傷寒論の謎ー二味の薬徴ー
■ 田畑隆一郎 (著) ■ 源草社 |
『医経解惑論』に続いて傷寒論系の書籍です。田畑隆一郎先生という薬剤師の先生が書いた本です。
もちろん私は薬剤師免許も登録販売資格も持っていません。
しかし著者が、その手で薬草を栽培したり生薬を加工していくエピソードは非常に面白く、その光景を思い浮かべてしまいます。
例えば、牛肉のスジを煮込み二日二晩手間ひまをかけて阿膠(アキョウ、動物生薬の一種)を作るエピソードや地黄(ジオウ、各種地黄丸などに用いられる)の具体的な栽培法など、個人的に食いついてしまうマメ知識であります。
他にも生薬に関する豊かな経験やエピソードがいくつも紹介されていて、鍼灸師でもついつい生薬の世界に引き込まれてしまいます。
また鍼灸に結びつく内容としては、生薬の組み合わせや漢方方剤の効能を立体的に解釈し説明されている点が非常に参考になります。病理や治療を立体的にとらえることは重要です。
鍼灸師には経絡・臓腑の概念があるので、本来は人体観・病理観を立体的に理解するのに有利なのです。
しかし実際には経穴の名前や取穴法や効能を覚えるだけに留まってしまうことが多いのが現状かと思います。
この書で書かれている「二味の薬徴」という言葉のように、経穴も単穴で効かせるケースと、複数穴で組み合わせるケースでは、体を動かすベクトルが違うと私は考えています。
例えば、合谷のみに治療するのと、合谷―復溜や合谷-太衝と組み合わせるのではまるで意味が違いますよね。
それらの働きを知識として鵜呑みにするのか?イマジネーションを働かせ深く理解しようとするのかで応用力も効かせ方にも大きな差が出てきます。
以上のようなことを感じさせてくれる書です。