【ハトマ。レポ】「鍼灸業界のジェネレーションギャップ」/横山 奨先生・松田 博公先生

こんにちは!ハリトヒト。編集部のさまんさです。

2019年10月27日に「ハリトヒト。マーケット」、通称「ハトマ。」が開催されました。
今までのハリトヒト。インタビューに応えてくださった、内原拓宗先生、赤星未有希先生、横山奨先生、松田博公先生が登壇し、75名の参加者にお集まりいただきました!

今回のハリトヒト。は「ハトマ。」のイベントレポートです。
3回の講演ごとに、順次まとめてまいります。

今回の「ハトマ。」では、答えのない話題をふんだんに語っていただきました。
ほかの勉強会では、講義という形で、ある一定の答えや結論が用意されていることが多いですが、「ハトマ。」ではそうではありません。
鍼灸業界への興味や思考が膨らみ、参加者の一人ひとりの心のなかで、なにかがスタートするような会でした。

ハリトヒト。のキャッチコピーは『「知らない」と気付いた。それは「知りたい」のはじまり。』
その気持ちをのせて、レポートできればと思います(^o^)♪

「鍼灸業界のジェネレーションギャップ」/横山 奨先生・松田 博公先生

ひとつめのレポートは横山 奨先生と松田 博公先生による「鍼灸業界のジェネレーションギャップ」です。

おふたりの共通点は「鍼灸業界を俯瞰し、現状をレビューする」という経験をお持ちであること。
横山先生の研究、そして松田先生の著書『鍼灸の挑戦』『日本鍼灸のまなざし』は、そういった視点で積み重ねられています。
それを象徴するかのように、当日、横山先生は「日本鍼灸を俯瞰する」というスライドを作ってきてくださいました。

おふたりが、過去、現在、そして未来をどのように見ているのか。
30代と70代の鍼灸師の間に存在する「違い」。
そして「共通点」を探る機会になればと思い、お話していただいています。


日本鍼灸のアイデンティティとは?

1つ目の話題は「日本鍼灸のアイデンティティ」でした。
横山先生もご登壇された、昨年の日本伝統鍼灸学会におけるシンポジウムのつづきと言ってもいい内容だったかもしれません。
日本伝統鍼灸学会の広報部長、小貫先生のインタビューでも語られています。

横山先生
横山先生
「日本鍼灸はコレです!」と言える人はいますか? 誰も答えられないんです。
ただ教育課程において、ノウハウや「治療」の定義が均一化されてきているような感覚があります。
日本伝統鍼灸学会において7年間、シンポジウムなどで話されているが、答えは出ていない。
本来は日本鍼灸とはなにかを話すうえで、日本の文献だけでは語れない。
中国や韓国の鍼灸と比較研究をおこなっていないから、浮かび上がらないのではないかと僕は考えている。
松田先生
松田先生

この問いを考えるときにいつも思うのが『「日本鍼灸とはこうである」と誰かが定義したものに対して、みんな「うん、そうだね」と納得するような状況ではないなぁ』ということです。
「対外的に説明する必要性はあるものの、誰も定義できない」という問題がそこにあって、研究者であるおふたりも、個人的な考え方はあるものの、確固たる答えについては語られませんでした。
ただ、30代の横山先生の「近年の教育課程によって均一化されてきたような印象がある」という発言は「日本鍼灸のアイデンティティ」が統一されていく可能性を示唆しているかもしれません。
それはのちほど語られる教育論につながっていきます。

東洋医学と自然治癒力は、現代にマッチするのか?

2つ目の問いは「東洋医学的な概念が、現代の医療にマッチするのか」というお話でした。
松田先生が電車の中で耳に挟んだ「かばんのなかにいつも鎮痛剤とかぜ薬が入っている」という会話の内容に、自然治癒力という概念が日本の社会で薄れてきていることが表れていました。

横山先生
横山先生
「昔は自然治癒力、邪気はもっと身近なものだったようだが今はどうでしょう?
そもそも自然治癒力などの東洋的な考え方が、果たして現代の鍼灸に必要なのでしょうか?
日本の鍼灸医学において、自然治癒力は最も大切で、鍼灸師が治すのではなく、鍼灸のちからを借りて、患者自身が患者の力で治すものと考えていた。
鍼灸師のなかに自然治癒力という概念がなくなれば、鍼灸師自身が商売あがったりなはずだけど、そう感じないのはジェネレーションギャップかも。
松田先生
松田先生


鍼灸学校では健康の概念や、生理学や病理学を、「西洋医学的」「東洋医学的」にそれぞれ学ばないといけません。
目の前に横たわる一体のからだを、ふたつのまなざしで見つめる必要があります。
この二重構造を受け入れることを学生に求めるのが、鍼灸教育のあり方です。
卒業後、鍼灸師として社会へ出てみると、その二重構造は一般的ではないことを知ります。
学生のときに当然のように学んだ「自然治癒力」という言葉を、もう1度見つめ直すきっかけとなった時間でした。
横山先生も東洋医学的な考えを大切にされている立場ながら、するどく実状に切り込んでくださったように思っています。
「鍼灸師がこういった話をしたり、聴く機会が少ないことに問題があるのではないか」という指摘もありました。

誰もが「鍼灸師」になれるわけではない?

ほかにもいくつかのトピックがありましたが、もっとも印象的だったのはこの話題だったのではないでしょうか。
後日アップする予定の内原先生の講義とも重なる部分があり、大変考えさせられる内容でした。

鍼灸学校に入れば、みな鍼灸師になれて、幸せな人生を歩めるという幻想は、鍼灸学校が経営戦略として作りだしたもの。
ひとの命にかかわる仕事に就くのに、向き不向きや才能、努力の違いがあるのは当然で、誰もが「鍼灸師」になれるわけではない。
以前のジェネレーションは、鍼灸学校に期待せず、思想や技術など学校にないものを仲間を集って自主的に学ぶ努力をした。
松田先生
松田先生
横山先生
横山先生
スター性のある鍼灸師、たとえばイチローのような鍼灸師に誰もがなれるわけではないのが現実。
スポーツの世界においても同じことが言えるし、自分自身がそのような経験をしてきました。
だから、現在の鍼灸の教育課程において、鍼灸師のレベルが均一化され、その上で経営セミナーなどで「鍼灸師として生きていく術」を身につけることは悪いことではないと僕は考えています。
そして、そのためには大きな教育ビジネスの仕組みも必要だと思っています。

松田先生は、鍼灸師になるために悩み迷っているのは、昔も今も皆同じだとおっしゃられます。
この点においてジェネレーションギャップは存在しないのでしょう。
ただ、横山先生がおっしゃられるように、若手はこれから鍼灸師として生きるために、取り組む姿勢や方法を変化させて対応しようとしています。
その部分でジェネレーションギャップが発生しているのかもしれないと感じました。


【おさらい】
① 日本鍼灸のアイデンティティとは?
② 東洋医学と自然治癒力は、現代にマッチするのか?
③ 誰もが「鍼灸師」になれるわけではない?

長年進行系で議論されている「日本鍼灸のアイデンティティ」。
しかし、いまを生きる鍼灸師が、それぞれのトピックについてどう考えるかによって、「これからの日本鍼灸のアイデンティティ」は変化していくのではないのでしょうか。
現状、鍼灸や東洋医学に対する考え方や取り組み方は、すでに変化が始まっています。
明確なジェネレーションギャップは、いまはまだ見えないかもしれませんが、今後明らかになってくる可能性があるのではないか、と感じました。

もともと仲の良いおふたりの先生が、このように鋭く議論してくださったことに感謝しております!

松田先生の「自分にしかできない挑戦 特別講義編」近日公開!

「鍼灸業界のジェネレーションギャップ」に登壇してくださった松田博公先生は、2019年11月23日、24日に開催される「日本伝統鍼灸学会 学術大会」において、「中国伝統医療の宇宙論 『黄帝内経』千年の定説を覆す」というタイトルで教育講演されます。

その教育講演に関連して、ハリトヒト。では、インタビューの番外編「自分にしかできない挑戦 特別講義編」を近日公開いたします!
ぜひお楽しみにしてくださいね(^o^)
→11/15公開いたしました!

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