求めていた理想は「自らの手による医療」/鍼灸師:足立 繁久

「ハリトヒト。」編集長のさまんさです。編集長で現役鍼灸師です。

仲間とともに立ち上げたメディア「ハリトヒト。」の大切なコンテンツ。
それはインタビュー。

創刊号を記念した連続連載。
第2弾のお相手は、こちらの方です。

足立 繁久(あだち しげひさ)先生

1996年 鳥取大学医学部生命科学科 卒業
2000年 明治鍼灸大学(現 明治国際医療大学) 卒業
2001年 足立鍼灸治療院 開業
小児科・産婦人科系疾患に対して東洋医学的な鍼灸治療を専門としている。
鍼道五経会代表として、学会や雑誌での発表を行う。
大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座の特任研究員として臨床にも携わる。

実はわたしと同じ、大阪府河内長野市で開業するご近所鍼灸師さんです。
何度か飲み会でご一緒させていただいたことがあり、山登りも一緒にしました(しかも夜に!)。

近年、学会や鍼灸雑誌で活躍の場を広げつつある足立先生。
現在に至るまでの経緯を語っていただきました!

自分のキャリアのために、何か行動したくなること間違いなしです。

求めていた理想は「自らの手による医療」だと、医学部で気付いたんです

足立先生って鳥取大学医学部卒なんですよね?
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
そうです。医師になるための医学科ではなく、生命科学科という学部に所属していました。
医学知識を備えたバイオサイエンティストを養成を目的とする学部です。
そこで医学の基礎知識を学びました。
医学部から、なぜ鍼灸師を志すことになったんですか?
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
大学で「医学」について学びながら、違和感を感じていたんですよね。
自分が追い求めているのは「医学」ではないなと思ったんです。
その違和感って、具体的に言うとどのようなものだったんでしょう?
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
ぼくは「医学」というよりは、「自分の医療」をしたかったんですよ。
「自分の手で、患者さんの健康に直接的に関与したい」「自分の手で、なにかできることはないだろうか?」という。
大学で学ぶ「医学」では、それができなかったんですね。
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
ぼくの理想と離れていると感じたことが1つあって。
それは、「検査・診断・治療」を行うための「機器・設備・薬剤」があって、初めてなされるものであるということです。
それらの整備がなければ、治療もできない環境。
ぼくはぼく自身の手によって「医療」がしたかった。
そこでなぜ鍼灸師という選択肢がうまれたんですか?
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
迷っているときに、偶然友達が「こんな世界もあるみたいだよ」と、図書館にあった本を紹介してくれて。それが鍼灸師の難病の臨床例の本だったんですよ。
お友達が!
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
読んだ瞬間に「これやー!」と直感的に惹かれて、大学を辞めようとしたんですが
ご両親は反対するでしょ(笑)。
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
反対されました(笑)。
「何を考えてるんや、キミは」って感じですわ(笑)。
で、卒業までアルバイトをして、明治鍼灸大学(現明治国際医療大学)に入学するための資金を貯めることにしました。
もちろん、卒業研究もしましたよ! それなりに(笑)。
鍼灸師こそが、自分の理想だと感じたわけですね。
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
鍼灸って、高級な検査機器を必要としない。
薬剤も要らない。
鍼とお灸で治療ができる。治療のさじ加減も自ら行える。
当時の海外青年協力隊に、医療の機器が揃わない中南米地域で鍼灸師の募集があったんです。
そういった可能性も鍼灸師にはあるのだと感じたんです。
「自分の手による医療」ですね。
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
「自分の手による医療」でいうと、介護職もそのうちの1つだと言えると思いますが、鍼灸は特に「治療の要素」の強い資格だと感じました。
ぼくにとっての、「理想の形」でしたね。
ま、それが「幻想の始まり」だったのかもしれませんが(笑)。
幻想を抱いて、鍼灸の大学に入学したと(笑)。
入学後はどんな感じでしたか?
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
幻想を抱けば、必ず幻滅を経験しますからね(笑)。
幻想と幻滅はセット(笑)。
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
でも、現実を知ることって大切ですから(笑)。
いろいろ感じることはありましたが、幻想を捨てたわけではなかったですよ。
幻滅を補うように図書館でよく自習していました。
「感じること」とは例えば…。ここで言える範囲で教えていただけますか?
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
学生のときは、各症状に対して、治療法を教わることより、病院の診断を仰ぐことを優先されますよね。
たしかに「臨床医学各論」という教科書に載っているような病気に対しては「まず病院」ですね。
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
今考えるとリスクマネジメントを教わっていたんだと思えるんですけど、それに対して「えー?」となってしまったんですね。
白か黒かつかない「グレーの症状」に対する治療ができると幻想を抱いていたので、「理想と現実」のギャップに直面したわけです。
いわゆる幻滅ですね。
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
でもね、その時、ぼくはすごく「理想と現実」の間で揺れ動いたんですよ。
先ほどの「幻想を捨てなかった」というお話につながると。
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
そう。みんなは現実に直面すると、現実に吸収されがちなんです。
幻滅しちゃうから?
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
そうそう。幻想も見失っちゃう。
現実に飯を食うためにはどうしようか、就職しようか、他の資格取ろうか、みたいなふうに、みんななっちゃうんです。
わたしの周りもそうですね。
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
でもぼくは揺れ動く中で、幻想を捨てきれなかったんです。
捨てきれなかったからこそ、いまこうして鍼灸師として生きることができているのかもしれないですね。
実際、開業されている先生って、「鍼灸の理想」を捨てきれない人が多くないですか?
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
そうそう。捨てきれない人たち。
ぼくは、いつまでも捨てずにいたいです。

開業と現実。自ら勉強する中で、師匠と伝統鍼灸に出会いました。

足立先生
足立先生
ぼくは開業した直後、ほんとに危なっかしくて。
現実はめちゃくちゃヤバかったんです。

それは経営的な面で、という意味ですか?
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
そうです。
でもぼくはその頃、馬場乾竹先生が開催されていた「和魂漢才鍼灸」という勉強会に参加していて。
その馬場先生が経営的な面でもご指導をしっかりしてくださる先生だったので、なんとか危機を乗り越えられたと思っています。
師匠の先生が経営のアドバイスもしてくださったんですね。
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
ある時、馬場先生から「経営面の改善のために、自分の鍼灸院をリニューアルせよ」というお題をいただいたんです。
それに対して真剣に考えねば、と向き合ったときに、経営のいろはの「い」を学ぶことができました。
もしあの時、馬場先生に出会っていなかったら、いまのぼくは鍼灸師をやりたくてもできなかった、と感じています。
その時のご恩というのは間違いなくありますね。
そもそも、なぜ伝統系の鍼灸を学ぼうと思ったんですか?
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
「現代の医学」で診られないものは、「現代的な鍼灸」で勝負できないでしょ?
現代医学で治療したかったら、ドクター(医師)になればいいんですよ。
ああ…
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
現代的な鍼灸をしたければ、ドクターになったほうが確実だけど、それでは診られない世界があるでしょ。
我々がドクターに太刀打ちできる場所があるとすれば、伝統的な鍼灸が診ている世界なんだと思うんです。
それって鍼灸の学生時代から思っていたんですか?
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
その前からですね。鳥取大学の医学部にいたときからです。
自分に「現代医学の医学に違和感」がある中で、「病院でも治せないものが治せる! コレや〜!」というものに出会えた。
心のスキマにスポっと入ったような感覚でした。
伝統鍼灸は必然だった、ということですね。
でも、伝統ってすごく様々な流派がありますよね。
どういった経緯で馬場先生を選んだんですか?
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
ぼくはもともと、卒業してから1年間、他のところで研修をしていたんです。
「傷寒論」という古典をもとに、漢方の勉強をしなさい、というところで。
漢方の勉強が鍼灸にもつながると自主的に思われたんですね。
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
実際、漢方の勉強をしたほうが、鍼灸のことを理解しやすくなるんですよ。
で、ぼくはそこを離れてからも、1人で傷寒論を読み、考えて考えて…ということを繰り返していたんですが、どうしてもわからないところがあって。
鍼灸師が独学で漢方の勉強をする。尊敬するなぁ…。
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
ちょうどインターネットをするようになった頃だったので、インターネットで調べていたら、興味深い、濃い、マニアックな情報にあたったんですよね。
それが馬場先生のブログだったっていう。
自学習していた先に、馬場先生がいらっしゃった。
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
馬場先生のブログを読むと、よくわかんないんですよ。
だいたい本を読むと、わかるように書いてくれてあるのに、馬場先生のブログは何を言っているのか全然わかんない(笑)。
わかんない(笑)。
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
でも、自分のほしい要素が入っている! そんなニオイがする! という直感があって(笑)。
そういう感覚は、わかったと(笑)。
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
で、ちょうど馬場先生に注目し始めたときに、勉強会の募集があったので、参加することにしたんですよ。
ご縁があるときって、タイミングが一致しますよね。
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
そこで脈診と傷寒論の勉強を並行して教えていただいていました。
自分のほしいものがいただけるのは、すごくありがたかったですよ。
たしかに自ら勉強する中で「わかってないもの」を自覚するから、必要なものに出会えるっていうのはありますよね。
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
そうですね。「わからないもの」もそうですが、「ほしいもの」も大切。
両方の自覚が必要ですね。
キャリアに悩む人のなかには「良い師匠に出会えないから、自分の治療のスタンスが見えない」という悩みを持つ人がいるなーと感じるんですが、先生のお話を聞いていると、それ以前のアクションがあるから、良い出会いを引き寄せられた、と確信するところがあります。
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
悩んでいる人たちがどういう考え方なのかはわからないのだけど、自分がほしいものを明確に持っていないといけない。
明確にせずに外には出られないはずなんです。
いきあたりばったりになっちゃう。
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
そうそう。それって自分にとってもロスが多いし、相手の時間もロスさせてしまうことになる。
お互いに消耗してしまう。
だから、まずは自分が何をしたいのか、何を欲しているのかというのが必須やと思います。
そういう意味でも、鍼灸師になるぞ! と決めたときの最初の動機、原風景的な自分の鍼灸師像って必要なんですよ。
実際、自分の鍼灸師像を見失って、キャリアについて迷ってしまう学生や若手が多いと思っています。
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
入学するときに、ある程度の動機ってありますよね。
医療がしたければ、医師や看護師などの他の医療系資格があるのに、あえて鍼灸師として生きると決断した瞬間には、何かしらの動機があったはず。
でも、試験や国家試験などで、その動機が風化していくんでしょうね。
国家資格取得が目的になるというか…。
国家資格取得がゴールになってしまいがちですね。
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
でも他の業界だと、国家資格を取る=ゴールって通用しないんですよね。
現場で必要なスキルは絶対要るで! って話なのに、鍼灸師はそうじゃない。
優先順位の立て方がわからないまま勉強を進めてしまって、ゴールを見据えられなくなっているのかもしれません。
現実を知って、幻滅する中で、理想の鍼灸師像が風化しちゃうのかな…。
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
ま、現実に向き合っただけで、理想が風化するような人が鍼灸師に向いているのかどうか、というお話じゃないですか(笑)。
幻滅を人のせいにするってことは、本当にしたいことじゃなかったってことでしょ。
耳が痛いお言葉ですね…。
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
ま、教育や学校批判をしてもしょうがないですよね。
今ある制度は変えられないので、現状の中で学ぶ側の心構えが大切なのかなと思います。
古典を読まないのも、徒弟制度に入らないのも、昔と条件が変わったのではなくて、学ぶ側がそのように選んでいるっていう。
個人のキャパシティの問題やと思いますよ。
グサリ。
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
ぼく、たぶん、優しそうに見えて、その辺は冷たいんです(笑)。
キャリアに悩む鍼灸師向けのサイトなので、このサイトに出てくださっている時点で、だいぶ優しいんだと思うんですが(笑)。
さまんさ
さまんさ
足立先生
足立先生
そうですね。「ぼくなんかでよかったら、どうぞご参考ください」っていう姿勢でお話させていただいています(笑)。
ありがたいです(笑)。
さまんさ
さまんさ

NEXT : 「努力のベクトルを自分ではなく他の人に向けたときに、苦手を克服した気がします」

1

2 3 4
akuraku3.jpg

関連記事

  1. 鍼を受けてる時間って、こんなに気持ちよくて幸せなんだ(前編)/鍼灸師 中根 一

  2. 気の本質に迫れる、だから面白い/鍼灸師・薬剤師:戸ヶ崎 正男

  3. 今は鍼灸師の地位が低すぎる/株式会社チュウオー 代表取締役:今里 秀俊

  4. 根底には鍼灸への愛。鍼灸院から頼ってもらえる存在になりたい/メイプル名古屋 鍼灸企画部:井上 尚子

  5. 今は子どもに合わせた働き方をしています/鍼灸師:井上 真智子

  6. 基礎研究は、鍼灸業界を支える「縁の下の力持ち」/鍼灸師:岡田 岬