鍼を受けてる時間って、こんなに気持ちよくて幸せなんだ(前編)/鍼灸師 中根 一

「医療」ってなんだろうね

人にはそれぞれ軸になるような問いがあると個人的には思うのですが、中根先生の問いってどんなものですか?
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
根っこのところ、言っちゃっていいっすか?
前置きが長くなりましたが、ぜひお願いします(笑)。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
僕は「鍼灸師が語るべき医療ってなんだろう」って、いつも考えててさ。
すごく根本的な…問いですね。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
僕たちはさ、「鍼灸の治療について」とか「鍼灸は医療だ」という話をよくするじゃない?
「鍼灸とは、治療とはなんぞや」って、飲み会のよくテーマになりますね。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
じゃあ「医療」とは何か、学校で学んだ記憶ある?
あんまり…1年生のはじめの「医療概論」でそんなお話があったような。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
ちゃんと学校に行ってなかったから僕も記憶が定かじゃないんだけど、東洋医学を専門に学ぶ学校の授業で、「医」について突っ込んだ話がなかったような(苦笑)。
「医療」は記憶にないですが「健康」はWHO憲章の定義を習います。
※Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
(日本語訳:健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。)
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
ね。でも、その定義って西洋医学の話だよね?
そう言われてみれば、そうですよね。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
西洋医学でいう「健康」を実現するんだったら、医師として医療したほうが効率がいいじゃんって思うわけ。
だって、それが最適解だもん。
わざわざ東洋医学の理論や治療法を使って、西洋医学的な目標を実現するなんて、非効率なことをしなくてもいいと思うの。
そうすると僕たちは、「そもそも鍼灸師にとっての『医療』や『治療』ってなんだろう?」って、東洋医学の立場から考えないといけないと思うんです。
で、その問いに対して、僕の答えは一般的に言われているものとはちょっと違うんですよ。
これ(ホワイトボード)使っていい?
もちろんです。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
「医療」とか「治療」って、何気なく言ってるけどさ。
「医療=いりょう」は音読み、「治療=ちりょう」も音読みだよね。
僕たちは、この2つを音で聞いたまま読んでいるだけなの。
でも、音読みじゃ、言葉自体の意味は伝わらないって中学で習ったじゃない?
てことは、意味がぼんやりしたまま、僕たちはずっと語り合ってるんだよね。
ちなみに鋤柄くんは、「医療」と「治療」それぞれ訓読みでなんて読むか知ってる?
まずは「医」から。
…わかんないです。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
「医」ってね、くすしと読むの。医師の古称を「くすし」っていうの。
じゃ、「治」これは?
おさめる。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
そうだね。じゃあ「療」は?
「療」って…あ、訓読みはわからないです。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
そうなんだよ。これの訓読み、なかなか聞かないよね?
ないですね。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
ないでしょ。聞きたい?
聞きたいです。教えてください。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
目つぶってて。目つぶってて。
いくよ。いくよ。ハイ、目開いていいよ。
おおーーーー。うっそお。
スキカラ
スキカラ

中根先生
中根先生
つまり「医療」や「治療」って、「疾患を持ってる状態からの離脱のための行為」というイメージがあるじゃない?
でも、それはなんとなく常識化した、西洋医学的な意味合いでの話なわけ。
僕らは古典医学の専門家として「医療」や「治療」に携わっているんでしょ?
だから漢字一つひとつがどういう意味を持つのか、訓読みして要素分解してみたら、自分たちに課せられたテーマがちゃんと見えてくるんだよね。
まさかこんなところに「いやし(癒し)」が隠れていたとは思いませんでした。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
くすしが治めて癒すわけですよ。
で、何を治めるかというと、陰陽や五行、気血津液なの。
これらを治めて、そして癒す。
なるほど。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
あとさ、「癒す」っていう漢字の意味が、これまた深くてさ。
「やまいだれ」は床に伏せるって意味で。
「兪」は抜き去るという意味。そこに「心」がある。
つまり、「床に伏せることになった原因を心から抜き去ってあげる」というのが癒しなわけ。
だから「癒し系」っていうと軽いけど、めちゃめちゃいい言葉で。
するとお悩みが失恋であろうと、季節の変わり目の不調であろうと、食べ過ぎであろうと、なんでもいいわけですよ。
へこたれている人をなんとかしてあげるっていうのが、僕らがやっていることの本質なんで。

すごく優しいイメージですね。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
だから未病を病理から語るのもいいんだけど、目の前の人を、人生という文脈で診てあげて、この人のつらさが和らぐといいなと思う気持ちとか、心の機微を察するっていうのかな。
そんなことが「医療」とか「治療」であってほしいなって思うの。
こういうことについての議論って盛んじゃないし、そもそも一般的な理解でもないってことも解ってる。
たしかにわたしもはじめて聞きました。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
で、いろいろ考えたんだけど、「治療院」って名前につけちゃうと、病気の人しか来ちゃダメなのかな?って思われちゃうから、僕の鍼灸院は『鍼灸Meridian烏丸』といって、屋号に「治療院」ってつけてないの。
名前って大切だからね。
東洋医学では「未病が大切だ」っていうけど、病気になってしまった人だけを診る病院みたいな名前にしちゃうと、治未病を提供できないじゃん。
だから『鍼灸Meridian烏丸』は治療院とは名乗らない。鍼灸を提供するだけ。
じゃあ、中根先生にとって、その「医療とはなんだろう」という問いの答えを見つける活動が、治療院という形じゃない『鍼灸Meridian烏丸』であると。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
そう。お金があるとかないとか、センスがいい悪いとか関係なくてさ。
鍼灸師として何がしたいかっていう目的さえはっきりすればいいと思うの。
目的が決まってないと、何をすれば良いのかわかんないじゃん。
でも目的がハッキリすれば手段が決まるから、世の当たり前に迎合しなくても済むし、結果的に他と違うことができる。
なるほどなるほど。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
この辺りのことがなんとなくだと、たとえば治療院カタログで待合ソファーやウェアを買っちゃうようになるのよね。
だから、他所と同じようなデザインの院が出来上がるの。
判で押したような。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
そうそうそう。
逆に、ちゃんと自問自答しながら院をデザインするとさ、なんか変わったことをやっているとか思われちゃって「なんだあれ?」って言われかねないんですけど。誰にも迷惑かけてないから、まぁいいじゃんっつってね。
…もう少し喋っていい? これ、止まんなくなるね。
皆さんそんな感じです。大丈夫です(笑)。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
良かった(笑)。
デザインって設計という意味だから、院をデザインする時に考えないといけないのは、「どんな人のためにこの空間があるんですか?」ってことなんだよね。
たとえば一般的なソファの座面の高さってだいたい40cmになってるんだけど、待合室のソファがそれだと、患者さんによっては立ち上がるのが大変かもしれないって。
座面が低いとゆったりできますけど、立つのはしんどいですね。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
そう、つまり腰が痛い人にとっては、座面は高くて浅いソファがいいの。その方が立ち上がりやすい。
だから、Meridianの待合室の椅子は、高さの変わるカウンターチェアにしてるんだよ。
腰が痛い人の立ち上がり動作が楽だもん。
お電話でご予約をいただく時に主訴を確認するから、ギックリ腰の場合は座面を高くして準備できるしね。
たしかに、先生の院にお邪魔した時に、待合室にしては珍しい椅子だなって思いました。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
ま、予約制だから長くお待たせしないってこともあるんだけどさ。
あと、受付から靴を履くまでの導線とベンチもデザインしてあってさ。
ご高齢の患者さんが、お金をお支払いされてから立ち上がるという行為がスムーズにできるように座面の高さを二段にしてる。
「どんな人がこの空間を使うのか?」という問いが立てば、解決へのアイデアが生まれ、結果としてデザインが変わる。
問いが立たなければ、買ってきたものをただ置くだけになるってことですね。
スキカラ
スキカラ
中根先生
中根先生
うん。僕はそう思うんだよね。
だから、鋤柄くんにあのセッションで「おかしくないですか?」って問いかけられてさ、鍼灸についてのいろんなことを「こんなもんだ」って見過ごしていた自分に、参加者は気付いたんじゃないかな? みんなほんとは心の中でちょっと手を挙げてたよ。
だから、表面的にはスベッたかもしれないけど、賛同してる人は多かったはず。
ありがとうございます。
スキカラ
スキカラ

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