先人の想いを伝えたい/鍼灸師:加畑 聡子

鍼灸の効果をいかに科学的に裏づけるのか――。

何千年もの歴史を持つ伝統医学。その長い歴史を鍼灸師の立場から多角的に研究しているのが、北里大学東洋医学総合研究所の加畑 聡子(かはた さとこ)先生です。
「江戸時代の医学公教育」をテーマに日々、研究をおこなっていて、2019年には「山崎宗運の経穴学について—『釈骨』と「骨度折量法尺式」を中心に— 」の研究で、日本医史学会の富士川游学術奨励賞を受賞しました。
今、まさに注目の医史学研究者ですが、意外にもスタートは現代医学で、古典には「馴染みがなかった」といいます。
どんな経緯で、医史学の道へと進むことになったのでしょうか。そのきっかけや、医史学研究のやりがいなどについて、うかがいました。

加畑 聡子(かはた さとこ)先生

神奈川県横浜市出身
■略歴
成蹊大学 法学部 政治学科 卒業
呉竹鍼灸柔整専門学校 鍼灸マッサージ科 卒業
東京医療専門学校 鍼灸マッサージ教員養成科 卒業
二松学舎大学 大学院文学研究科 中国学専攻 博士前期課程 修了 修士(文学)
二松学舎大学 大学院文学研究科 中国学専攻 博士後期課程 修了 博士(文学)
■現職
北里大学 東洋医学総合研究所 医史学研究部 研究員
東京医療専門学校 非常勤講師
日本伝統鍼灸学会 理事・総務部部長
日本内経医学会 運営委員

 

鍼を初めて受けた場所で今、研究をしている

鍼灸との出会いを聞かせてください。
ゆうすけ
ゆうすけ
加畑先生
加畑先生
初めての鍼はここ、北里大学東洋医学研究所の鍼灸外来で受けたんです。
今勤めているところが、鍼灸と出会った場所でもあるんですか。
ゆうすけ
ゆうすけ
加畑先生
加畑先生
はい、偶然ですが、鍼を初めて受けた場所が今の職場です。すごい巡り合わせですよね。
その時、鍼を受けた理由というのは。
ゆうすけ
ゆうすけ
加畑先生
加畑先生
もともと健康にはすごく自信があったんです。でも無理がたたって、大学4年生の時に、原因不明の膝を中心とした全身的な関節痛に悩まされるようになってしまって。
鍼を受けてみてどうでしたか。
ゆうすけ
ゆうすけ
加畑先生
加畑先生
病院に行っても軽減しなかった痛みが良くなったんです。それまでは「自分の人生もう終わりだ」みたいな感じだったんですけど、価値観が180度変わりましたね。「鍼ってすごいな」と思いました。
そんなにも、大変だったのですね…。
ゆうすけ
ゆうすけ
加畑先生
加畑先生
けっこう重症で、大学卒業後の1年間は療養していました。周りが若くて元気な時に、ひとり療養しているのは結構しんどかったです。この先どうなるんだろうっていう不安の中で…。
北里で鍼灸を受けて人生が救われた。
ゆうすけ
ゆうすけ
加畑先生
加畑先生
そのとおりです。だから東洋医学には精神的にも助けられましたね、支えてくれた家族にも。これがきっかけで、鍼灸専門学校に進みました。

もともとは現代医学が好きだった

鍼灸学校に入る前から古典的な鍼灸に興味を持っていたのですか。
ゆうすけ
ゆうすけ
加畑先生
加畑先生
もともとは現代医学が大好きだったんですよ。入学したての頃は生理学や臨床医学各論を熱心に勉強していました。
意外です。『黄帝内経』などの古典はいつから始めたんですか。
ゆうすけ
ゆうすけ
加畑先生
加畑先生
1年生の終わり頃ですかね。ある日突然、学校の先生から「東洋療法学校協会の学術大会で『黄帝内経』について発表してください」って言われたんです。
受け身だったのですね。古典の印象はいかがでした。
ゆうすけ
ゆうすけ
加畑先生
加畑先生
「難しそう」とは思ったんですけど、読んでみたらすごくおもしろかったです。天人合一や、天地人三才とか、天と人が相応しているという思想に感動しました。
思想に感動というのを具体的に…。
ゆうすけ
ゆうすけ
加畑先生
加畑先生
悩んでいた症状も古典にヒントがあると思ったし、「天地と人が繋がっているなら、自然に抗わない生き方が大切なんだ」って考えられるようになったのは大きかったですね。
なるほど。
ゆうすけ
ゆうすけ
加畑先生
加畑先生
『黄帝内経』とはそこからずっとですね、その時は今より漢文も読めませんから、現代語訳を中心に読んでいました。古典には難病を治したりするヒントが隠されていると信じていたんです。

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