「気」の合う人がやって来る /鍼灸師:手塚 幸忠

開業鍼灸マッサージ師として日々臨床をおこない、表参道で治療院経営もおこないながら、教員としても教壇に立ち、新医協鍼灸部会の会長や日本伝統鍼灸学会の理事も務めるのが、手塚幸忠(てづか ゆきただ)先生です。
SEとしてのキャリアを経て、鍼灸業界へと身を投じた手塚先生。開業したての頃は、患者さんがほとんど来ない日々も経験したとか。

「いやあ、大変でしたよ…」と語りながらも、どこか楽しげな手塚先生に、これまでの歩みや、臨床家としてのやりがいについて、聞いてきました。

手塚 幸忠(てづか ゆきただ)先生

【略歴】
東京都出身
立正大学 英米文学科 卒業
東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科 卒業
東京医療専門学校 鍼灸マッサージ教員養成科 卒業
【現職】
表参道鍼灸マッサージ治療室 自然なからだ 院長
新医協鍼灸部会 会長/臨床実技講座 講師
東洋医学臨床勉強会 会長
関東鍼灸専門学校 講師
日本伝統鍼灸学会 理事/学術部 副部長

「SEの墓場」から脱出

多方面でご活躍ですよね。あちこちでお名前を見かけます。
タキザワ
タキザワ
手塚先生
手塚先生
ありがとうございます。キャリア的にも、そろそろ今までの経験を業界に発信する側にならないといけないなという気持ちもあって、来た依頼はなるべく受けるようにしています。
というのは表向きで、実はただ断るのが下手なだけで、むちゃ振りから逃げられず、毎回アップアップしています…。
もともとはSE(システムエンジニア)をされていたんですよね。どうして鍼灸マッサージ師になったんですか?
タキザワ
タキザワ
手塚先生
手塚先生
大学卒業後はコンピューター関係の会社に就職しました。本来はテクニカルライティングというコンピューターの説明書を書く仕事をするつもりだったんです。ところが、配属がシステムデザインの部門で、SEの会社に出向させられてしまったんです。
仕事内容がだいぶ異なるということですか。
タキザワ
タキザワ
手塚先生
手塚先生
全く違います。地道に説明書を書くつもりだったのに、国家規模の大きな事業で、システムの設計からプログラミングまでをやることになりました。その過酷さから「SEの墓場」と呼ばれていましたね。
新卒でいきなり墓場行き…。
ツルタ
ツルタ
手塚先生
手塚先生
すごくつらかったです。プロジェクトの規模が大きすぎて終わりが見えないし、日々の仕事にも区切りがない。終電は当たり前で、夜中まで働く生活を4年半やっていました。
よく4年半も続きましたね。
ツルタ
ツルタ
手塚先生
手塚先生
「辛いから辞める」って言いたくなくて、「やりたいことが何か見つからないかな」と探していたんです。
そうこうしているうちに、身体がつらくて通っていたマッサージ院で、態度のすごく悪いおじさんに当たっちゃったんですよ。
踏んだり蹴ったりじゃないですか。
ツルタ
ツルタ
手塚先生
手塚先生
いや、それが施術を受けたら、めちゃめちゃ体が良くなったので、驚いてしまって。「一体、自分の身体に何が起きているんだろう?」と思ったのが、この世界に興味を持ったきっかけですね。
会社でつらい思いをしている人の気持ちは非常によくわかるので、自分でもそういう人達に何かできたらいいなと思ったんです。

ベーシックな経絡治療

新医協鍼灸部会には、どういう経緯で入会したんですか。
ツルタ
ツルタ
手塚先生
手塚先生
卵からかえったヒナが最初に見たものを親と思うのと一緒ですよ。専門学校に入って最初に見たチラシが新医協鍼灸部会でした。「痛くない鍼」って書いてあったんです。鍼を刺されるのが苦手だったので、マッサージメインで治療していこうと思っていた私も「ああ、これならいいかも」と思って、素直に入ってしまいました。
特別な想いがあって新医協を選んだわけではないんですね。
ツルタ
ツルタ
手塚先生
手塚先生
すごく古い会でデジタル化とは無縁だったのですが、私はコンピューターができたので、知らないうちにズルズル引き込まれていました。まだ2年生なのに役員にさせられて、ホームページを作らされたり、手書きだったテキストをWordで作り直しをしたり…。
大変そうだけど、前職の経験が活きましたね。
新医協の治療法について教えてください。
ツルタ
ツルタ
手塚先生
手塚先生
古いバージョンの経絡治療で、1本の鍼でやっていく感じですかね。小野文恵先生に学校で習った先生が多く、接触鍼もおこなっています。とはいえ、置鍼もすれば、刺入もします。「あまり特徴がない」って言うと、悪口みたいですけど…。
むしろ特徴のないスタイルって「王道」ともいえませんか。
ツルタ
ツルタ
手塚先生
手塚先生
実はそうなんです。ベーシックすぎて特徴が挙げづらい経絡治療ですね。この会を作った先生の一人が「あんまり○○方式を作らないようにしよう」と言っていた影響も大きいです。
何事も偏らないようにしているのかも。
ツルタ
ツルタ
手塚先生
手塚先生
そうですね。東洋医学的にバランスを取っていくことを重視していたので、共感が持てたのと、本当に優しい鍼なので自分に合っていました。あとは優しい人が多くて、ギラギラしている人がゼロだったので居心地がよかったです。

ピンチはピンチだった

臨床経験はどのように積んでいったんですか。
ツルタ
ツルタ
手塚先生
手塚先生
教員養成科に教えに来ていた先生が、「夏休みに開業ごっこをしてみたい人がいれば貸してあげるよ」と言って、銀座で使っていない治療院を貸してくれました。家賃を払わない代わりに、給与ももらえないシステムです。手を挙げたのが、僕を含めて3人だけだったので、そのメンバーでスタートしました。
開業の練習とは珍しいですね。実際にやってみてどうでしたか。
ツルタ
ツルタ
手塚先生
手塚先生
それが意外と患者さんが来たんですよ。治療院を貸してくれていた先生も「患者さんが来てるみたいだし、このままやってもいいよ」って言うので、最終的に権利をみんなで買い取って、3人で開業することにしました。
チャンスをつかみましたね。
ツルタ
ツルタ
手塚先生
手塚先生
ただ、家賃を自分たちで払っていない頃は、銀座なのに3,000円という安価で治療していたんです。しかも患者さんが来てない時は3,000円で1時間、2時間とやっていたんですよ。これじゃ家賃は払えないので、自分たちで経営するときに、6,000円に治療費を上げました。
その後はいかがでしたか。
ツルタ
ツルタ
手塚先生
手塚先生
全く患者さんが来なくなってしまって…。師匠に相談したら「来ないうちは勉強をしなさい」と言うので、毎日『素問』と『霊枢』を読んでいました。
それって「患者さんが来ないときは勉強していなさい、そのうち不思議と患者さんがやって来るようになるから」みたいなお話ですよね。
ツルタ
ツルタ
手塚先生
手塚先生
はい。それを期待したのですが、全くそんなことは起きませんでした…。本当に誰も来なくて涙しか出なかったです…。

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