鍼灸師:加畑 聡子の5冊

江戸の読書会

■ 前田 勉 (著)
■ 平凡社(2012年)

会読とは、「複数の⼈が定期的に集まって、一つのテキストを討論しながら共同で読み合う読書・学習方法」(本書 p54)、つまり今でいう読書会のことです。

明治期以降、日本の教育は講義形式による画一的かつ一方向性の教授・学習方法が主流となり、読書にあたっては独りで黙読する読み方が一般的になりました。
その一方で、江戸時代の私塾や藩校においては、会読の場が設けられ、対等で⾃由な討論が行われていました。

本書では、会読が江戸時代のいつ頃発生し、私塾や藩校の中でどのように展開したのか、江戸前期の儒学者・伊藤仁斎から荻生徂徠に始まり、幕末の志士とされる水戸藩の藤田東湖や長州藩の吉田松陰らの学習方法を例に挙げて、論考されています。
会読によって培われた、対等で⾃由なディベートの経験と精神こそが、明治維新や⾃由民権運動の背景にあり、近代国家を成り立たせる政治的公共性を準備したことを窺い知ることができます。
そして会読が、「相互コミュニケーション性」「対等性」「結社性」の原理を持つとし、⾝分制度が厳格にしかれていた近世日本社会において、特異な学習の場であったことを指摘しています。

私が所属する日本内経医学会においても、会読形式の読書会が今もなお開かれています。(現在はオンライン形式ですが……。)
様々な立場や知識を持つ⼈達が、対等にコミュニケーションをとりながら、1 つの書を読解し討論するという点で、本書が指摘する会読の原理を満たすものであり、江戸時代の学習形式を継承するものであると考えています。

思い返せば、鍼灸学校時代、東洋療法学校協会学術大会の学生発表のため、初めて『黄帝内経』に出逢った時は、同級生と一緒に、わからないなりにあれこれ討論しながら読んでいました。
現代語訳中心とはいえ、難解な記載であるにも関わらず、興味をもって楽しく通読し、発表できたのは、苦楽を共にする仲間がいたからかもしれません。

東洋医学古典は、難解かつ深奥なものも多く、1 ⼈で読むと挫折しそうになることがあるかと思います。
そのような時こそ、尊敬する先生や気の置けない仲間達と会読形式で読解することで、新たな知見や解釈が得られるのではないでしょうか。
会読のような先⼈が培ってきた学習方法が、後世に継承されていくことを願って、今後も読書会を続けていきたいと思っています。

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