『決定版 からだの教養12ヵ月―食とからだの養生訓』(晶文社)など。
ごちゃごちゃした鍼灸の世界へ

若林先生は、著書をたくさん出されていますよね。先生が考案された「ペットボトル温灸」を知っている人も多いと思います。積極的な発信の活動についてお聞きする前に、まずは鍼灸との出会いについて知りたいです。
ツルタ
若林先生
もともとはモノを作るような仕事をしたいと思っていました。自由の森学園っていう変わった学校に通っていたんですが、そこで羊毛で糸を紡いで織るのがすごく楽しくて。でも割と現実的なタイプなので、これお金になるのかっていう……。生活できるほどの才能はないだろうと思いました。
個性的なだけでなく、現実主義なところもあったのですね。そこからどう鍼灸との関わりが出てくるのですか。
ツルタ
若林先生
薬用植物図鑑とかを見るのも好きで、そういうのを持って田んぼを駆けずり回るような子供だったんです。その本の一部はいまだに本棚にあります。栃木の田舎暮らしで、何に使うわけでもないんだけど薬用植物を摘んできて干しては「これは胃薬で、これは毒だから」とか言いながら集めてました。飲まないのに(笑)。
気になるものを収集して楽しんでいたんですかね。
ツルタ
若林先生
周りからも「お前はそれをどうするんだ」ってよく言われていました。そういうところから生薬が好きになっちゃって。中学校時代は自分でハーブティーをブレンドして飲んでました。東洋思想にも興味があったので、かつ手先の器用さを活かせて、全部が合致するところを考えて行き着いたのが鍼灸って感じです。
東洋思想は、どのあたりを好きになったんですか。
ツルタ
若林先生
元々はオカルト趣味ですよ。月刊『ムー』とかめちゃめちゃ読んでいました。色んな神話、伝説、黒魔術とか、結構オールラウンドに。そういう延長線上で鍼灸に集約するんですよ。
意見が割れそうな鍼灸像ですが、オカルトからの興味関心が土台にあって鍼灸師になったというのは、妙に納得しちゃいますね。実際に鍼灸の免許をとってみてどうでしたか。
ツルタ
若林先生
面白いですよね。ものすごいごちゃごちゃした世界じゃないですか、鍼灸って。私が色んなところで通過してきたものが、ごった煮で入っているような世界。
「先生に聞けば、とりあえずわかると思う」
現実的な質問ですが、資格を取ってからはどのように?
ツルタ
若林先生
親が経営していたエステティックサロンの関係で鍼もやって臨床経験を積んでいきました。
最初の修行的な感じですかね。エステの業務もやっていたんですか。
ツルタ
若林先生
フェイシャルとかボディー、手技、スチームもかけてましたよ。当時は今みたいにコンプライアンスとかそこまで厳しくなくて、何でもありのような時代でした。6~7年はそこにいたのかな、懐かしい。
開業のきっかけはあったんですか。
ツルタ
若林先生
「いつ独立すんの?」って経営者に聞かれたんです。その時点で患者さんはいっぱいで「独立したらやっていけるわよ」って言われたのがきっかけになりました。その頃から患者さんの数は変わらないので、ずっと予約が入ったまま、走り続けるような感じで変わらないペースで30年ぐらいずっと臨床に取り組んでいます。
その時から、今に続くような発信活動はされていたんですか。
ツルタ
若林先生
インターネットがない頃からパソコン通信をやっていたんですよ。ブログが始まった頃には、友達の依頼で色々と書いていました。文章を書くのは前から好きだったから、発信については特に気負うこともなく続けていましたね。
書くのが好きでどんどん出していたら、それに伴って読者が増えていったイメージ。
ツルタ
若林先生
書き続けていると、だんだんと量を多く書けるようになるじゃないですか。鍼灸学校を卒業した数年後に大学に入ったんです。そこでもたくさん書いて、卒論は7万字ぐらい書いたかな。そういうのもあってさらに長文を書けるようになって、出版につながっていった感じです。
大学は文学系でしたよね。
ツルタ
若林先生
そうです。思想宗教系。1年生の時に熊野信仰、2年生の時に新興宗教系、3年生の時にイスラム神秘主義、最終的に卒論は『黄帝蝦蟇経』で書いたんです。
『黄帝蝦蟇経』って読んだことないですけど、かなりユニークって噂は聞きます。月の満ち欠けとツボの関係やら、月の図にカエルとウサギが描かれているとか……。
ツルタ
若林先生
そういう知識を片っ端から覚えたり、詰め込んだりするのが大好きなんです。小さいときから私、百科事典を片っ端から読んでいたんですよ。そういうのが背景にありますね。
マニアックな分野を含むあらゆる知識への興味関心が、若林先生の背景ですか。
ツルタ
若林先生
そうですね。頭に何でも突っ込んじゃうから、今も「先生に聞けばとりあえずわかると思う」って、よくわからないことをいっぱい聞かれます。家の風水からアナログレコードの売り先までね。
鍼灸で何でも治るわけない
先生は授業の実技で具合悪くなるぐらい刺激に敏感だったって聞きました。治療室では、どういう刺激量で鍼をしているんですか。
ツルタ
若林先生
基本的には、めちゃめちゃ細い鍼か、鍉鍼を使っています。刺さっているんだか、刺さっていないんだかわからないぐらいの刺激で。結局それでもじゅうぶん効くと思っています。患者さんも負担が少ないですね。自分が受けても大丈夫な刺激量でやっています。
自分が辛いことを他人にやらない。そういう感性は大切かもしれませんね。先生の治療院はスタジオ(Studio Libra)を併設していて、体を動かすワークショップもしていますよね。こちらに取り組むきっかけはあったんでしょうか。
ツルタ
若林先生
すごく単純な話で、運動してもらわないと治らないから。運動機能が衰えていくと治療には限界があって。なので患者さんに「運動して」って言うことが多いわけですよ。とはいえご自身ではやってくれないし。運動できる場所があれば、そのうちやるかなと思って併設したわけです。
運動もしてほしい患者さんっていますね。そういう場を作ったことで、実際に運動を始める人はでてきましたか。
ツルタ
若林先生
何人もいますよ。「やったらだいぶ変わるんですね」って言うので「だから言ったじゃん」みたいな。スタジオでは激しい運動ではなくて、武術系をもとにした運動をうんちくたれながらやっています。武術に対しては一般的なスポーツと違って筋肉に頼らないで超人になれるような夢を持ちがちで、筋力ない人でもやってみようかな?と思えるんですよね。そこも良いなと思っています。
カリスマ性と鍼灸師を合わせると、何でも鍼灸で治す方向に行きがちだと思うんだけど、スタジオを併設して運動してもらうっていうのは、リアリストだなと思います。
ツルタ
若林先生
すごいぶっちゃけって言うと、鍼灸で何でも治らないじゃないですか。絶対違う。そういうのはすごく不誠実。それこそ不老長寿になれるって言うのと同じようなもの。どの医療でもやっぱり助からないで亡くなる方もいるじゃないですか。どう手をつくしても治せないものもありますよ。
ペットボトル温灸、誕生のきっかけ
若林先生のことを最初に知ったのはペットボトル温灸なんですよ。あれはどういうきっかけで生まれたんですか。
ツルタ
若林先生
もともとは子供にやりたくて。うちの子がお腹を壊したからお灸をすえようとした時に、火のついた線香をつまみに来たんですよ。これできないわってなって。さて、どうしたものか。熱源として何かが必要ってなってまず考えました。
火を使わずに温熱刺激をやるにはどうしたらいいか。
ツルタ
若林先生
それで「買ってなんとかしよう」と考えたけど、電気温灸器はめちゃくちゃ高い。それでタダでできるものを探して、最初にやったのが佃煮のりの瓶の中にお湯を入れたんですよ。瓶詰めの瓶って熱消毒するから高温に耐えられるので。そのうち「これいいよ」って患者さんに教えたら「割れそうで怖い」って言われて。じゃあ他に入れられるものはないかなって探して、ホットのペットボトルに行きついたんです。
無料でできるのは大きいですね。だから一般の方に広がったのかなと思います。これはどんな感じで広がっていったんですか。
ツルタ
若林先生
最初はメルマガに書いていたんですよ。そしたら「これ評判良いから書籍にしようよ」って編集者の方に声をかけられたのが始まり。それで本になったんです。
ペットボトル温灸で、鍼灸に関心を持つ人は増えましたよね。
ツルタ
若林先生
だと思いますよ。お灸とか鍼、東洋医学系の考えに関心を持ってもらう入口にはなると思います。私のペットボトル温灸を編集してくれた人が美容院で「ペットボトル温灸って知っています?」って聞かれたそうです。全然知らない人から言われるのって大事じゃないですか、浸透してる証拠だから。
実は僕、免許取り立ての時は、血気盛んだから「モグサじゃないんかい」って批判から入ったんです。でも最近は、いい塩梅の温熱刺激が出せてるんじゃないかと思うようになりました。それに根底にあるのは、安全性と手軽さですよね。
ツルタ
若林先生
安全性と手軽さ、そしてそれなりの効果。お灸までの効果は出せないにしても、おそらくは電気温灸器と似た効果が出せる。それもタダで。それでいいじゃん?って。火が使えないところでもできるので、ホスピスへの往診に持ち込んだこともありますよ。
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