ヨモギとモグサの話/鍼灸師・医学博士:三村 直巳

漢方薬としてのヨモギ

三村先生
三村先生
ヨモギは漢方薬としても利用されます。ここではヨモギの含有成分にある薬理作用についてお話していきますね。
ヨモギ自体がお薬なんですね。
タキザワ
タキザワ
三村先生
三村先生
ヨモギは湯液で艾葉(がいよう)と呼ばれ、主成分として精油、脂肪酸、タンニン類が含まれます。止血、抗菌、抗炎症などの作用があることが知られ、艾葉が含まれる漢方薬としては「芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)」があります。
「芎帰膠艾湯」とは、どのような漢方薬なのでしょうか。
タキザワ
タキザワ
三村先生
三村先生
生薬構成は代表的な補血剤である「四物湯(しもつとう)」に阿膠、艾葉、甘草の3つが加わったものになります。阿膠と艾葉はともに止血効果を持つ生薬です。
したがって「芎帰膠艾湯」は血を補いつつ、補った血が漏れ出ないように止血する力を持つ漢方薬とされています。

モグサの成分

三村先生
三村先生
ヨモギから毛茸を集めて精製したモグサは、水分11%、線維67%、たんぱく質などの有機物11%、類脂質4〜5%、無機塩類(灰分)4〜6%、ビタミンなどで構成されています。
モグサの成分分析ですね。モグサは精油成分が重要だと聞いたことがあるのですが…。
タキザワ
タキザワ
三村先生
三村先生
精油成分としては1,8-シネオール、ツヨンが、また脂肪酸類、高級脂肪酸炭化水素なども含まれています。関西医療大学の戸田静男先生は、表皮に多量のワックスが存在していることから、ヨモギと皮膚の親和性を経験的に見出して古来より使われて来たのではないかと考察しています 3)。
また、精油成分やワックスを含むことが、可燃性や緩和な燃焼温度に関与していることが示唆されています。
ちなみに、モグサ自体に効能はあるのでしょうか。
タキザワ
タキザワ
三村先生
三村先生
モグサとヨモギはポリフェノールを多量に含んでいて、燃焼により酸化的ストレスを抑制することも報告されています 4)
しかし、モグサ成分が生体に及ぼす作用については、いまだ研究が少ないために今後の課題となっています。

隔物灸について

三村先生
三村先生
ショウガ灸、ニンニク灸、ビワの葉灸のような隔物灸の場合には、介在物の成分が皮膚より浸透することが考えられます。
介在物の成分にはどのような効能があるのでしょうか。
タキザワ
タキザワ
三村先生
三村先生
ショウガの場合には、辛味成分としてジンゲロール約80%、ショウガオール約20%、他に微量のジンゲロンが含まれます。ジンゲロールには殺菌作用、免疫細胞活性化作用があることが知られていて、加熱によりショウガオールに転化します。ショウガオールには血流促進作用、体温上昇作用、血管拡張作用などがあることが知られています。
ショウガはいかにも体を温めてくれそうですね。
タキザワ
タキザワ
三村先生
三村先生
ニンニクの場合には、成分としてニンニクの香味成分としてアリインが含まれています。これは切ったり刻んだりすることでアリシンに変化し、さらに過熱することでアホエンに変化します。アリシンには免疫力アップ、コレステロール調整、血液サラサラ効果、抗菌作用などがあり、アホエンに変化することで抗ガン作用や抗酸化作用がプラスされると考えられています。
ニンニクの匂いから、疲労回復を期待しちゃいます。
タキザワ
タキザワ
三村先生
三村先生
ビワの葉には、アミグダリンという成分が含まれていて、抗癌作用があると有名になりましたが、近年ではほかの有効成分とのバランスにより作用が発揮されていると考えられています。
ビワの葉も昔からさまざまな薬効があるといわれていますよね。ビワの葉エキスを買ったことあります。
タキザワ
タキザワ
三村先生
三村先生
隔物灸の場合は、こうした成分による作用と温熱刺激による作用の両方が相乗的に効果を与えていると考えられます。

香りによる効果

三村先生
三村先生
モグサを燃焼させた時の芳香によるアロマテラピー効果についても推測されています。
モグサを燃やすと独特の香りが立ちますね。
タキザワ
タキザワ
三村先生
三村先生
この香気は、モグサに含まれる1,8-シネオールという精油に由来するとされています。嗅覚によって感受された後、大脳皮質を介して「ホッとする」などの情動を起こさせ、視床下部を介して自律神経に影響を与えるものと考えられます。
私はモグサの香りって、すごくリラックスします。
タキザワ
タキザワ
三村先生
三村先生
2017年の報告で、ヨモギの精油の香気による鎮静効果を評価したところ、ストレス低減効果が示されたとのことです。特にこの鎮静効果は1,8-シネオールに起因しているといわれています 5)
報告はヨモギの精油の香気ですが、モグサやお灸の香気にもストレスを軽減する効果があるといえるのでしょうか。
タキザワ
タキザワ
三村先生
三村先生
香気成分が共通していることから、モグサの芳香による作用も同様に生じることが推測されますね。ただし、この分野においてもまだまだエビデンスが乏しいところですので、さらなる詳細な解明が必要となっています。
あまり注目してこなかった「皮膚または呼吸器から浸透する成分による作用」ですが、とても興味深かったです。
タキザワ
タキザワ
三村先生
三村先生
次回は「施灸皮膚組織の再生・修復過程で生じる作用」と、「お灸の広がり、課題」をテーマに最終回にしたいと考えています。

1) 織田隆三. 『もぐさのはなし』. 森ノ宮医療学園出版部. 2001
2) 形井秀一ら. 日本と中国、韓国のモグサ製造法の違いについて. 全日本鍼灸学会雑誌. 2017; 67(4) : 327-39.
3) 戸田静男ら. 艾の精油成分の研究(1). 全日本鍼灸学会雑誌. 1988; 38(5): 330-3
4) Toda S. Antioxidative effects of polyphenols from leaves of Artemisia princes PAMP on lipid peroxiodation in vitro. J Food Biochem. 2005; 29: 305-12.
5) Kunihiro K, et al. Volatile Components of the Essential Oil of Artemisia montana and Their Sedative Effects. J. Oleo Sci. 2017; 66,(8) : 843-9.

取材協力:東京医療専門学校

文=三村直巳
編集・撮影 = ツルタ
(2022.10.28公開)

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