どんなことでも任せなさい。地域の鍼灸院の役割
発表を聞く前からすでに勉強になっているんですが、中沢先生がプライマリ・ケアに行き着いた経緯についても、もう少し伺わせていただけたらなと思います。そもそもなぜ先生は、鍼灸師の道に入られたんでしょうか。
ゆうすけ
中沢先生
私は2代目なんですが、高校を卒業する時は国語の教員になりたかったんですね。大学も文学部の日本文学科に進んだのですが、ちょうど大学4年生の頃、母校に教育実習に行っているときに、親父がやっている鍼灸をまじまじと見る機会があったんです。そしたら、同じ先生でも、鍼灸の先生もいいかなって思うようになって。
家業って身近すぎて、その良さに気づくまでにちょっと時間がかかりますよね…。
ゆうすけ
中沢先生
それで大学卒業後、花田学園で鍼灸を学びました。親父の体調が悪くなったこともあって、卒業後はすぐに地元に帰って後を継ぎました。私は今年66歳になるんですけども、臨床歴はもう40年ぐらいになりますね。
お父さんが鍼灸をされている姿が、臨床の原点にあるんですね。
ゆうすけ
中沢先生
そうですね。鍼灸の持っている力を目の当たりにするとやっぱり魅力的ですよね。薬も使わないのに、なんでこんなに良くなるのかっていうのが、とても不思議でした。
鍼灸師になられてからは、現在につながるようなプライマリ・ケアに最初から興味があったんですか。
ゆうすけ
中沢先生
プライマリ・ケアの重要性は鍼灸学校の時から薄々わかっていて、鍼灸ってプライマリ・ケアを担う医療だよなっていう思いがありました。そのうち、福島県立医科大学に地域・家庭医療講座というのができたんですね。葛西龍樹先生が主任教授で来られて、地域医療、家庭医療について教えていたんです。たまたま講座が主催するいろんなセミナーに参加して、医学部生とか、若手の医師とかと一緒にプライマリ・ケアを学ぶ機会がありました。そこでやっぱり「鍼灸はプライマリ・ケアだよな」っていうことを実感して、かれこれずっと一緒に勉強させていただいています。
もともとプライマリ・ケアの重要性が薄々わかっていたのは、先生のご実家が鍼灸院だったことが影響しているんでしょうか。鍼灸が身近にあったからこそ、初期の風邪とか自然治癒力が重要な症状は鍼灸で診れるという実感がプライマリ・ケアに結びついたのかなと思いました。
ゆうすけ
中沢先生
おっしゃる通りです。やはり鍼灸師って家庭医的存在なんですよ。例えば地域に根差しておじいちゃんのことも知っている。お父さんお母さんのことも知っている。娘さんも孫の世代も知っている。4世代ぐらい診てることがありますよね。そういった4世代ぐらい診る医療って、現代医療だとなかなかないと思うんです。
ところで、地方での医療供給体制など、これから医療の維持がますます難しくなりそうですよね。
ゆうすけ
中沢先生
だからこそ、私たち鍼灸師の活躍の場があると思うんですよ。家族的な背景とか、社会的背景、職場関係など、患者さんのそれぞれの状況を把握して臨床するっていうのは、立派なプライマリ・ケア、家庭医療だと思います。あとは未病、いわゆる病気にならないための医療っていうのもありますよね。例えば介護予防の分野もプライマリ・ケアの分野だと思っていますので、私の鍼灸院では高齢者の転倒予防の運動教室も開いているんです。
先生の院には、あらゆる悩み持った患者さんがたずねてくるようなイメージがわきます。
ゆうすけ
中沢先生
鍼灸師の専門性が話題になることがあるんですけど、私は地域の開業鍼灸師は何でも治せるべきだというふうに思っています。やっぱり家庭医療専門みたいに、何でも相談に乗れる。「どんなことでも任せなさい」みたいな。介護から医療まで何でも相談できるような存在がいいんじゃないかと思っています。
昔ながらの鍼灸院って、地域の鍼灸に好意的な人たちから、とりあえず最初に頼りにされる存在だと思うんですね。先生はまさにそういう感じで、すごく素敵です。
ゆうすけ
中沢先生
ありがとうございます。医療連携に関してお話しすると、私は、体調が崩れたら鍼灸院にまずかかるのがいいと思っているんです。鍼灸をしても治らなければ病院を紹介するとか、地元の他の医師を紹介するっていう。
なるほど。鍼灸院の役割が増えれば、医療費の削減にもつながりそうです。
ゆうすけ
中沢先生
今回の大会テーマでもある「医療連携」というと「病院に就職する鍼灸師」をイメージする人がいるかもしれません。もちろん、病院の中での医療連携も重要です。しかし、それだけじゃないですよね。
開業鍼灸師としての医療連携…ですか。
ゆうすけ
中沢先生
そういうことです。地域で開業する鍼灸師としては、やはり資質の向上に努めて、それでできなかったら親しい医師に紹介するような医療連携を考えてもいいんじゃないかなと思います。
たくさんの患者さんを診てきたなかで、個別の疾患を診るのと、家庭医として患者さんそのものを診るのと、それぞれコツのようなものはあるんでしょうか。
ゆうすけ
中沢先生
全日本鍼灸学会の発表を聞くといつも実感しますが、私たちは本当にいろんな疾患を扱いますよね。整形外科疾患だけじゃなくて、内科疾患、耳鼻咽喉科疾患とか婦人化疾患まで……。幅広く横断的に診ることによって物が見えてくるので、好き嫌いなく何でも貪欲に学ぶことが大事だと思っています。
今回の学術大会で扱う個別の疾患っていうのも、1つ1つがつながってくるというイメージをするといいのですかね。学び方の1つの例を提示してもらったような気がします。鍼灸師を目指す学生に対しては、何か学び方のコツとかアドバイスのようなものはありますか。
ゆうすけ
中沢先生
全日本鍼灸学会東北支部や福島県鍼灸師会では、学生はワンコインで講習会に参加できるようにしているんです。安く受講できるところもあるので、そういうところに行ってどんどん学んでほしいと思います。今は福島県鍼灸師会では学生会員ができて、お金もかからずに受講できるんですよ。あとはとにかく色んな鍼灸院の門をたたいて、経験を積んでほしいですね。
「ハリトヒト。」でも、学生さんが鍼灸院を探しやすいように「フレンドリー鍼灸院マップ」っていう地図を出しているんです。いろんな鍼灸院を見ることは、将来の臨床に役立ちますよね。
ゆうすけ
中沢先生
医学教育の中で「Early Exposure」って言葉があるんですね。「早期臨床実習」という意味で、早めに臨床の場に立つと臨床に対するモチベーションがわくことがあると思うんです。
自分が学んでいることが、臨床に役立つとわかると、やる気も出ますものね。
ゆうすけ
中沢先生
そうなんです。だから、学生でも1年生の頃から臨床の場に立つ。「将来、私はこんなふうになるんだ」っていう具体的な姿がそこにあるわけですから。1年生の時からどんどんいろんな治療院の門をたたいて、臨床の場に立つことが大事だと思っています。
この記事を読んだ鍼灸学生が先生の院を見学したいと思ったら?
ゆうすけ
中沢先生
もちろん対応しますよ。まずは問い合わせの連絡をください。
仙台に足を運んで、交流を楽しんで
副会頭として、今回の学術大会に興味を持つ方たちに何かメッセージをいただけるとうれしいです。
ゆうすけ
中沢先生
もう「来てください」しかないです。手前味噌かもしれないですけど、面白い演題が揃っていると思うんです。宮城県の先生方が良いアイデアを出してくださって、充実した演題になっています。実技セミナーも充実していますので、ぜひ足を運んでご参加いただけたらと思います。仙台は交通の便が非常に良いところですよ。
本当に。東京からだと新幹線であっという間ですよね。
ゆうすけ
中沢先生
90分ぐらいで来れますよ。あと仙台空港からも結構アクセスが良くて、飛行場から仙台駅まですぐなんです。飛行場の出入り口が駅みたいな感じで、仙台駅から地下鉄に乗るんですけど5分かからないです。駅降りたらすぐ会場みたいになっているので。
会場もかなり便利なところにありますよね。
ゆうすけ
中沢先生
はい、便利です。それに、歴史的な史跡のある会場でもあるんですよ。
会場のある仙台国際センターのすぐ向かい側には、日本フィギュアスケートの発祥の地といわれる五色沼があります。それが仙台城の麓なんですが、仙台城は会場からちょっと坂を登るんですけど、15分ぐらいすると伊達政宗公の騎馬像があります。私も全国大会であちこちに行きましたけど、こんなに観光名所が近い場所ってそうそうありません。
ぜひ仙台の名所を巡ることも楽しみにしていただければと思います。
会場のある仙台国際センターのすぐ向かい側には、日本フィギュアスケートの発祥の地といわれる五色沼があります。それが仙台城の麓なんですが、仙台城は会場からちょっと坂を登るんですけど、15分ぐらいすると伊達政宗公の騎馬像があります。私も全国大会であちこちに行きましたけど、こんなに観光名所が近い場所ってそうそうありません。
ぜひ仙台の名所を巡ることも楽しみにしていただければと思います。
仙台で観光したり、おいしいものを食べたりするのも楽しみになってきました…。ポスター発表もありますし、ここ数年で1番交流が生まれそうな大会になりそうですね。
ゆうすけ
中沢先生
最近はコロナ禍の影響で人と人とのつながりがなかなか持てなかったので、ぜひ交流を楽しんでいただきたいと思います。東北の先生方も、熱い思いで教育や臨床に取り組まれている方ばかりです。そういった熱意を感じていただけたらうれしいです。
>> インタビューのダイジェストマンガはコチラ。
>>> 中沢先生の選んだ本はコチラ(本編の翌週公開予定)。
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