鍼灸師:天野 弘子の5冊

病家須知

■ 戸川 芳郎(監修)、佐藤 進(編集)、濱口 富士雄 (編集・著)
■ 農山漁村文化協会(2006年)

「むかし日本では、家で卒中の発作が起きたら、素早く茶碗をパーンと割り、その破片で肩背を切り、出血させ命を救う救命法として行われていました。」

鍼灸学生のとき、松田博公先生の授業で『病家須知』から、目が覚めるような日本伝統医療の一場面が紹介されました(「病家須知巻之六 肩項卒痺」)。

本の題名『病家須知』は、「病人のいる家では、ぜひとも知っておかなければいけない」という意味です。
江戸時代の町医者が庶民向けに書いたわが国初の家庭看護の本で、当時の医療が活き活きと描かれています。

授業のあと、学校図書館で本を探すと、読むには腰が引けるほどの重厚感のある箱入りの3冊セットでした。

しかし、3冊セットのうち、1冊は資料で、本文は2冊のみ。
実際に読んでみると、1ページが注釈、旧仮名遣いの原文、現代語訳と3段に分かれていて、現代語訳だけだと量が3分の1で、思ったよりも簡単に読み終えることができました。

そして、授業では「緊急時だって鍼灸が役に立つから鍼灸師は自信を持ちなさい」、「緊急時に備えて刺絡の道具を常に持ち歩きなさい」と教わりました。

それから刺絡道具はわたしの旅の必需品です。

旅行中に捻挫をして、足を地面に付けるのも痛くて予定していたことが難しいという緊急時に刺絡をして、事なきを得たことが何度もあります。

ほんとうに「鍼灸ってすごい」。

現在、町中で目の前に卒中で倒れる人がいたら、救急車を呼び、心肺蘇生法をおこなうでしょう。
町中で見知らぬ人に突然刺絡をするのは、現実的ではありません。

それでも、緊急時にサッと刺絡の道具を出して、命を救う映画みたいなカッコいいことを、鍼灸師ならば一生に一度はしてみたいですね

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