患者さんと生活を共有できるのが、訪問鍼灸の魅力です/鍼灸師:山田 誠
「いきなり訪問鍼灸をやるとダメ」は本当か?
キャリアパスという観点で、訪問鍼灸に対してネガティブな声がありますよね。あえて直球で言いますが、「卒後すぐ訪問鍼灸に就職したら、治せない鍼灸師になる」という意見です。おそらく「訪問だけやっていては、まともに鍼灸治療ができるようにならない」って意味かなと…。これに対して、実際にやっている立場からどう思われますか。
そういう見られ方もあるだろうなと思います。というのも、訪問鍼灸を受ける患者さんは高齢者の方や難病の方が多いので、「鍼灸で治す」という感覚を施術者が持ちにくいです。少なくとも私は持っていません。ただその分「患者さんにいかに満足してもらうか」という思いは、箱の鍼灸師に負けないと思います。
ちなみに、どのように満足度を上げているのでしょうか。
患者さんの状態や取り巻く状況に関する情報を収集・分析して、相手が求めていることや解決すべき課題を明確にしていく。そして、ADL(日常生活動作)の低下を防ぎながら、安心感を持って受けてもらえるような、丁寧な施術を心がけています。
基本的に、独歩で鍼灸院に行けない人が対象だから、「治す」「治せない」みたいな話に終始するのもおかしい感じがしますね。
むしろ、チーム医療の一員としてどのように貢献できるかが大事になってくるのかな…。
そうですね。そのためには、医療の知識と共通言語を持つことが重要です。そしてチーム医療として患者さんに日々対峙していくなかで、「治る」「治らない」とは別の評価基準をおのずと持つことになるのが、訪問鍼灸なのかもしれません。
きっと、訪問鍼灸が来るのを楽しみにしている方も多いですよね。施術の効果以外にもプラスアルファの価値と需要がありそうです。
訪問鍼灸の患者さんだと「何かが新しくできるようになる」というのが、年齢的にも疾患的にも難しい場合が多いです。それどころか、「痛みがあって思い通りに身体が動かないストレス」とか「自分のつらさを分かってもらえない疎外感」に苦しんでいたりします。
だからこそ、鍼灸によって「その人が自分らしく過ごすサポート」ができれば、訪問鍼灸としては、満点じゃないかなと思います。
「訪問鍼灸」のニーズはこれからも高まる
山田先生にとって、訪問鍼灸の一番のやりがいは、どんなところにありますか。
一人の患者さんの生活に、往診の医師がいて、訪問の看護師がいて、ヘルパーさんがいて、リハビリを行う理学療法士がいて、そして、私のような鍼灸師もいる…。そんなチーム医療が、患者さんの生活の場で展開できるというのは、訪問鍼灸をやる面白さだと思いますね。
生活の場に足を運んだからこそ、わかることも多そうですね。
そうなんですよ。「部屋に飾ってあるトロフィー」や「立てかけれた家族写真」などから、患者さんのバックグラウンドがわかります。その人の生活の圏内で、その人の生活を一緒に共有できるというのは、訪問鍼灸のやりがいだなと思います。
今後ますます需要が高まっていく分野でもありますよね。
厚生労働省から出ている「高齢社会白書」を見ると、これから10年後の2033年~2034年辺りが高齢者のピークといわれています。平均寿命が延びているので、ピーク後も高齢者指数がそれほど下がることはないでしょう。訪問鍼灸や訪問マッサージの需要は、しばらく増え続けると思います。
地域医療の担い手として鍼灸師が活躍することになりそうですね。
それぞれの地域で、訪問鍼灸が増えると、地域医療の充実につながっていきます。本当に素晴らしい仕事だと思います。興味のある方は、ぜひ一緒にやりましょう。
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