現地がぼくらを必要としてくれた
(写真提供:災害鍼灸マッサージプロジェクト)
災害鍼灸マッサージプロジェクトのホームページに公開されている「活動ガイドライン」って、とても作り込まれてますね。
持ち物、活動手順、現場で使われているカルテなど、実際に被災地でどのような活動をしているのかイメージができました。
持ち物、活動手順、現場で使われているカルテなど、実際に被災地でどのような活動をしているのかイメージができました。
ツルタ
三輪先生
実際の現場で必要とされたことだけをもとにしているので。
鍼灸マッサージの非適応として、現場の保健師や医師に報告した方がいい症状を紹介していたり、実際に報告された事故の記録を公開しているのも素晴らしいですね。
ツルタ
三輪先生
有害事象は東日本大震災以降の活動も含め、すべて活動ガイドラインのインシデントマニュアルに載せてオープンにしています。
経験年数も流派もさまざまな先生が参加された中で、いまのところ重大事故はゼロです。
経験年数も流派もさまざまな先生が参加された中で、いまのところ重大事故はゼロです。
重大事故を起こさないようにするのが1番大切かも…。
ツルタ
三輪先生
現場にいらしてくださる先生方に、できるだけいつも通りの治療をしてもらえるよう工夫してきました。
治療は本当にさまざまで、ひたすら筋肉に鍼を刺す人、経絡治療の人、1本しか鍼をしない人、小児はりの人、てい鍼だけしか持ってこない人もいましたよ。
行列ができて時間に制限がかかることもありましたが、普段通りの施術だから大きな事故は全然なかった。これは日本の鍼灸師の実力だと思います。
治療は本当にさまざまで、ひたすら筋肉に鍼を刺す人、経絡治療の人、1本しか鍼をしない人、小児はりの人、てい鍼だけしか持ってこない人もいましたよ。
行列ができて時間に制限がかかることもありましたが、普段通りの施術だから大きな事故は全然なかった。これは日本の鍼灸師の実力だと思います。
とはいえ、施術で被災地支援をしたいなら、賠償責任保険は入っておいたほうがいいですよね。
ツルタ
三輪先生
そうです。
あとは施術所の外や災害時のボランティアの施術も対象になるのか、それぞれ自分の入っている保険を調べる必要があります。
あとは施術所の外や災害時のボランティアの施術も対象になるのか、それぞれ自分の入っている保険を調べる必要があります。
ボランティア保険もありましたね?
ゆうすけ
三輪先生
それはボランティア活動に参加する本人のケガなどを補償するものです。
医療行為である施術中の事故に関しては、施術者の賠償責任保険の方なので、ボランティア保険と賠償責任保険の2つ入らないといけません。
医療行為である施術中の事故に関しては、施術者の賠償責任保険の方なので、ボランティア保険と賠償責任保険の2つ入らないといけません。
ぼくの賠償責任保険って、被災地ではどうなんだろう。
ゆうすけ
三輪先生
普通そんなところまで確認してないですよね。ですから通常の賠償責任保険が適応されるように動きます。
ボランティアの被災地支援と言っても、法律的な枠組みでは出張治療になるので、現地の保健所に登録をするのです。
ボランティアの被災地支援と言っても、法律的な枠組みでは出張治療になるので、現地の保健所に登録をするのです。
関係法規にそういう決まりがありましたね。
ゆうすけ
三輪先生
本来であれば被災地に入って施術するひとりひとりが保健所に書類を提出して登録しないといけないので、ものすごい手間ですよ。でも、これまでの被災地では行政と信頼関係を作ることで、基本的に参加者名簿のエクセル提出で許可していただけました。
これは超法規的措置で、その被災自治体の保健所が鍼灸師の活動を認めてくれたということだと思います。
これは超法規的措置で、その被災自治体の保健所が鍼灸師の活動を認めてくれたということだと思います。
超法規的措置!
被災地の自治体と信頼関係を築いてきたからこそでしょうね。
被災地の自治体と信頼関係を築いてきたからこそでしょうね。
ゆうすけ
三輪先生
これで正式に往診扱いになるので、確実に賠償責任保険の対象となります。
支援したいという志を持った個人を守るということ、これは災プロが大事にしていることのひとつです。
支援したいという志を持った個人を守るということ、これは災プロが大事にしていることのひとつです。
法律的なところまで考えてくれているのは、本当にありがたいです。
ゆうすけ
三輪先生
実は弁護士についてもらっていて、災プロの動きに法律的な問題はないかどうか、無償で相談に乗ってもらっています。ぼくの高校ラグビー部の同期ですが。
さまざまな方面の協力があるのですね。
どうしてこんなにしっかりした組織が作れたのか知りたいです。
どうしてこんなにしっかりした組織が作れたのか知りたいです。
ゆうすけ
三輪先生
それは2004年の中越地震の時に、ボランティアに行って失敗した経験が大きいですね。
中越地震の被災地支援も行ってたんですね。そこでどのような失敗をしたんですか?
ゆうすけ
三輪先生
当時は鍼灸学校の1年生だったんですけど、何かできることがあるはずと思って、とりあえず学校の仲間7人で日帰りのボランティアに行きました。
ぼくは大学で心理学をかじっていたので、子どもの心理的なケアをする仕事をあてがってもらったんですけど、1日だけでは信頼関係はできないし、ボランティア登録の手間を取らせたし、数百円とは言えボランティア保険のお金も向こう持ちだったので、迷惑をかけただけだったと思います。
ぼくは大学で心理学をかじっていたので、子どもの心理的なケアをする仕事をあてがってもらったんですけど、1日だけでは信頼関係はできないし、ボランティア登録の手間を取らせたし、数百円とは言えボランティア保険のお金も向こう持ちだったので、迷惑をかけただけだったと思います。
せっかくボランティアに行っても、迷惑になってしまう可能性がある…。
ゆうすけ
三輪先生
自分の思いだけで行っちゃったんですよね。
被災された方々だって初対面のボランティアには緊張することだとか、ボランティアを受け入れる仕事をしている人たちの疲労とかを考えていなかった。
鍼灸以前に、現地との信頼関係作りが大切なんです。だから東日本大震災のときも、東北に特に親しい知り合いもいなかった私は現地に行く以外の支援を考えていました。
被災された方々だって初対面のボランティアには緊張することだとか、ボランティアを受け入れる仕事をしている人たちの疲労とかを考えていなかった。
鍼灸以前に、現地との信頼関係作りが大切なんです。だから東日本大震災のときも、東北に特に親しい知り合いもいなかった私は現地に行く以外の支援を考えていました。
災プロは東日本大震災から活動を始めたんじゃ?
ツルタ
三輪先生
ええ、不思議ですよね。
震災の4年前、ぼくはヒューマンワールド社から『あはき心理学入門』という本を共著で出していたんですけど、その関係で『あはきワールド』に災害現場で役立ちそうな記事を書いてほしいと頼まれました。
自分の過去の失敗から「災害現場で役立ちたい」というこちらの思いの前に、そもそも「被災地は鍼灸を必要としているのか」をきちんと確認し報じることが大切と考えて取材しようと思ったのです。
震災の4年前、ぼくはヒューマンワールド社から『あはき心理学入門』という本を共著で出していたんですけど、その関係で『あはきワールド』に災害現場で役立ちそうな記事を書いてほしいと頼まれました。
自分の過去の失敗から「災害現場で役立ちたい」というこちらの思いの前に、そもそも「被災地は鍼灸を必要としているのか」をきちんと確認し報じることが大切と考えて取材しようと思ったのです。
最初は取材目的だったとは驚きました。そして、とても冷静ですね。
ツルタ
三輪先生
東京都の社会福祉協議会(以下、社協)に友達がいたので、現地の社協に電話しても大丈夫かなって聞いたら、いいと思うとのことで、宮城県の社協へ電話をしてみました。「鍼灸マッサージのニーズってありますか?」って。
そうしたら、向こうは大混乱で取材ということがうまく伝わらなかったこともあるのでしょう、「あると思うんで来てください」って言われたんですよ。
そうしたら、向こうは大混乱で取材ということがうまく伝わらなかったこともあるのでしょう、「あると思うんで来てください」って言われたんですよ。
どうして「来てください」って言われたんだろう。
ツルタ
三輪先生
たぶん「鍼灸マッサージで支援しに行きたいんです!」と言ったら断られたのではと思います。ただでさえ多忙なのに、善意でも思いをぶつけられるのは疲れますからね。
でも私は取材だったので「ニーズはありますか?」って押し付けない相手ベース。
勘違い混じりですが「来てください」と言われたら、とにかく行かないわけにはってことで。東鍼校のクラスメイトやいやしの道の仲間に声をかけて3人で行ったのが始まりです。
でも私は取材だったので「ニーズはありますか?」って押し付けない相手ベース。
勘違い混じりですが「来てください」と言われたら、とにかく行かないわけにはってことで。東鍼校のクラスメイトやいやしの道の仲間に声をかけて3人で行ったのが始まりです。
うん、行くしかない。最初はどのような活動をしたんですか?
ツルタ
三輪先生
最初は避難所で施術をしました。そのうちに評判になり、市役所や消防、警察などまで広がり、最終的には宮城県内6つの市町で活動しました。地元の市職員や消防署員など、地元を支える人たちを支える医療職がほかにいなかったので。
「支援者の支援をする」って災プロの目的の1つでしたね。こういう発想が見事だなって思います。
ツルタ
三輪先生
それから血圧計と体温計を持ち込んでいたので、異常値の人がいれば保健師さんに報告していたことから、現場の医療団からも信頼されていました。
血圧とか体温とか、ほかの医療職との共通言語があったのは大きかったです。
血圧とか体温とか、ほかの医療職との共通言語があったのは大きかったです。
もともと西洋医学も大切にしていたから、ほかの医療職と連携がスムーズだった。
ツルタ
三輪先生
両輪だと思います。こうして当初から現地がぼくらを必要としてくれたので、もっと人を集めなければと思っていたら、紹介の紹介などで出身校も関係なく人が集まって。
それが偶然なんですけど、webに強い方、メール対応が完璧な方、スケジュール管理ばっちりな方、ボランティア経験豊富な方など、すごい能力があり、それでいて自分の思いだけで突っ走らない人たちがスタッフとして20人くらい集まってくれて、もう本当の会社みたいになって、のべ1000人を超えるボランティアを受け入れることができました。
それが偶然なんですけど、webに強い方、メール対応が完璧な方、スケジュール管理ばっちりな方、ボランティア経験豊富な方など、すごい能力があり、それでいて自分の思いだけで突っ走らない人たちがスタッフとして20人くらい集まってくれて、もう本当の会社みたいになって、のべ1000人を超えるボランティアを受け入れることができました。
すごいな。そうやって災プロは始まったんですね。
ツルタ
三輪先生
あれは奇跡でした。
▲2016年の熊本地震/問診する調整員(事務ボランティア)(写真提供:災害鍼灸マッサージプロジェクト)
▲2016年の熊本地震/避難所で、保健師へ報告する参加者(写真提供:災害鍼灸マッサージプロジェクト)
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