見返り検校
現代に生きる鍼灸師が現代の鍼灸治療について小説を書く、そうした鍼灸師でもあり小説家でもある方がいる。未上有二の『鍼灸日和』(角川書店)は、中村真一郎の『回転木馬』のような小説の組み立てで、章ごとに人物と場面が変わりおもしろい。確かに、そんな鍼灸師(体型も含め)いるよね♪みたいな感じで楽しく読める。
多くの小説好きの鍼灸師が知っているのは『鷹野鍼灸院の事件簿』シリーズを出している乾緑郎だろう。
今回は紹介したい本は現代物ではなく江戸時代の杉山和一を題材とした時代物小説『見返り検校』。型破りな剣法を身につけた検校だが内容も型破りだ。和一は実は…(書き出すとネタバレになるので)、当然フィクションの世界なのだが時代考証がしっかりしており、江戸時代の鍼灸師の臨床感が伝わってくる。仇敵に鍼治療をする場面があるのだが、和一は「痛みを和らげ衰えて死ぬことのないように診る」と申して施術を続ける。まさにそうだよな!現代にも通じる鍼灸臨床家の思いだと感じる。乾緑郎の臨床感だろうが、鍼灸治療は今も昔もプライマリ・ケアだと感じる場面である。
作者は鍼灸師ではないが、幕末明治時代を背景とした女性鍼灸師の小説として『鍼師おしゃあ』(河治和香.小学館文庫)もおもしろい。
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