鍼灸師:手塚 幸忠の5冊

鍼灸治療基礎学〜十四経絡図譜解説〜

■ 代田 文誌(著)
■ 医道の日本社(2019年)(新装版)

私が学校で経絡経穴の授業を担当する際、自分の経験を全て投入しようと思い、今までの治療で効いたツボなどを列挙してみた。
しかし、無名の教員がいくら「これ効くんだよ!」と言っても説得力がない。

そこで、「〇〇という有名な人の本にはこう書いてあるよ。」と説明し、説得力のある内容を示しつつ、「私も使ってみたらこんな効果もあったよ」と言えば、私を信じる人は参考にするし、信じない人は本のことが勉強になるからいいだろうと考えた。
家の本棚に眠っていた、いくつかの経穴本を引っ張り出し、引用することにした。

そして愕然とした。

「すべて本に書いてある…」

私が付け加えることなんて、ほとんどないのだ。

特にこの『鍼灸治療基礎学』は秀逸で、各経絡の病証と、そしてそれぞれのツボの主治症、そして古典ではこのように書いてあるということが、1穴1穴懇切丁寧に書かれている。私が効くと思った効果もほぼ全て書いてあった。

この本は昭和の有名な鍼灸師澤田健先生の弟子代田先生が、澤田先生がおこなっていた治療を見学してそこから得た知識を一冊の本にまとめたものだ。
だから目の前で治療して治ったという事実を見て、さらに自分でも試してみて効果のある経穴を紹介しているので、どれも非常に参考になるし、実際に効果がある。

この本の面白いところは、師匠である澤田先生の考えが間違っていると感じるところは素直に「誤りである」と指摘しているところである。
またその逆に非常に良く効くツボは「実に妙である」と感情をこめて書いてあるのが良い。そしてまたこのツボが実に効くのである。

治したい症状に効く経穴を調べるだけでもいいが、できれば総論や活用編を読んでもらいたい。鍼灸に対する考え、古典に対する考え、経穴運用の方法などが書かれていて、非常に参考になる。
そして全てを読み終わった時、鍼灸の奥深さ、楽しさを実感できるようになると思う。

私の座右の書の中でも一番大切な本である。

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