「鍼灸師の求人」出す前に知っておきたいルール

「スタッフを募集したい鍼灸院」と「勤務先を探している鍼灸師」を結びつける重要な役割を担う「求人票」や「求人広告」。
記載されている院の情報や条件などは、求職者にとって応募を決める大切な判断材料になります。

じつは求人票などに労働条件を記載するときには、守らないといけないルールがあります。
NG表現を使ってしまうと応募効果に悪影響がでてしまうだけでなく、院のイメージに誤解を招きかねません。

そこで求人票や求人広告を出すことに慣れていない院も安心して募集の発信ができるように、鍼灸業界版の求人表現NG例を紹介します。
守るべきポイントをおさえて、魅力的な求人票をつくっていきましょう。

なお、本記事は弁護士の小笠原憲介先生に監修をお願いしました。

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①性差別表現

労働者の募集や採用で、性別を理由とする差別は禁止されています(男女雇用機会均等法)。

性別を理由に排除する表現

NG例 改善例
主婦歓迎 主婦(夫)歓迎
女性限定・女性鍼灸師歓迎 女性活躍中・女性鍼灸師活躍中
※職場の現状を表現するのはOK

性別ごとの募集人数の記載

NG例 改善例
募集人数:男性2名、女性3名 募集人数:5名

性別で異なる条件の記載

NG例 改善例
施術スタッフ(男性)、受付スタッフ(女性) 施術スタッフ、受付スタッフ
男性(経験者)、女性(未経験可) 経験者歓迎もしくは経験不問
※性別で条件を変えるのはNG

性別で異なる情報提供や採用試験をおこなう記載

NG例 改善例
男性のみ実技試験あり、女性は説明会参加 説明会、実技試験あり

性別を限定して募集や採用から排除する表現

NG例 改善例
院長候補(男性歓迎) 院長候補・院長候補(男女)

 ②年齢差別表現

労働者の募集や採用で、年齢を制限する表現は禁止されています(雇用対策法)。

特定の年齢層を排除する表現

NG例 改善例
募集年齢:40歳まで ※年齢の表記はしない
20歳以上 年齢不問

特定の年齢層に対する条件の記載

NG例 改善例
○○歳以上(もしくは以下)の方は実技試験あり (全員に)実技試験あり

【例外】年齢制限をして募集・採用をおこなう場合
長期勤続によるキャリア形成を図る観点から、新規学卒者をはじめとした若年者などを期間の定めのない労働契約の対象として募集・採用する場合は、上限年齢を定めることが認められます(労働施策総合推進法)。
「対象者の職業経験について不問とすること」。また「新規学卒者以外の者にあっては、新規学卒者と同等の処遇であること」という要件を満たす必要があります。

NG例 改善例
30歳未満の方を募集(契約期間3年) 30歳未満の方を募集
※上限年齢を設定する場合、有期労働の募集はNG
45歳未満の方(臨床経験3年以上ある方) 45歳未満の方(経験不問)

下限年齢の記載
長期勤続によるキャリア形成を図る観点から、若年者などを期間の定めのない労働契約の対象として募集・採用する場合であっても、下限年齢を記載することはできません。
※ただし、特定の年齢層の就労が禁止・制限されている業務については例外が認められています。
※「○○年3月卒業予定の方を募集」のように、新規学卒者のみを募集する場合は、年齢制限には該当しないので認められる表現です。

NG例 改善例
18歳以上35歳未満の方 35歳未満の方
※下限年齢は記載しない
小笠原弁護士のアドバイス

求人の記載は、「年齢制限」ではなく「業務内容と必要な能力」を明示をすることが重要になります。
例えば、「重労働なので中高年には無理、35歳以下で募集しよう」というような考えは、思い込みかもしれません。
改善例として「鍼灸師(年齢不問)募集。1日に複数の患者さんに施術し、1人1時間以上対応するので、業務を継続するために持久力が必要です」のように、上限年齢の記載はせず、業務内容と必要な能力を明示することで、体力に自信のある中高年の施術者という貴重といえる人材から応募があるかもしれません。
また、「院長(自分)が40歳、その他スタッフも皆30代以下。業務上指導しづらいので新人は30代以下しか採らない」というような考えも、思い込みかもしれません。年上の部下はありえるし、意欲や人柄は年齢で判断できません。
例えば「40代院長が開業した鍼灸院です。担当者(30代)の指導のもと、受付業務とワード・エクセルを用いた一般事務ができる方」のように、業務内容と必要な能力を明示することで、年下の上司の指導を謙虚に受け入れる年長者が応募してくる可能性があります。年齢で排除することなく人柄や能力で考慮するのは、良い人材の採用につながるポイントではないでしょうか。
※おすすめ参考資料
「その募集・採用 年齢にこだわっていませんか?」厚生労働省・都道府県労働局ハローワーク(https://www.mhlw.go.jp/content/000708105.pdf

③特定の人を差別・優遇する表現

特定の人に対する差別的な意図で記載された表現や特定の人を傷つける表現は、「差別表現」にあたるため使ってはいけません(労働基準法)。差別意識の有無にかかわらず、受け取る側が不快に感じる表現は避けましょう。

NG例 改善例
○○県にお住まいの方 ※出身地や居住地の特定はしない
コミュニケーション能力が高い人 コミュニケーションを取りながら施術ができる人
※性格ではなく、個人の能力に関する記載
※視力に関する差別的な表現 ※視覚障害者が一般的な表現
視覚障害者のみ 視覚障害者が活躍中
※現在の状態を表す表現はOK
ワクチン接種必須 ワクチン接種推奨

④実態と異なる好条件

あえて好条件を記載して労働者をだます行為は禁止されています。また、最低賃金を下回っていたり法定労働時間を超える就業時間など、法令違反の求人を出してはいけません(労働基準法 他)。

NG例 改善例
(実態は違うのに)初任給30万以上 ※本当のことを書く
(実際はアルバイト・パートなのに)正社員 ※嘘をつかない
時給600円 ※最低賃金は厳守
勤務時間 8:00~22:00 ※労働時間の上限について調べましょう

※求職者をだます行為には罰則があります
求人において、虚偽の広告、または虚偽の条件を提示した場合には罰金刑が科されることがあります。

職業安定法が改正され(2022年10月1日施行)労働者の募集をおこなう際のルールが変わりました。
求人企業に対して「求人情報」や「自社に関する情報」の的確な表示が義務付けられます。
厚生労働省の求人企業向けお知らせ
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000984586.pdf

番外編

今回は求人のNG表現を紹介しましたが、もちろん求職者に明示しなければいけない労働ルールも定められています。
2024年4月から、求職者への労働条件明示のルールが変わりました(職業安定法)。
詳しくは、下記のリンクを参照してください。
https://www.mhlw.go.jp/content/001114166.pdf」(厚生労働省HP)

まとめ

禁止表現に注意しながら求職者を惹きつける求人票や求人広告をつくる。
性別や年齢、差別などの禁止表現を避けることは、求人を出すうえで守らないといけないルールです。
ポイントを理解して、禁止表現を使用していないか確認するようにしましょう。
特に大切なのは、業務内容と必要な能力などを明示することです。

そして、虚偽の好条件を記載する行為は、鍼灸業界として勤務のキャリア形成を諦める風潮につながりかねません。
なにより求職者とのトラブルやミスマッチを防ぎスムーズな採用につなげるためにも、求人は正確に最新情報を記載しましょう。

監修 小笠原憲介 弁護士
所属 馬車道法律事務所

文:ツルタ
(2024.7.19公開)

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