臨床に還元するのが研究者の役目です/鍼灸師:松浦 悠人

実際の臨床に近い状況をいかに作るか

大学院で自分が「やりたい」と思うテーマを見つけてから、論文として書き上がるまでに、特にどんなところが大変ですか。
タキザワ
タキザワ
松浦先生
松浦先生
まずは漠然とした疑問から始まります。その疑問を研究で解明できる形に落とし込んだものを「リサーチクエスチョン」といい、きちんと設定するためには、4つの要素が必要になります。
4つ?
タキザワ
タキザワ
松浦先生
松浦先生
「どんな患者(Patient)」に「どんな介入(Intervention)または要因(Exposure)」があると、「何と比較して(Comparison)」、「どんな結果になるか(Outcome)」と、4つの要素に分けて明確にします。これを「PI(E)CO」と呼びます。
研究の骨組み作りですね。
ゆうすけ
ゆうすけ
松浦先生
松浦先生
そうです。次に、リサーチクエスチョンに先行研究がないかを調べます。医中誌ウェブやPubMedで観て、同じ研究があればやらないです。研究にはオリジナリティがないといけませんから。
あぁ、誰かが先にやっていたらダメなのか。
タキザワ
タキザワ
松浦先生
松浦先生
僕の場合は、うつ病に対する鍼治療の研究を全部調べてリストにしました。まだ誰もやってないことがわかれば、研究計画書の作成に入ります。これがめちゃくちゃ大変ですね。1年生の前半くらいは、これにほぼ費やします。
じっくり準備するんですね。
タキザワ
タキザワ
松浦先生
松浦先生
この計画の段階で、いろんな研究の手法を学んでいくことになります。データの測定方法は特に重要です。評価尺度に信頼性がなければいけませんからね。
患者さんの言う「良くなったです」というのを、どう良くなったのか、数値化しなきゃいけないですものね。
ゆうすけ
ゆうすけ
松浦先生
松浦先生
被験者をどうやって選ぶのかも、難しいところです。この対象が偏っていると「その研究は、一般の患者さんにはあてはめにくいよね」となってしまうので。
実際の臨床に近い状況を、いかに作るかが大事なんですね。
ツルタ
ツルタ

臨床家と研究者がコラボする理想的な形

松浦先生
松浦先生
だからこそ、開業鍼灸師のみなさんと一緒にやれるのが、理想的なんですよ。
面白そうだけど、今の話を踏まえると、ただ患者さんのデータを本人の承諾のもと提供したとしても、あまり意味はなさそうですよね、リサーチクエスチョンに沿ったものでないと…。
ツルタ
ツルタ
松浦先生
松浦先生
そのとおりです。研究者と臨床家の連携で、よくある誤解の1つなんですが、「こんな患者さんが来たから、データを取りました」と送ってもらえるのは、ありがたいのですが、最も重要な設計図のところが抜けてしまっているんです。
せっかくやっても無駄ってことですか。
タキザワ
タキザワ
松浦先生
松浦先生
無駄ではないんですが、かなりバイアスが入ってしまっているので、研究の信頼度としては低くなるんですね。そこに研究デザインの概念が入れば、貴重な臨床データがもっと生きてくるんです。
だけど、臨床の現場でそこまでは難しいかな…。
ゆうすけ
ゆうすけ
松浦先生
松浦先生
ですので、研究の設計図はこっちで作ります。みなさんには、データをとってほしいんです。
なるほど、そうか。研究者側が評価の仕方とかを決める。それに全国の鍼灸師が協力すれば、たくさんのデータを得られるようになる。
ツルタ
ツルタ
松浦先生
松浦先生
さらには、タブレットを用いた簡単な測定方法をこちらで考えるので、それをやってもらってデータを送ってもらうとか。そういう手軽な連携の仕方もあると思うんです。
それならできそう。
タキザワ
タキザワ
松浦先生
松浦先生
その研究をやることで診療の質が上がって、患者さんの治療満足度も上がれば、リピートにつながる…くらいのことが言えれば、広く先生方が研究に参加してくれる1つのきっかけになるんじゃないかと思っています。
売上とか関係なしでも、「この研究が鍼灸の未来に役に立ちます」って言われたら、志のある鍼灸師は動くと思いますよ。
ツルタ
ツルタ
研究と臨床をつなぐ大きな理想ですばらしいと思いました。僕も協力したいです。
ゆうすけ
ゆうすけ
松浦先生
松浦先生
研究の種を運んでくれるのが開業鍼灸師で、その疑問を解決して臨床に還元するのが研究者の役目だと思っています。お互い協力しあっていける、理想的なかたちをこれから作っていきたいですね。

取材協力:東京有明医療大学

【記事担当】
取材 = ゆうすけタキザワツルタ
文 = ゆうすけ
撮影 = ツルタ
編集 = くちやまだ

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