「ない」ことベースでやっています/鍼灸師:三輪 正敬

師から弟子に伝える技術以外のもの

三輪先生はどのように「ない」の境地にたどり着いたんですか?
ゆうすけ
ゆうすけ
三輪先生
三輪先生
「ある」と疲れますからね。それとお師匠さんの影響はあるでしょうね。
三輪先生の師匠というと、いやしの道協会の前会長の横田観風先生ですよね。
観風先生はどういう方なのか聞かせてもらえますか?
ゆうすけ
ゆうすけ
三輪先生
三輪先生
一言で答えるのは難しいですが、そうですね、愛情のある方です。
愛情という点では、高校ラグビーの監督やコーチとか、大学のときにお世話になった牧師さんとか、一貫して愛情のある指導に恵まれてきました。
その牧師さんの紹介で観風先生に出会いました。
愛情…。
ゆうすけ
ゆうすけ
三輪先生
三輪先生
目の前の人間を愛する力があるということです。
鍼の世界にはまだ師匠と弟子の関係が残っていますが、師が弟子に伝えるものって、技術だけではないですよね。
師匠から弟子に伝える技術以外のもの。何か具体的なエピソードで聞かせてもらえますか?
ツルタ
ツルタ
三輪先生
三輪先生
いいですよ。
さっきがんになった友人の話をしましたけど、あの時ぼくは観風先生に泣きついたんです。
余命2カ月と言われていて「まだ学生のぼくじゃとても治せないので一度鍼をしてください」って泣きながら懇願したんですよ。
そうしたら、観風先生はただ一言静かに「あなたが看取りなさい」と応えてくださいました。
…。
ツルタ
ツルタ
三輪先生
三輪先生
ぼくは「あなたが看取りなさい」と言われて、友人が死ぬということを自分の中で受け容れることができました。腹が据わったのです。そこからは迷わず鍼ができ、4カ月後に見送ることができました。その後、同じような治療の依頼を受けても動じません。
もしお師匠さんがぼくの希望通り彼に鍼をしてくださったとしたら、迷いはそのままだったでしょう。そういう言葉って多分、頭で考えて出るものじゃないんですよ。
それにしても、死ぬところまで考えて臨床をしている人ってあまりいないですよね。
ツルタ
ツルタ
三輪先生
三輪先生
いやしの道の人は、それぞれ死生観を持って鍼のことを考えているような雰囲気があります。
ぼくは鍼の最終的に目指すところって、患者さんが、正確に言えば自分自身も含めて安心して死んでいけることだと思っているんですよ。

本当のことは伝わりづらい

日本だとボランティアを嫌う人っていませんか?
ツルタ
ツルタ
三輪先生
三輪先生
嫌うと言うか、押し付けられるのがイヤなのだと思います。私も「ボランティアやってます」とは務めて言いません。本当は誰にも知られずにやりたい(笑)
記事になったら、もっと知られちゃいますね。
ツルタ
ツルタ
三輪先生
三輪先生
でも知ってもらわないと広まらないのでジレンマです(笑)
せっかくなので、リアルな鍼灸師の被災地支援が伝わるといいのですが。
ツルタ
ツルタ
三輪先生
三輪先生
そういえば、被災地支援をやると地元の鍼灸師の仕事を奪うっていう話が、まことしやかに語られることがあるんですけど、全くないと思います。
まず、自宅を失った方に鍼灸を受ける経済的余裕があるでしょうか。それから、鍼を避難所で受ける人の8割から9割が鍼初体験。それがほぼみなさん「楽になった、鍼っていいですね、もっと早く知っていれば」とおっしゃって、ぼくらが引き上げた後は地元の治療院にかかる方もいらっしゃいます。
鍼灸の良さが認知されると思うので、将来的に地元治療院の売上につながりそうな気がしますけど。
ツルタ
ツルタ
三輪先生
三輪先生
長い目で見れば必ずそうなると思います。ただ、被災直後に地元の先生が文句を言いたくなる気持ちもわかります。
自分の治療院が被災して片付けをしているのに、外から来たボランティアが自分の患者さんの治療をしていたら、人の仕事を取りやがってみたいな気持ちにもなりますよね。
たしかに。地元の先生の気持ちは複雑かもしれません。
ツルタ
ツルタ
三輪先生
三輪先生
そこで災プロでは、地元で被災した先生で活動の余裕がある方と出会えたら、できるだけ日当を支給してぼくらの活動に入ってもらってきました。また、被災の有無や所属にかかわらず地元鍼灸院の一覧を作って、避難所や市役所など活動した全ての場所に配布もしているんですよ。新聞の折り込み広告で、許可のとれた市内の鍼灸院一覧を全戸へ配布したこともあります。
すごい配慮ですね。そこまでしますか。
ツルタ
ツルタ
三輪先生
三輪先生
支援という名目で地元へおじゃまするからには、そこまでやります。
もちろん配慮の不足するところはまだあるでしょうし、許してくださっているのでしょうが、今のところ地元の鍼灸院からお礼状はいただいても、苦情を受けたことはないんです。
被災地支援で初めて鍼を経験された方の何割かが、鍼灸治療を継続してくれるだけでも大きいですね。
ツルタ
ツルタ
三輪先生
三輪先生
生活が落ち着くまで時間がかかりますから、すぐにとはいきませんが。そのほうが被災者の方々の長期的なケアにつながりますし、実際に継続されているケースがあるようです。ぼくらは一時おじゃまするだけですから。

しっかり普及になってますね。
これって、諦めていたのが結果的によかったという敬風堂の経営とも似ているような。
ツルタ
ツルタ
三輪先生
三輪先生
今日は、「ない」ことベースでやっていますという話になりましたね。おかげさまで自分でも発見です。それがタイトルだと、ちょっと伝わりづらいと思うけど、本当のことだから、それはそれでいいですかね。
ええ、「ない」ことベースの話が伝わりにくいのは仕方ないのかなと思います。
この考え自体が合わない人もいるだろうし、それこそ師匠と弟子みたいな関係でじっくり伝えていくようなテーマなのかもしれません。
今回は、無理に伝えようとしない「ない」ベースで記事にすれば、この話を必要とする人に結果的に伝わるんじゃないか、届くんじゃないか。そういう気持ちで書かせてもらうことにします。
最後に三輪先生の願いとか、何かあれば聞かせてください。
ツルタ
ツルタ
三輪先生
三輪先生
願いですか…。
若い人に災プロのスタッフとして入って来てほしいです。あ、若くなくても歓迎ですが(笑)31歳で始めた私も40歳。
実務的には経理が分かるとか、ホームページをいじれるとか、エクセルが使えるとか、報告書や記録、日々のブログなどの文章を書けるといったことが求められますが、そうした特別なスキルがなくても、かげながら人を支えることがきらいではない方に向いてると思います。難しいですかね。
どうでしょう。これを読んで誰か来てくれるかもしれませんよ。
ツルタ
ツルタ
三輪先生
三輪先生
約10年前にぼくらが始めたことなので、ぼくらで終わってもいいのですが。ほかに類のない活動であるだけに、もしも引き継いでいけるのであれば、これから先の被災地にも役立つだろうなと思っています。

災害鍼灸マッサージプロジェクト

【記事担当】
取材・文・編集・撮影 = ゆうすけツルタ
撮影 = ツルタ

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