社内の疲労解消は、私たちヘルスキーパーの役割/鍼灸師:松坂 英紀
体だけではなく、心にも良い効果が期待できる

ヘルスキーパーを企業が導入する際に、社内での不平等感はひとつの課題といわれています。7割の社員が利用しているということは、御社では不平等感はクリアできていると考えてよいのでしょうか。
不平等感をできるだけ解消するために、支社や営業所にも出張施術をおこなっています。弊社は不動産に関する業務をおこなっており、モデルルームがたくさんあったときには、そちらにも出張してマッサージをおこなう取り組みもしてきました。このように本社勤務の方以外にも施術の機会を提供して、不平等感をできるだけ減らす工夫をしています。
そこまでしているとは、かなり意外でした。オフィスのマッサージルームで施術するイメージだったので。
私は保健師として、ヘルスキーパーと一緒に健康支援に取り組んでいます。当社の場合は、施術を受けている時間は労働時間外と決めていることと、支払いが自費であることでも平等性を担保していると考えています。
それは例えば9時~17時までの勤務だとしたら、1時間施術を受けたら勤務を18時までにするようなイメージですね。利用者が多いのは満足度が高いからだと思います。実際に、そのように感じる場面はありますか。
満足度のようなものを5段階の表で測っていたことがありますが、やはり満足度は高いという結果になりましたね。
今回の取材をするにあたって、自院の患者さんに「会社で施術が受けられたらどう?」って聞いてみたんです。そうしたら「そんなの良いに決まってますよ」って。
保健師から見ても、ヘルスキーパーの存在は非常に心強いです。例えば「腰が痛い」という相談を受けた時に、私たち保健師ができるのは病院を紹介することなんですね。でもヘルスキーパーは、実際に痛みを取ることができる。それは大きな価値だと思っています。
ヘルスキーパーがいるから、まずは社内の施術を勧めることができますものね。実際にヘルスキーパーの活動が、社員のパフォーマンス向上に寄与していると感じることはありますか。
後ほど詳しくお話できればと思いますが、私がおこなった共同研究では、ヘルスキーパーを利用した方たちは生産性が向上したことが分かっています。利用していただくことでパフォーマンスが上がり、企業にとっては生産性損失の軽減につながるんです。
ヘルスキーパーは社員にとって、同僚ではあるものの職種が異なりますし、話を上手に聞いてくれる方達でもあるんです。ですので、体はもちろん、心もリフレッシュできる効果があると思っています。
藤澤さんが施術を受けるときには、けっこうお話もされるんですか。
私は健康支援に一緒に取り組む立場でもあるので、業務の話をしつつ、割とプライベートについても話しますね。
社内全体の健康を推進していくのが保健師さんの役割だと思いますが、ヘルスキーパーは体だけでなく心の健康にも力になれることはありそうですか。
個人的にはあると思っています。特に最近は孤立したり引きこもっていたりする場合も多いので、いろんな相談先があれば救われるケースもあるのではないでしょうか。
良いヘルスキーパーには人柄も大切
もともと、御社はなぜヘルスキーパーを導入されたのでしょうか。導入する企業が少ない中、設置に踏み切った経緯にすごく興味があります。
もともとは、障がい者雇用を目指して導入したと聞いています。障がい者雇用の中でもヘルスキーパーを選んだのは、グループ会社にヘルスキーパーが既に導入されていて社内にもほしいという要望が上がったからだそうです。ただ障がい者の雇用数を増やすだけではなくて、より活躍してもらうために弊社ではヘルスキーパーの採用にこだわっているところです。採用に関わると、スキルはもちろんですが人柄も大切だと実感します。
適性のあるあはき師と企業がマッチしやすい状況を作れれば、より活躍の場は広がりそうですね。
ほかの企業でヘルスキーパーの導入を検討しているところもあると思います。こんな設備を整えたとか、ご準備されたことがあれば教えてください。
障がい者を雇用する場合は助成金を利用することができます。ただし、施術室を作ってから雇用すると助成金がおりないので注意が必要です。雇用してから設備を作ったり備品を購入したりするとよいと思います。
基本的な設備は、国のルールに則ってオーソドックスなものがあると思うんですが、さらに雇用する方の障がいの程度に合わせて設備を揃えているのが現状です。
高齢者向けマンションでも施術を
御社では、実際にどのようなところで施術をおこなっているのでしょうか。
弊社の場合は、基本的にリラクゼーションルームのようなところで施術をおこなっています。
3部屋あるのですね。すごくリラックスして施術が受けられそうです。だいたい1日に何名くらい来られることが多いんですか。
ヘルスキーパー1人につき、最大6~7名です。弊社の場合は今のところ、1枠20分、40分、50分というコースがあります。
M-Test(運動負荷をかけることで、バランスが崩れている経路を調べる方法)を用いた症状改善コースや、ストレッチコース、マッサージコース、鍼をプラスしたマッサージコースなどをご用意しています。最初はマッサージだけでしたが、利用者さんの状態やご要望に基づいてメニューを増やしていきました。
利用する皆さんとのコミュニケーションが、しっかり取れているのですね。
ストレッチコースは、スポーツをしている方たちが多いことを考慮して新設しました。
また不動産業をおこなっている弊社は、高齢者向けのマンションを立ち上げています。そこに治療院を開設して、週に1回、入居者とグループ会社の管理業者の方たちに向けてマッサージと鍼灸をおこなう取り組みもしているんです。入居者さんにはお灸をすることもあります。
いろいろな取り組みをされているということですね。高齢の入居者の皆さんにとっても、鍼灸師が往診してくれるのはメリットが多いと思います。
そうですね。ヘルスキーパーの部屋があるので、マンションを1歩も出ることなく鍼灸を受けられるのもメリットでしょう。マンションの価値の1つとして、アピールできるポイントになっていると思います。

(撮影協力:株式会社コスモスイニシア)
研究でヘルスキーパーの有効性を証明
ヘルスキーパーのところにいらっしゃる社員の皆さんの中には、鍼灸やあん摩指圧マッサージを受けたことがなかったという方も多いのではないでしょうか。社内に施術所があると、受療率も上がりそうですね。
実際に若ければ若いほど、受けたことがないという方が多い印象です。若手社員に施術を受けてもらう機会を増やすような取り組みもおこなっています。弊社では、新人は必ず宅建を取得しなければならないんですね。
宅地建物取引士は合格が難しい国家資格だと思いますが、もしや松坂先生もお持ちなのですか。
実は私は宅建鍼灸師なんです。新人の人たちへの支援として、宅建を受験する方に向けて半額で受けてもらえる取り組みをおこなっています。さらに、合格したらお祝いの意味を兼ねて、無料で施術を受けてもらえる機会を作ることもあります。
宅建鍼灸師とは、新しい響きです。先生は共同研究にも取り組まれていますよね。宮崎先生と研究をおこなうに至った経緯を知りたいです。
日本視覚障害ヘルスキーパー協会で研修員をしていたときに、講師をお願いしたことがきっかけで帝京平成大学の宮崎彰吾先生と知り合うことができました。
その後、ヘルスキーパーの効果について研究したいと思ったときに、宮崎先生に声をかけたら快諾していただけたんです。生産性に関する論文等を拝見して、宮崎先生と一緒ならヘルスキーパーの研究も良いものにできるではないかと思い、声をかけさせていただいた次第です。
実際にヘルスキーパーの施術の有効性を証明されましたよね。
そうですね。週1回以上のあん摩指圧療法によってパフォーマンスを向上させ、労働生産性損失を減らすことができるという結果が出ました。
個人的には、私たちのような開業鍼灸師も「街のヘルスキーパー」だと思っています。風邪をひきにくくなったとか、会社を休む頻度が減ったとか、健康維持に寄与できていると思う時があります。社内で定期的に施術を受けることによって、そういう効果も期待できますか。
ストレスがたまらなくなったことで免疫系の働きがよくなり、風邪をひきづらくなるような例はあるように感じます。
社外の鍼灸院で受けるのと、効果はほぼ同じということですよね。それでも社内にヘルスキーパーの部署を設置するメリットにはどういうものがあるのでしょうか。
まずは、料金が安いことです。治療院で施術を受けると、自費でだいたい5,000~6,000円程はしますよね。弊社の場合は福利厚生の一部として、40分1,500円で受けられます。また、会社から出ることなく受けられるのは大きなメリットだと思います。
ヘルスキーパーを全国に広げたい

ヘルスキーパーとして働いていて喜びを感じる瞬間は、どんなときですか。
終わったときに「気持ちよかった」「良くなったよ」って言ってもらえたときですね。
治療院と違って、売り上げの心配はありませんよね。そのあたりは、どのようなことが目標になるのか気になります。
稼働率を上げることが大きな目標だと思います。より興味を持ってもらえるように、健康情報の配信もしています。また宅建取得の支援や過重労働者への支援など、利用者さんを増やす取り組みにも努めています。
健康保険組合が導入している健康point制度で集めたポイントを、実際の施術で利用できるようにもしています。利用者さんを増やすためにさまざまな工夫をおこなっているところです。
我々のような街の鍼灸師にとっても、受けたことがある人を増やしてくれるのは非常にありがたいです。これは私が鍼灸師だからかもしれないですけど、ヘルスキーパーを置く企業って好感が持てます。社員のことを大切にしているというのをアピールする1つの方法にもなりそうですね。
そうですね。今後は、ヘルスキーパーが全国に広がってくれたらいいなと思っています。そのための第一段として、ヘルスキーパーに関する共同研究もさせていただきました。全国の盲学校や企業へさらに情報を届けていきたいですね。あはきの認知度がどんどん上がっていけば、ヘルスキーパーの増加につながるし、治療院へ行く方も増えると期待しています。
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