漢方概論
■ 呉竹学園 ※現在は絶版 |
本書は、藤木俊郎先生と島田隆司先生による昭和 48 年の序文が附される、漢方概論の教科書です。
序文によれば、北京中医学院試用教科書『内経講義』の編目に基づき、「第 1 篇基礎理論」、「第 2 篇臓象」、「第3 篇経絡・経穴」、「第 4 篇病因・病証」、「第 5 篇鍼法」、「第 6 篇治療原則」から構成されています。
「第 1 篇基礎理論」「第 1 章漢方の考え方の特長」「第 1 節初心者のために」には、次のように記されています。
「鍼灸の実践を志す者にとって、漢方の理論を正確に把握することは、技術の練磨と同等に重要なことである。
鍼灸の技術はこの理論と共に育てられ、伝えられて来た。それ故、この理論を無視することは、二千年間の貴重な医療実践の経験を正しく継承することを不可能にしてしまう。また、鍼灸を更に発展させるためには、この理論を正しく理解し、またその欠点を乗り越えて進む以外にはない。鍼灸を志す者の中には、技術さえ上達すれば良いという者があるが、理論と実践は俱に不可欠である。……鍼灸は現代の薬のように、それ⾃⾝では何一つ⼈間に薬理作用のあるものではなく、単なる金属の一片であり、艾の一塊であるに過ぎない。その金属の一片を操って疾病に立ち向うのであるから、単に病気のことを知るだけでなく、⼈間というものを理解し、その⼈間同士で構成している社会を知り、またそれを成立させている⾃然環境迄も理解しなければならない。」
鍼灸医学の発展において、理論と実践の修得は必要不可欠とした上で、社会環境や⾃然も含めて、全⼈的に患者を理解しようとする、著者の医療⼈としての姿勢を見ることができます。
本書を執筆するにあたっての想いが、序文に次の通り記されています。
「ひとり我が国のみ、⾃国の伝承医学を正しく評価し、これを制度的に認め、その発展をうながす努力をおこたって来た。鍼灸医学は、中国に発生して日本に伝わり、日本の国土と民族性によって磨かれ発展して来た日本の民族医学である。これを正しく承け継ぎ、さらに発展させることは私達の責務でもあろう。東洋の科学の方法をもってこの医学の内容を整理し、現代と未来に生かしていくことは、行き詰った現代医学への新たな道を示唆することにもなるし、これによって一億総半病⼈といわれる同時代の世代を救う道にもなろう。著したこの教科書は、この様な意味ではまだ非常に不十分なものであり、その緒に着いたというに過ぎない。今後、更に研究を深め、より充実したものにしていく心算である。」
近代以降、日本において東洋医学が正当に評価されず、十分な発展を遂げなかった状況を憂いていたこと、また鍼灸医学を発展させるべく、理論及び実践を両立させた、有意義かつ実用性の高い教科書の作成を試みたことを窺い知ることができます。
この文面には、日本の伝統鍼灸の発展に貢献された、先生方の数々のご業績の背景にある想いが表れているといえるでしょう。
このような先達の想いと営為を受け継ぎ、残された課題に取り組むことで、微力ながら日本の伝統鍼灸を継承し、啓発する一端を担えたらと願っています。