オリンピックへの道が開けたトライアウト
パラリンピックの実績を買われて、オリンピックにも声がかかったんですね。
タキザワ
鳥居先生
そうですね、ロンドンオリンピックの2年前に、「今度、JOC(日本オリンピック委員会)の方でも、トレーナーをやらないか」と声がかかりました。ただ、トライアウトを受けなければなりませんでした。
JOCのトレーナーのトライアウトがあるんですか。
タキザワ
鳥居先生
たまたま僕の大学の同級生が、沖縄県で有名なウエイトリフティングの監督だったんですけど、彼から連絡があって「トレーナーのトライアウトがあるから受けてみないか」と誘われたんですよ。
トライアウトには、どれくらいの人数が集められるのですか。
タキザワ
鳥居先生
何人いたかはっきり覚えていませんが、最初は結構な人数がトライアウトに参加していましたね。やり方は極めてシンプルで、毎週1回か2回、選手たちの治療をするんです。それで選手たちから監督やコーチに、「どの先生がいいか」を選ばせる。最初は一緒に参加していたトレーナーたちが少しずつ減っていって、最終的に僕だけが残ったんです。
完全に実力勝負ですね。
タキザワ
鳥居先生
僕はそういう選ばれ方をしているって知らなかったんですよ(笑)。あとから選手から「自分たちが施術を受けて、鍼もマッサージも鳥居先生が一番良かったので、コーチにそう伝えました」って教えてくれました。僕を選んでくれて、嬉しかったですね。
そこからJOCでの仕事が始まったんですね。
タキザワ
鳥居先生
JOCから委嘱を受けて、世界選手権やアジア選手権、ジャカルタで行われたアジア競技会やユニバーシアードなどに、日本代表のトレーナーとして参加しました。
オリンピック関連でいうと、トリノの後はバンクーバ、リオデジャネイロ、平昌(ピョンチャン)にも行きました。
オリンピック関連でいうと、トリノの後はバンクーバ、リオデジャネイロ、平昌(ピョンチャン)にも行きました。
すごい活躍ですね!
タキザワ
鳥居先生
今度の東京オリンピックと、次回の北京の冬季オリンピックにも行くかも知れないので、人生で6回、オリンピックに帯同することになりそうです。
オリンピックに帯同するというのは、チーム全体についていくようなイメージですか。
ゆうすけ
鳥居先生
日本代表のチームについていくこともあれば、日本の選手団全体を診る「サポートハウス」の一員として帯同することもあります。
ある特定の競技ではなくて、いろんな競技の選手をケアすることもあるんですね。
ゆうすけ
鳥居先生
資金力の乏しい競技は、専属トレーナーを雇えませんからね。平昌の冬季オリンピックでは、サポートハウスでケアをしました。一方、この前のリオデジャネイロの時は、ウエイトリフティングの競技団体についていきましたね。サポートの仕方はいろいろあります。
今年は、コロナの影響で海外遠征は大変なイメージがあります。帰国したあとの2週間の隔離期間は、臨床はできないですよね。
ゆうすけ
鳥居先生
そうですね、ずっと自宅待機になります。ただ、選手たちは練習しなければいけないので、アスリートトラックという申請をして、トレーニングするという特別措置があるようです。
選手との距離感を大切に
トレーナーとして、選手のパフォーマンスを最高にするために、さまざまな選択肢をお持ちだと思います。その中での、鍼灸の位置付けを教えてください。
ツルタ
鳥居先生
僕は鍼灸師ですけど、鍼ですべてを解決しようとは思ってないんです。筋膜リリースでも、マッサージでも、物理療法でもいい。ここでは何が一番いいのか、という選択肢の中の一つとして鍼があります。
なるほど。
ツルタ
鳥居先生
でも、遠征に持っていける荷物には制限があるので、物理療法の機械だと超音波くらいしか持っていけないんですよ。なので、鍼でなんとかする、というケースは多くなりますし、実際に鍼の需要は多いと思います。
たとえばウェイトリフティングの選手は、みんな身体が大きくて、体重が150キロを超える重量級の選手もいます。彼らの体表から10㎝以上先にある大腰筋にピンポイントでアプローチするのは、鍼以外だとなかなかできないことです。
たとえばウェイトリフティングの選手は、みんな身体が大きくて、体重が150キロを超える重量級の選手もいます。彼らの体表から10㎝以上先にある大腰筋にピンポイントでアプローチするのは、鍼以外だとなかなかできないことです。
それは鍼の特徴でもあり、大きな利点ですね。
ツルタ
鳥居先生
なかには鍼が苦手な選手もいます。無理してやりませんが、面白いもので、ナショナルでトップチームの100キロ級超えの選手なんか、大学時代は鍼が全くダメでずっとやらなかったんです。ところが一回やってみて、良くなったのを実感したら、今では毎回鍼を受けています。
トップアスリートだからこそ、自分の体の些細な変化も感じ取れたり。
ツルタ
鳥居先生
選手は繊細ですよ。特にウエイトリフティングでは、左右差を気にします。
一番付き合いが長い選手は、「今日ちょっと、肩甲骨のこっち側が下がっている気がするので、肩甲挙筋のところをやってもらっていいですか」と言うんです。彼らは本当に凄いですよ。
一番付き合いが長い選手は、「今日ちょっと、肩甲骨のこっち側が下がっている気がするので、肩甲挙筋のところをやってもらっていいですか」と言うんです。彼らは本当に凄いですよ。
アスリートとトレーナーの関係は、どのように捉えていますか。
ツルタ
鳥居先生
僕はトレーナーと選手は、距離が近くなりすぎてはダメだと思っています。
有名な選手にベッタリというトレーナーもいますが、僕はそういうことはしません。もちろん遠征中の食事も一緒にするし、何かあれば話もしますよ。だけど、休みの日もどこか一緒に行くとかは絶対にしません。
有名な選手にベッタリというトレーナーもいますが、僕はそういうことはしません。もちろん遠征中の食事も一緒にするし、何かあれば話もしますよ。だけど、休みの日もどこか一緒に行くとかは絶対にしません。
一定の距離感を大切にしている。
ツルタ
鳥居先生
選手のことが大事だからこそね。彼らは彼らで、困ったときにはちゃんと僕を頼ってきてくれます。治療が終わった後にトントンってきて、「ちょっといいですか?」って。そういうときは、なにかアドバイスをするよりも、ただ相手の聞く話を聞くことが多いですね。自分から選手たちに「どうだ?」とかは行かないです。来たら話しをする、それくらいのスタンスです。
鳥居先生が選手から支持される理由は、やはり結果を出しているからでしょうか。
ツルタ
鳥居先生
選手はパフォーマンスが向上しなかったら、支持してくれません。治療だけじゃなくて、トレーニングやケアや食事指導の結果が選手たちのメダル獲得という評価になってくる。その辺は、結構シビアですよ。
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