東北の先生方の熱意を感じて、交流が生まれる学術大会に/鍼灸師:中沢 良平

2024年5月24日(金)〜5月26日(日)にかけて「第73回公益社団法人全日本鍼灸学会学術大会 宮城大会」が開催されます。場所は、初の開催となる東北の中心・宮城県仙台市。

テーマは「つながり、通じ、いかす鍼灸―多様性の探求と連携医療への展開―」。

大会副会頭の中沢良平先生は、「東北の先生方の熱意を感じて、交流を楽しんでほしい」といいます。副会頭講演もおこなう中沢先生に、今回の学術大会の見どころについてお話を伺いました。

中沢 良平(なかざわ りょうへい)先生

略歴
学歴
1981年 法政大学文学部日本文学科 卒業
1983年 日本鍼灸理療専門学校専科 卒業
現職
公益社団法人全日本鍼灸学会 理事 東北支部長
一般社団法人福島県鍼灸師会 監事 兼 相談役
福島県立医科大学医学部 非常勤講師
学校法人平成医療学園 福島医療専門学校 教育課程編成委員
一寸法師ハリ治療院 院長
所属医学会
一般社団法人日本プライマリ・ケア連合学会
一般社団法人日本東洋医学会
一般社団法人日本災害医学会
受賞
2017年 厚生労働大臣表彰
2019年 福島県知事表彰
信条
“地域・家庭医療としての鍼灸”
好物
年季の入った居酒屋で飲む地酒

学術大会で一押しのプログラムは?

全日本鍼灸学会学術大会が初めて宮城県仙台市で開催されるということで、とても楽しみにしています。今回の大会のテーマである「つながり、通じ、いかす鍼灸—多様性の探求と連携医療への展開—」には、どのような思いが込められているのでしょうか。
タキザワ
タキザワ
中沢先生
中沢先生
「IPE」という言葉を聞いたことはありますか。IPEは「Interprofessional Education」の略で、「多職種間連携教育」のことをいいます。様々な医療職とともに、仕事をする鍼灸師にとっては、重要なトピックといえるでしょう。
今大会会頭の高山真先生(東北大学大学院医学系研究科 漢方・統合医療学共同研究講座 特命教授)はIPEを推進しており、大会テーマ「つながり、通じ、いかす鍼灸—多様性の探求と連携医療への展開—」が生まれました。「鍼灸をいかに医療の中でいかすことができるのか」をみなで改めて議論する場となればと思います。
大会テーマに沿って、今回の学術大会では、医師、看護師、PT、OT、STを目指す学生さんに鍼灸を知っていただく試みもあります。さまざまな職種が集まった「教育の場」の提供を考えています。
なるほど。だから、ワークショップに他の医療従事者向け鍼灸体験があるんですね。
タキザワ
タキザワ
中沢先生
中沢先生
百聞は一見に如かずで、まずは体験してもらうことが重要かなと思いました。これまでは、こういう試みはあんまりおこなわれていないですよね。でもこれからは「医学会の中で鍼灸とセッションを持つ」、「鍼灸学会の中で医師向けのセッションを持つ」ということが、増えていくと確信しています。今回の学会がその流れをつくることができれば、うれしく思います。
ほかにも面白そうな企画がいっぱいありますね。一押しのプログラムは何ですか。
タキザワ
タキザワ
中沢先生
中沢先生
特別講演「慢性疼痛診療ガイドライン」 は、痛みに関する著書も出されている、伊藤和憲先生(明治国際医療大学鍼灸学部学部長・教授)が登壇します。ガイドラインの知識はアップデートしておかないと、他職種と連携する際に、行き違いを生じかねません。新しい知見を学べるという意味では、学会らしいプログラムで、ぜひ多くの方に聞いてほしいです。
あとは、東日本大震災で被災した宮城での開催なので、震災関係のセッションも、ぜひ興味を持って聞いていただきたいと思っています。今回は初めて日本災害医学会からも後援をいただきました。
災害保健医療活動について、石巻赤十字病院で活躍された石井正先生(東北大学病院総合地域医療教育支援部 教授)が 特別講演もされるんですよね。
タキザワ
タキザワ
中沢先生
中沢先生
そうなんです。石井先生は宮城県の災害医療コーディネーターをされた災害専門のエキスパートとして、仙台や石巻で頑張られた先生ですから。ぜひこの機会に聞いていただきたいですね。
石井先生もそうですが、実技セミナーの先生たちが、東北に縁のある方が多いのかなと感じました。
タキザワ
タキザワ
中沢先生
中沢先生
そうですね。東北の先生方に発表や座長、司会をしていただく予定です。全日については、私は平成27年のふくしま大会の時に実行委員長を務めました。全国から先生方が集まってきて、様々な発表がおこなわれるというのは、地元にとっても大きな刺激になることを肌で感じました。
今回は、東北の中心である仙台に全国の先生方がお越しくださって発表されることで、地元も活気づきますよね。東北全体の鍼灸の発展にもつながるので、ぜひこれを機会に東北で活躍する先生方とみなさんが交流するよいきっかけになればと思います。
参加者にとってはもちろんですが、演者にとっても学術大会ってすごく学びになるものなんですね。ところで、今回は配信とかアーカイブはあるんですか。
タキザワ
タキザワ
中沢先生
中沢先生
一般演題以外の上級演題については、アーカイブの承諾を取れたものは、1ヶ月ほど配信する予定です。
私は特に実技セミナーを楽しみにしています。
タキザワ
タキザワ
中沢先生
中沢先生
実技も8演題あるので、結構多くそろえています。実技もアーカイブ配信の予定がありますが、ぜひ仙台に足を運んで参加して、会場で見てほしいですね。
そういえば、一般演題がまたポスター発表に戻りましたね。何か意図があるのでしょうか。
タキザワ
タキザワ
中沢先生
中沢先生
これは鈴木雅雄先生の提案なんです。学会の楽しさの1つに、発表者と受講者の距離の近さがあると思います。ポスター発表だと、終わったら名刺交換などをして親交を始める機会になりやすいんですよね。
確かに、学生からベテランまで同じ空間で、鍼灸の研究について意見交換するわけですから、貴重ですね…。
タキザワ
タキザワ
中沢先生
中沢先生
ベテランの先生方の発表はもちろんですが、学生や若手のポスター発表もまた、着眼点が面白いんですよね。演者と受講者の距離を近くして、学会の楽しさを存分に味わってほしいと思います。また、今大会では英語での発表もあります。そして、発表者には発表証明書が発行されるのも特色です。

プライマリ・ケアの視点で講演も

中沢先生は大会副会頭講演として、発表されるんですよね。講演タイトルが「家庭鍼灸医療学と鍼灸院経営」ということで、とても興味深いなと思ったんです。どういう意図で、このテーマにされたんですか。
ゆうすけ
ゆうすけ
中沢先生
中沢先生
鍼灸師って経営学を学ぶ機会がなかなかないですよね。それで、経営学を家庭医療学と合わせて取り上げてみたいなと思ったんです。地域に役立たなければ、鍼灸院は成り立ちませんよね。いくら腕が良くても、人間的な側面がおろそかだと、地域で鍼灸院を成り立たせるのは難しい。だから患者さんに寄り添う力っていうのが、経営学の中に入ると思うんです。治療技術だけじゃないんだよっていうことを改めて伝えたいなという思いで、経営学を取り上げました。
なるほど、経営学といっても人間性とか、患者さんに寄り添う重要性ということですね。「家庭鍼灸医療学」を取り上げた背景には、何かあるんでしょうか。「家庭鍼灸医療」と「医療学」というのは、あまり聞いたことがないワードなので気になりました。
ゆうすけ
ゆうすけ
中沢先生
中沢先生
私は日本プライマリ・ケア連合学会にも入っていて「家庭医療」がとても大事だと思っています。例えば医は「医学」と「医療」に分けられるので、それになぞらえれば鍼灸も鍼灸医学と鍼灸医療に分けられるんですね。ですが、鍼灸医療学という内容になってくると、扱う場がないのが現状なんです。家庭医療も家庭医療学という学問として存在するので、家庭医療学の内容を含めた鍼灸医療学について、プライマリ・ケアの視点でお話ししたいと思っています。
中沢先生ならではのテーマで、すごく聞いてみたいなと思いました。
ゆうすけ
ゆうすけ
中沢先生
中沢先生
ありがとうございます。鍼灸の治療技術だけではなかなか鍼灸院経営って成り立たないので、家庭医療学の知識が鍼灸院経営に役立ちます。家庭医療学の視点を持って、鍼灸院を営むことで、開ける道もあるんじゃなかと思っています。何かのヒントになれば嬉しいです。

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