鍼灸師にとって最も身近で、治療に欠かせない道具、それが「鍼」です。
しかし、鍼が医療機器としてどのような分類がなされていて、販売にあたってはどんな責任が生じるかを、意外と鍼灸師自身が知らなかったりします。
例えば、円皮鍼。ドラッグストアでも売られているからといって、安易に鍼灸院で販売してはいませんか? 販売するには届出が必要です。医療機器の取り扱いには、知らなかったでは済まない重大な責任が伴います。
今回は、鍼だけではなく治療で使う道具全般について、高度医療機器等販売業・第二種医療機器製造販売業、タカチホメディカルの薬機事業部 総括責任者、甲斐 一紀(かい かずのり)さんにお話をうかがいました。
甲斐 一紀(かい・かずのり)さん
2013年3月神奈川工科大学工学部電気電子情報工学科卒業
2013年4月自動車会社にエンジニアとして入社
2014年10月タカチホメディカル株式会社に入社
2016年10月営業部主任
2018年4月薬機事業部総括責任者
2018年5月第二種医療機器製造販売業取得
学生同士の鍼の練習は厳密にはNG
今回は鍼や医療機器について、お話をうかがいたいと思います。「ハリトヒト。」と題打っているからには、鍼についてもきちんと取り上げる必要があると、ずっと思っていたんですよ。
ツルタ
甲斐さん
よい企画ですが、業界の問題点などやや辛口になるかもしれません。載せられますか?(笑)
タブーなきメディアを目指していますから(笑)。鍼灸業界のためになることでしたら、ぜひ。反対意見があれば、それもいずれ載せたいと思いますので。
ツルタ
甲斐さん
鍼灸業界も大きな転換期を迎えていますからね。議論が深まることで、私自身も気づきがあるかもしれません。そのきっかけとなるよう、お話しさせていただきます。
タカチホメディカルは創業してどれくらい経ちますか。
ツルタ
甲斐さん
医療機器、医療衛生材料を販売する商社として創業して、今年(2021年)で40年になります。2019年の5月に第二種医療機器製造販売業の許可証を取得したので、メーカーでもあります。
医療機器全般を扱っている会社ということですね。
ツルタ
甲斐さん
あとは、日本理学療法器材工業会(以下、日理工)の窓口も担っています。日理工は、鍼灸や柔整、理学療法などで使用される機器や器材の供給を行う製造業者と販売業者の集まりで、全国で約100社が加盟しています。先生方が学術大会やセミナーを開催する際の医療機器・医療用品の出展依頼などをとりまとめています。
父(金井正博)が全日本鍼灸学会の実行委員長を務めていたとき、甲斐さんとやりとりしていたと聞きました。
ゆうすけ
甲斐さん
代表の父(甲斐 新一)ですね。日理工は、全国の販売店が集う情報交換の場でもあります。あと、会社としては、鍼灸学校の教材にも力を入れています。例えば、お灸用の青竹ですね。
懐かしい。母校で透熱灸を練習するときに使っていました。
タキザワ
治療院や専門学校に足を運びながら、ずっと医療機器の販売に携わってきたのですね。また、日理工の窓口として、全国の販売店からの声も集まってくると思います。メーカーの視点から、鍼灸業界にはどんな課題があるとお考えですか。
ツルタ
甲斐さん
そうですね、長く販売してきて思うのですが、鍼灸師さんって、学生の時からなにげなく鍼を使っている人が多い気がします。
まあ、そうですね。入学式の後に渡されて、深く考えることはなかったかな。
ツルタ
甲斐さん
鍼って本来は、鍼灸の学生さんであっても、自分以外には使用不可なんですよ。
学生同士で練習しますけど。
ツルタ
甲斐さん
厳密にはダメなんです。でもカリキュラムで実技は必須なので、「実習として学校の敷地内で、お互いの了承を得てやるのは目をつぶっている」というのが実際のところだと思います。
学生さんはたくさん練習したいだろうけど、まだ無資格なんですよね。ちなみに自分に刺すのは?
ツルタ
甲斐さん
それは学生さんに限らず、別に問題ないです。
もし患者さんが「自分で買って自分で刺しています」って言ったら、施術者としては「やめてください」って言いたくなっちゃうんですけど、法律的にはじつはOKってことですか?
タキザワ
甲斐さん
一応OKです。ただ、刺したら危険な部位もあるじゃないですか。だから鍼灸のプロとして「やめた方がいいよ」っていうアドバイスはしてもいいと思います。
刺さない鍼は「管理医療機器」か「一般医療機器」か
甲斐さん
おそらく、鍼が身近な人ほど医療機器だという感覚が希薄になってくるんだと思うんです。「一般医療機器」や「管理医療機器」については、聞いたことがありますか。
はい、なんとなく…。鍼はたしか「管理医療機器」ですよね。
ツルタ
甲斐さん
そうです。あえて言うと、管理医療機器としてディスポーザブル鍼灸針に医療機器認証番号が付いていることが基本です。仮に鍼灸の鍼っぽいモノがあったとしても、それが医療機器とは限らないし、きちんと滅菌されている保証はないんですよ。
なるほど。そういう見方ができるんですね。
ツルタ
「管理」がつくのは、どういう医療機器ですか。
タキザワ
甲斐さん
簡単に説明すると、人体に侵襲性及び影響を与える物、安全性と衛生面が確保されている機器・用品が管理医療機器になります。
そうすると、管理医療機器じゃない鍼っていうのもありそうですね。てい鍼は、体内に入れないので、一般医療機器になりますか。
タキザワ
甲斐さん
てい鍼またはローラー鍼は、一般的には医療機器ではなく、接触鍼として使われていて、一部、一般医療機器としている商品があります。鍼という名前を使っているので、本当は一般医療機器以上にしなければいけないという考え方もあるんですけどね。
治療に使うものはすべて管理医療機器の認証をとっておけば安心だと思うのですが…。
ゆうすけ
甲斐さん
そのとおりです。でもなんで認証を取らないかと言うと、管理医療機器として認証・承認を取得するのには、費用がかかるんですよ。
認証を取るには、どういう手順が必要なんですか。
ゆうすけ
甲斐さん
商品によって異なりますが、認証、承認の申請手順は構造-電子回路、性能試験、製造工程、流通経路、製造責任者などの審査の手順になります。
パルスの場合でいえば、国が指定した第三者機関に出して、本体及びコードまで計測器で全部測って、人体に通しても問題ないかをチェックします。
パルスの場合でいえば、国が指定した第三者機関に出して、本体及びコードまで計測器で全部測って、人体に通しても問題ないかをチェックします。
すごく大変、でも信頼できる。それはお金もかかりますよね、医療機器は値段が高くなるわけだ。
ゆうすけ