今回の学びは、「MOH:medication-overuse headache(薬剤の使用過多による頭痛、薬物乱用頭痛)」がテーマです。
2023年3月に放送されたNHK『東洋医学ホントのチカラ 心と体を整えるSP』でも、MOHに対する鍼治療が取り上げられました。
今、鎮痛薬の使い過ぎによって引き起こされる頭痛(MOH)治療の選択肢として、鍼治療が注目されています。
執筆は、『東洋医学ホントのチカラ』にMOHのパートで出演された、日本鍼灸理療専門学校附属鍼灸院、(一財)東洋医学研究所 主任研究員の菊池 友和(きくち ともかず)先生です。
いただいた原稿を、ハリトヒト。編集部が対談方式に再構成しています。
菊池 友和(きくち ともかず)先生
【略歴】
注文住宅の施工管理業務に従事
左眼失明、右眼網膜剥離などの手術を繰り返すも緩解せず1999年 埼玉県立盲学校専攻科理療科入学
2002年 埼玉医科大学東洋医学科研修生(2004年修了)
2003年〜現在 (医)パークヒルクリニック鍼灸外来(非常勤)
2004年〜2006年 埼玉医科大学 東洋医学科(非常勤)
2006年〜2021年 埼玉医科大学 東洋医学科常勤職員、同総合医療センター麻酔科ペインクリニック、同国際医療センター支持医療科、同かわごえクリニック東洋医学科などを兼担
2011年〜2021年 埼玉精神神経センター神経内科(非常勤)
2021年〜現在 日本鍼灸理療専門学校に入職、同校附属鍼灸院に勤務
2022年〜現在 東洋医学研究所 主任研究員
注文住宅の施工管理業務に従事
左眼失明、右眼網膜剥離などの手術を繰り返すも緩解せず1999年 埼玉県立盲学校専攻科理療科入学
2002年 埼玉医科大学東洋医学科研修生(2004年修了)
2003年〜現在 (医)パークヒルクリニック鍼灸外来(非常勤)
2004年〜2006年 埼玉医科大学 東洋医学科(非常勤)
2006年〜2021年 埼玉医科大学 東洋医学科常勤職員、同総合医療センター麻酔科ペインクリニック、同国際医療センター支持医療科、同かわごえクリニック東洋医学科などを兼担
2011年〜2021年 埼玉精神神経センター神経内科(非常勤)
2021年〜現在 日本鍼灸理療専門学校に入職、同校附属鍼灸院に勤務
2022年〜現在 東洋医学研究所 主任研究員
【学会など】
全日本鍼灸学会(諮問委員、編集委員、教育研修委員、認定鍼灸師)、日本頭痛学会会員、日本自律神経学会会員、日本東洋医学会、現代医療鍼灸臨床研究会(理事、広報委員)、日本鍼灸師会(研修委員)
全日本鍼灸学会(諮問委員、編集委員、教育研修委員、認定鍼灸師)、日本頭痛学会会員、日本自律神経学会会員、日本東洋医学会、現代医療鍼灸臨床研究会(理事、広報委員)、日本鍼灸師会(研修委員)
MOHに鍼治療が期待されている
鍼灸院に来る患者さんの頭痛といえば、緊張型頭痛や片頭痛というイメージがあります。
ゆうすけ
菊池先生
そうですね。一般に鍼灸臨床の対象となりやすいのはそれらの一次性頭痛です。『頭痛の診療ガイドライン2021』でも、緊張型頭痛や片頭痛の予防や発作に対する鍼治療が推奨されています。
ガイドラインが肯定的なのはうれしいです。その『頭痛の診療ガイドライン2021』に、菊池先生の論文が引用されていますね。
ゆうすけ
菊池先生
執筆した論文が診療ガイドラインに引用されるのは、1つの目標でした。埼玉医科大学の山口智先生のご指導もあって、私たちの論文は2編も¹⁾²⁾引用していただけました。
おめでとうございます。ところで今日のテーマの「MOH」ですが、正直あまりなじみがありません。
ゆうすけ
菊池先生
MOHとは、鎮痛薬の使用過多によって起きる二次性頭痛です。『頭痛の診療ガイドライン2021』に、MOHの鍼治療について「効果が期待される」と記載されています。このようにMOHの鍼治療が注目されていることを多くの鍼灸師のみなさんに知ってほしいと思い、今回は「学び」のテーマに選びました。
薬剤の使用過多の基準
MOHって、どのような疾患ですか。
ゆうすけ
菊池先生
もともと頭痛持ちの患者さんが鎮痛薬などを使い過ぎることによって、新たな頭痛が出現するか、もともとの頭痛が著しく悪化する状態です。もともとの頭痛のほとんどが片頭痛または緊張型頭痛、あるいはその両方で、MOHは頭痛が月に15日以上あることが前提になります。
月に15日以上の頭痛とは、かなり重症度の高い患者さんに起きるということですね。
ゆうすけ
菊池先生
3カ月を超えて頭痛が1カ月に15日以上ある患者さんの半数以上はMOHであるといわれています。また、片頭痛の慢性化の最も一般的な理由は薬剤の不適切な服用であると考えられているんですよ。
たびたび頭痛に苦しんでいて、鎮痛薬が手放せないような患者像が浮かんできました。
ゆうすけ
菊池先生
慢性的な頭痛があるにもかかわらず、市販の頭痛薬でなんとか頑張って生活している人や、急性期治療薬を予防目的に服用するなど、処方薬であっても用法を守っていないケースは注意が必要です。
薬剤の使用過多とは、具体的にどういう状況ですか。
ゆうすけ
菊池先生
使用する薬剤によって異なりますが、片頭痛治療薬のトリプタンなどであれば1カ月に10日以上、NSAIDsなどの市販薬も含む鎮痛薬であれば1カ月に15日以上で、それぞれ3カ月を超えて服用していることです。
使用過多かどうかは、服薬した総量ではなく、服薬日数が基準になるのですね。
ゆうすけ
菊池先生
はい、服薬日数が重要です。多くの患者さんは、頭痛の原因が薬の飲み過ぎと知ると、飲んだ薬の総数を気にするようになると感じています。しかし、痛みがある時は我慢せず、医師の指示通りに服薬し頭痛を消失させることも必要なんですよ。
MOH患者はどれくらいいるのか
MOHの患者さんって、どれくらいいるのでしょうか。
ゆうすけ
菊池先生
いまのところ日本でのMOHのまとまった疫学調査のデータはないのですが、海外では一般人口の約1〜2%と推定されていて³⁾⁴⁾、中年層に多く、女性が7割を占めるとされています。ただし調査結果は国によってばらつきがあるので注意が必要です。
約1〜2%ということは、鍼灸院では珍しい疾患と考えられますか?
ゆうすけ
菊池先生
必ずしもそうではありません。慢性連日性頭痛の25〜30%がMOHで、頭痛外来などの専門外来の患者さんの30〜50%はMOHといわれています。
なるほど。頻度の高い頭痛患者さんの中では、MOHは珍しくないのですね。
ゆうすけ
菊池先生
コロナ禍におこなわれた興味深い調査があります。新潟県糸魚川市の児童・生徒の75.9%にあたる2,489人を調査したところ、小学生の頭痛、片頭痛、MOH有病率はそれぞれ26.5%、4.9%、0%。中学生では40.5%、11.3%、0.4%。高校生では51.0%、16.2%、1.5%という結果が出ました。
高校生の1.5%がすでにMOHに陥っているとの調査があるんです⁵⁾。
高校生の1.5%がすでにMOHに陥っているとの調査があるんです⁵⁾。
高校生でそんなにいるとは驚きました。やはり鍼灸院での鑑別も大切になるでしょうし、適切な対応ができたらいいですね。
ゆうすけ
菊池先生
そうなんです。鍼灸院もプライマリーケアの場になりうると考えられるので、例えばMOHが疑われる患者さんが来たら専門医に紹介するなど、鍼灸師の役割を果たしていくことが大切です。
NEXT:鍼治療は効果が期待される
1
2