美容鍼灸の多様な可能性について/鍼灸師・博士(鍼灸学):山﨑 翼

今回の学びは「美容鍼灸」がテーマです。

近年研究が進む美容鍼灸、その効果は美容だけにとどまらないようです。最新の研究から、美容鍼灸が持つさまざまな可能性を考察します。
執筆は明治国際医療大学講師の山﨑翼先生です。

いただいた原稿を、ハリトヒト。編集部が対談形式に再構成しています。

山﨑 翼(やまざき たすく)先生

2005年3月 明治鍼灸大学 鍼灸学部 卒業
2010年3月 明治国際医療大学大学院 博士後期課程 修了 鍼灸学博士
2010年4月 明治国際医療大学 博士研究員
2010年11月 明治国際医療大学 保健・老年鍼灸学講座 助教
2017年4月 明治国際医療大学 鍼灸学講座 助教
2019年4月 明治国際医療大学 鍼灸学講座 講師
2022年4月 明治国際医療大学 大学院鍼灸学研究科鍼灸学専攻専攻長補佐(現在に至る)

学術研究が進む美容鍼灸

山﨑先生
山﨑先生
「美容鍼灸」という領域が認知され、広く知られる様になってから10年以上の時間が経過し、徐々に学術論文の数も増えてきました。
美容鍼灸は一般的になったと感じます。学術的な研究も盛んにおこなわれているんですね。
タキザワ
タキザワ
山﨑先生
山﨑先生
近年では角質水分量や皮脂量など、客観的な指標を用いて効果判定をおこなっているものも多く、特に最近では、鍼刺激が眉間のシワを浅くすることが報告されるなど、顔面の形態的な変化にも鍼治療が有効であることが明らかにされつつあります。(文献1)
山﨑先生も美容鍼灸の分野で研究をされていますよね。
タキザワ
タキザワ
山﨑先生
山﨑先生
三砂雅則先生との共同研究で2025年に美容鍼がたるみを改善することを示す論文(文献2)を出しました。少しずつではありますが、美容鍼灸の効果は明らかにされつつあります。

鍼刺激が咬筋のボリュームを減少させる

山﨑先生
山﨑先生
美容鍼灸の効果が科学的に確からしいものになりつつある中で、非常にインパクトのある論文がありますので、今回はそちらをご紹介します。タイトルは「Effect of Facial Acupuncture Stimulation: MRI-Based Masseter Muscle Volume Analysis and Questionnaire Evaluation」で、意訳すれば「顔面への鍼刺激の効果:MRIによる咬筋のボリューム分析と質問票による評価」になると思います。
咬筋って、顔の輪郭とか外見にも大きく影響する筋ですよね。MRIで実際にどんな変化が見られたのかとても気になります。
タキザワ
タキザワ
山﨑先生
山﨑先生
この研究の対象は健常成人女性10名(平均年齢50.3±6.45歳)で、咬筋を含めて顔面の表情筋にまんべんなく鍼刺激をされていました。鍼刺激は週1回の頻度で8週間とし、鍼刺激前と治療3日後にMRIを撮影していました。結果としては、鍼刺激後には咬筋のボリュームの減少が認められました。さらに10項目の主観的評価項目においても、その全てで良好な結果が得られていました。
鍼刺激で咬筋のボリュームが減ったんですね。客観的にも主観的にも効果が見られたのなら満足度も高そうです。
タキザワ
タキザワ
山﨑先生
山﨑先生
その通りです。特に顔面のたるみ、輪郭、非対称性において顕著な改善が認められ、対象者の美容効果と心理的満足度の向上が確認されました。まとめとして、美容鍼灸は咬筋のボリュームを減少させ、顕著な美容効果をもたらしたと結論付けていました。

鍼刺激での変化がMRIで客観的に示された

鍼刺激で咬筋のボリュームが減ったのはなぜなのでしょうか?
タキザワ
タキザワ
山﨑先生
山﨑先生
作用機序としては、咬筋周囲の経穴への鍼刺激が、筋弛緩により筋肉のボリュームを減少させた可能性を考察しており、このボリュームの減少が顔の輪郭の美しさの向上にもつながったことで、主観的評価の改善にも影響したと述べられていました。
鍼刺激が咬筋を弛緩させることが、輪郭の美しさにつながった…。
タキザワ
タキザワ
山﨑先生
山﨑先生
これまで、主観的な評価を中心に語られてきたフェイスラインの変化に関して、咬筋のボリュームが鍼刺激によって減少し、それをMRIで直接評価できたことは、非常に意義深いことです。
画像での客観的な評価は信頼性が高いですね。
タキザワ
タキザワ
山﨑先生
山﨑先生
細かい話になりますが、これまでの美容鍼灸の研究では、その多くが「1週間に2回の鍼治療」を必要としていました。この点は、費用対効果からすると非常に重要で、1週間に1回の頻度でこれだけの美容効果が得られる可能性が示されたことは、大変画期的な事です。

顔面の筋を緩める効果は外見だけに留まらない

山﨑先生
山﨑先生
顔面の筋肉を緩めることは、外見的な美容効果だけにとどまらず、様々な効果が期待できることがわかっています。
見た目への効果以外にも良いことがあるのですか?
タキザワ
タキザワ
山﨑先生
山﨑先生
例えば、今回ご紹介した論文でも注目されていた咬筋は、過緊張や歯ぎしり、噛み締め癖がある場合に睡眠の質を悪化させるといわれています。鍼治療で咬筋を緩められるということは、睡眠の質を向上させたり、表情筋と関連するセロトニンの代謝にも影響を与える可能性がありますので、心身を併せた総合的な美容効果にもつながるのではないかと思います。
咬筋を緩めると、睡眠やメンタルにも良い影響を与える可能性がある。
タキザワ
タキザワ
山﨑先生
山﨑先生
それ以外にも、側頭筋やオトガイ筋の緊張は咬筋同様に睡眠の質に影響するといわれています。特に、オトガイ筋が緊張している場合には睡眠中に覚醒脳波が生じやすくなりますので、睡眠深度とも強く関連すると考えられています。これらの筋肉を鍼刺激で緩めることで、良質な睡眠が得られやすくなります。良質な睡眠は成長ホルモンの分泌を促し、結果的に肌の状態を改善することにもつながります。
「美容鍼灸で睡眠の質が良くなる、良質な睡眠で美容効果が高まる」みたいな説明をすると、美容はもちろんトータルに鍼灸の価値が表現できそうですね。
タキザワ
タキザワ

顔面から肌、肌から内臓へ

山﨑先生
山﨑先生
顔面の筋肉を緩めることは睡眠を通して全身の健康状態に影響するのですが、更に最近では、肌を健康な状態に保つことは内臓機能とも関連すると考えられており、詳細が明らかにされつつあります。特に腸と皮膚の関連は「腸皮膚相関」と呼ばれ、研究報告が増加してきています。
以前の「学び」で腸と脳の相関の話がありましたが、腸は皮膚ともつながりがあるんですね。具体的にはどんな研究が増えているんですか?
タキザワ
タキザワ
山﨑先生
山﨑先生
特に皮膚の炎症と腸の炎症が関連しているという報告が注目されていて、過去の報告では実際に、乾癬を持つ患者さんと炎症性の腸疾患を持つ患者さんで、同じような腸内フローラをもつことが報告されました(文献3)。
皮膚疾患と腸疾患、一見違う症状に見えるけど腸内フローラは似ているんですね。
タキザワ
タキザワ
山﨑先生
山﨑先生
この結果は皮膚と腸内環境の関連を示すものであり、現在では、皮膚を健康に保つことが内臓を含めた全身的な健康にも影響するかもしれないと考えられています。逆に、腸内環境を整えることで皮膚のバリア機能が保持され、結果的に肌荒れがおきにくくなることも報告されています。

顔の筋への施術が全身の健康と美容につながる

山﨑先生
山﨑先生
筋緊張の緩和がセロトニン代謝、脳波に影響し、結果的に良質な睡眠からホルモンや腸内フローラにつながるとすれば、その最初のステップである表情筋の緊張緩和に鍼刺激が役立つことはとても意義深いことです。さらに、皮膚が整うことで内臓の機能も整う可能性が示されたのであれば、美容鍼灸の可能性は大変広く、本当に心身の美しさにも踏み込んでいける可能性があります。
外見の美しさのためだけのものではないと思うと、美容鍼灸のさまざまな可能性がもっと見えてきそうです。
タキザワ
タキザワ
山﨑先生
山﨑先生
今後、美容鍼灸の役割は「外見的な美しさ」から、「心身の総合的な健康と美しさ」になっていくでしょう。我々鍼灸を学ぶ者も臨床家、研究者問わず、そのような広がりを意識して治療や学びを深めていくと、美容鍼灸はより良い方向へ進んでいけるのではないかと思います。

 

参考文献
Mieko Ogino, Megumi Iijima, Yukinori Okada, Itsuko Okuda. Effect of Facial Acupuncture Stimulation: MRI-Based Masseter Muscle Volume Analysis and Questionnaire Evaluation. Aesthetic Surgery Journal Open Forum, Volume 6, 2024, ojae109, https://doi.org/10.1093/asjof/ojae109

文献1
Hossein Haghir, Mohammad Javad Yazdanpanah, Seyed Kazem Farahmand, Majid Khadem-Rezaiyan, Hoda Azizi. Is Acupuncture Effective in Diminishing Frown Lines? Evidence From a Randomized Controlled Trial. J Cosmet Dermatol. 2025 Apr 7;24(4):e70144. doi: 10.1111/jocd.70144

文献2
三砂雅則, 山崎翼, 佐藤万代, 伊藤和憲. 美容鍼灸施術が頬部皮膚のリフトアップに与える効果-ランダム化比較試験-. 日本未病学会雑誌. 31(1):8-14,2025.

文献3
Hiroki Kiyohara, Tomohisa Sujino, Toshiaki Teratani, Kentaro Miyamoto, Mari Mochizuki Arai, Ena Nomura, Yosuke Harada, Ryo Aoki, Yuzo Koda, Yohei Mikami, Shinta Mizuno, Makoto Naganuma, Tadakazu Hisamatsu, Takanori Kanai. Toll-Like Receptor 7 Agonist-Induced Dermatitis Causes Severe Dextran Sulfate Sodium Colitis by Altering the Gut Microbiome and Immune Cells. Cell Mol Gastroenterol Hepatol. 2018 Sep 25;7(1):135-156. doi: 10.1016/j.jcmgh.2018.09.010.

文:山﨑 翼
編集:サイトウ
撮影:ツルタ
(2025.11.25公開)

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