集客のために「治る」とは言わない
実際に顔面神経麻痺の専門性を打ち出して開業してみていかがですか。
ツルタ
遠藤先生
患者さんが来るは来るんですけど「顔面神経麻痺を治したい」っていう方がすごく多いんです。でも鍼治療の目的は後遺症の予防と軽減なので、その話をさせていただくと、思っていたのと違うという印象を持つ方が多いようです。
「顔面神経麻痺は鍼灸で治る」って発信している院は結構ありますよね。それが影響して、あらゆる後遺症も治るような誤解を与えているのかな…。
ツルタ
遠藤先生
それはあると思います。治るって書かれちゃうと、患者さんとしては、やっぱりそっちに行きたいってなりますよね。私としては「治す」とは言えないので、そのことをちゃんと伝えると「他も行っていいですか」っていう患者さんは結構多いです。正しいと思って伝えているんですが、ちょっと患者さんのニーズと合わない印象があります。
これは本当に鍼灸業界の抱える大きな問題だと、僕は思っています。集客や売上のためならなんでもやるのか、もしくは単純に医学知識が不足しているのか…。
実際のところはわかりませんが、「鍼灸で顔面神経麻痺は治ります」っていう発信は簡略化し過ぎだと思います。そして、むしろ病的共同運動やこわばりの軽減に鍼治療は可能性があることを発信する院の方が少ないように感じてしまうんですよ……。
実際のところはわかりませんが、「鍼灸で顔面神経麻痺は治ります」っていう発信は簡略化し過ぎだと思います。そして、むしろ病的共同運動やこわばりの軽減に鍼治療は可能性があることを発信する院の方が少ないように感じてしまうんですよ……。
ツルタ
遠藤先生
ガイドラインに掲載されたことで、鍼治療が顔面神経麻痺そのものに効くと誤解している人がいるかもしれないなっていう怖さはあります。
整理すると、末梢性顔面神経麻痺の6割から7割は予後良好で回復していくんですよね。
だから、問題になるのはあとの3割から4割の予後不良例をどう見極め、いかに後遺症を残さないようにするか。
だから、問題になるのはあとの3割から4割の予後不良例をどう見極め、いかに後遺症を残さないようにするか。
ツルタ
遠藤先生
そうです。現在の麻痺の鍼治療は麻痺の回復過程で後遺症をいかに予防・軽症にさせるかが重要になります。
だから「治る、治した」って発信は違和感ありますね。予後について理解した上で、急性期に施術して自分が治したと主張しているのか…。
出るはずの後遺症が出なかった根拠がある、もしくは陳旧性の麻痺を治しているって意味なら、それは顔面神経麻痺を治せるって謳えると思いますけど。
出るはずの後遺症が出なかった根拠がある、もしくは陳旧性の麻痺を治しているって意味なら、それは顔面神経麻痺を治せるって謳えると思いますけど。
ツルタ
遠藤先生
タイミングが重要ですよね。実際に患者さんは「発症直後にどう対応したらいいか、どんな治療を選択したらいいか」という情報を探します。治療の第一選択が鍼灸院単独にはならないので…。まず病院に行って、次に「鍼灸治療はおこなっていいか、否か。そのタイミングは?」という疑問が出るのだと思います。だから、急性期に不安な人に「鍼灸で顔面神経麻痺は治る」って情報を見せるのは、どうなのかなって。
特に発症直後については、適切な治療を受ける機会を奪っている可能性すらありますね。今、顔面神経麻痺に対して鍼灸師や業界は勝負どころではないでしょうか。リアルな鍼灸院の発信がガイドラインとあまりに乖離していたら、今後改定される時にこのまま推奨されるとは限らないと思います。今ここでしっかり知識や技術を高める努力をしていければ、適切な対応ができる鍼灸師が増え、医療機関との連携も増え、患者さんはもちろん社会に理解が広がっていく気がします。
ツルタ
遠藤先生
今後はセミナーなどで学ぶ場面が増えたらいいですよね。やっぱり実技とかをやらないとわからなかったり、セルフケアの指導とかが意外と難しかったりするので。
セルフケアの指導が鍼灸師に広がるといいですね。ちなみに、施術をする際に気をつけた方がいいことはありますか。
ツルタ
遠藤先生
自然回復が存在する麻痺において、回復の促進よりも病的共同運動や拘縮といった後遺症の予防や軽減が主になると考えます。そして後遺症の発症には強い筋収縮が関与するといわれているので、発症初期から百面相のような強い筋収縮は禁忌になるということですね。
大変な病気だから、地道に進んでいきたい
開業鍼灸師としての3年間はいかがですか。順調に感じていますか。
ツルタ
遠藤先生
私の場合はすごく軌道に乗っていると感じることはなくて、コツコツやっていくしかないみたいな…。最初はちょっといろいろ焦って、経営とかコンサル的な話も聞いていたんですけど、ある時、これは地道に進むしかないなって切り替えました。学会発表をしたり指導士を取ったり、もう1回自分のやれることを見直そうと思ったんです。
自分を信じるのが正解だと思います。僕は相談を受けると、たいてい「自分を信じて頑張れ」って言います。自分を信じられなくなっていること自体がピンチではないかなと…。
ツルタ
遠藤先生
そうですよね。実はかなり路頭に迷ってフラフラしていたんですけど、3年目にして、もう1回ちゃんとやろう。自分の強みをちゃんと生かそうと思って、また1からやっているところです。
ちなみに、開業後は私生活とのバランスはいかがですか。
ツルタ
遠藤先生
今、子供が中3になったので、割と手が離れてくる歳というのもあって、今年は学会発表にも取り組みたいと思っています。
開業していて学会発表もしている方って貴重ですから、遠藤先生みたいな人が増えていくと心強いなって思います。
ツルタ
遠藤先生
あとは、顔面神経麻痺に対する鍼灸の正しい知識について、もっと表立って発信できるようにはなりたいですね。せっかく私の鍼灸院に来てくれた患者さんに、ここでならちゃんとした治療を受けられるって信頼してもらえる何かを先輩の先生たちに相談しながら作れたらいいなと思っています。
最後に、顔面神経麻痺に取り組むモチベーションについて教えてください。
ツルタ
遠藤先生
顔面神経麻痺の患者さんを診させていただく中で、生きるか死ぬかじゃないけど、大変な病気だなって実感したんです。実際に診ているときは2人の空間なので、こちらも苦しくなるというか…。なので、せめて自分のところに来てくれた患者さんには、ちゃんと対応できる鍼灸師だよっていうことを打ち出していきたいんです。大変な病気だから、しっかり向き合っていきたいと思っています。
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