「フェムテック」で鍼灸のブランド力を高めよう/鍼灸師:清水 洋二
科学としての鍼灸をより広く知ってもらう

そういう意味では、市民公開講座は鍼灸のことを一般の人に知ってもらう絶好の機会ですね。
今回の市民公開講座は野田聖子議員が引き受けてくれました。野田議員は自民党内のフェムテック振興議員連盟の代表です。鍼灸がいかに女性の健康に貢献できるのか。女性の健康促進のための政策を考える立場の人に知ってもらう、またとない機会になりそうです。
まさにこれからフェムテックを盛り上げていこうとする野田議員に、鍼灸を知ってもらうことになりそうですね。そういう発信も学会の大切な仕事の1つだと思います。
フェムテックについては「生理や更年期などの女性特有の悩みについて、先進的な技術を用いた製品・サービスにより対応するもの」として、経済産業省も促進しようとしています。
最近は、大野智先生(島根大学医学部附属病院 臨床研究センター長・教授)と山本高穂さん(NHKディレクター)の共著で『東洋医学はなぜ効くのか ツボ・鍼灸・漢方薬、西洋医学で見る驚きのメカニズム』が、ブルーバックスから出て話題になりました。ブルーバックスは、一般向けの科学書レーベルですから、科学としての鍼灸が今まさに注目されているんですよね。まさに鍼灸は、先進的なフェムテックの一つといえます。
厚生労働省はまだ「フェムテック」という言葉は使っていませんが、女性の健康ナショナルセンターを設立しました。そこで全日では、小宮ひろみ先生(女性健康ナショナルセンター設立準備室理事長特任補佐)にも講演してもらいます。
すごい布陣ですね。こういうのが下地になって、女性の健康総合センターの研究所に鍼灸師が勤務する未来が来るかも…。
十分にあり得ますよね。今回の学会でフェムテック鍼灸の注目度が一気に高まるんじゃないかと思っています。
「産婦人科領域に鍼灸は効く」という確かな手ごたえ
そのほかに講師としては、武田卓先生(近畿大学東洋医学研究所所長教授)や鍋倉淳一先生(生理学研究所所長)にもお話いただくことになりました。まずは会頭講演で、前回の愛知大会から今回に至る経緯や、フェムテックの説明を私がおこないます。そこからより専門的で、実用的な講演で勉強していただければと思います。
先生の会頭講演がファンファーレとなるわけですね。先生ご自身は、どういった経緯で産科領域の研究へと進まれたのでしょうか。
専門学校を卒業するときに、そのまま開業するか、どこかで勤務するか、柔整師を取りにいくか…。いろいろ迷ったんですが、どれもしっくり来なかったんです。というのも、専門学校の勉強だけでは、鍼灸にはあまりにも未知な部分が多いじゃないですか。そこで「研究しながら生活できる仕事はあるかな」という視点で考えたときに「学校の先生っていうのがあるな」と思ったんですね。
それで研究と教育を両立するような道へと進んだんですね。
中和医療専門学校の教員として働きながら、藤田保健衛生大学(現:藤田医科大学)の婦人科教室に通っていました。
当時、産科婦人科分野での鍼灸は、形井秀一先生と矢野忠先生がリードしてくれていましたが、それほど続く人がいなかったんですね。みなと違う道に進んだほうが面白そうだなと、産婦人科領域を選びました。
指導教官が、時間生物学と内分泌の研究をやっていたので、それを手伝ううちに、多囊胞性卵巣症候群(PCOS)についても調査するようになりました。そこで私はPCOSの前に起きる排卵障害をメインテーマにしました。
学生にも協力してもらって、800人以上の基礎体温を計測したところ、驚きの結果が出ました。20代の被験者が多かったにもかかわらず、基礎体温が保健体育の教科書のようにきれいな曲線をしている女性は、ほぼいなかったんです。
ほとんどのケースで排卵がうまくいっていなかったんですか…。
なかでも基礎体温の乱れが顕著な被験者を対象に、ブドウ糖試験をしたところ、耐糖能異常であることが分かりました。尿糖値が糖尿の前ぐらいの段階です。おそらくインシュリンの効きが悪い体質なのでしょう。だとすれば、鍼灸治療で良くなる可能性は高いじゃないかと思ったんです。
鍼灸がアプローチする部分をより明確にしたうえで、効果のエビデンスを調べたんですね。
無排卵で耐糖能異常がある7人の女性を対象に鍼治療をおこないました。
具体的には、両側の「耳介部肺門域一耳介部門点」の近傍、そして両側の「三陰交一足三里」に鍼通電療法を施しました。刺激量としては2Hzで、心地よい強度で20分間の通電です。
また、両側の「中髎一腎兪」に2Hzで心地よい強度で15分間の通電を、足部・三陰交に赤外線を使用しました。治療頻度は週1回で治療時間は約1時間です。使用した鍼はセイリン製ディスポーザブル鍼50㎜20号鍼で、鍼通電装置は全医療器製オームパルサー LFP4000Aを使用しました。
7人は決して多くない母数ですが、それでも7人中6人が排卵するようになり、基礎体温もきれいに出るようになりました。
かなりすごいことですよね。少なくとも鍼灸を試す価値はあるといえる実験結果だと思います。
さらに血糖値も正常域に持っていくことができました。鍼灸は婦人科系疾患の治療に役立つという手応えを得ましたね。
先生のそうした研究の積み重ねがあって、今回の全日では社会科学的なアプローチという形に発展していくわけですから、プログラムの充実度も納得ですね。
「フェムテック鍼灸」で社会的認知の向上へ

女性患者だけではなく、女性鍼灸師についてのプログラムもあるんですね。
フェムテックには「女性の働きやすい環境を作る」というものも含まれますからね。医療職でいえば、女性が多い看護師の場合、結婚や出産などの理由で退職したまま、看護師として復帰できていないケースが多くあります。
女性が活躍しやすい環境を業界として整えていく必要がありますね。
看護師免許を所持しているにもかかわらず、現在看護師として働いていない「潜在看護師」の問題は、そのまま鍼灸業界にもあてはまることです。そこで今回の全日では、看護協会や助産協会から講演者を招いて、鍼灸業界にも提言をいただきます。
「働き方」は欠かせないテーマだと思います。参加したい鍼灸師が全国でたくさんいそうですが、どうしても会場に来られない方もいると思います。アーカイブ配信もおこなわれますか。
遠方にお住まいの方もそうですし、どうしても会場だと1カ所しか見られませんからね。並行してじっくり観たい方にも、アーカイブ配信をおこなう予定です。
会場はアクセスが良さそうなのが嬉しいです。あと、やっぱり学会は学びもそうですけど、その後で一杯やったりするのが楽しいですよね。
駅からも、そして繁華街からも、アクセスはバツグンですよ。臨床、研究、教育といろんな分野で鍼灸業界に貢献している先生方が集まる、年に1度の大きな学会です。これを機に親交を深めてもらえればと思います。
今から楽しみです。私たち「ハリトヒト。」メンバーも取材の準備を進めていかないと。最後に一言、参加者にメッセージをお願いします。
産前産後の鍼灸を始めに、女性の健康を支えてきた鍼灸師の先生方は、全国津々浦々にいらっしゃいます。だけど、そのことが一般的にはあまり知られていません。それぞれの先生方の実績はあるけれども、業界全体としてのブランド力がないんですよね。
フェムテックという方向性を打ち出すことで、社会的な認知が高まって、ブランド力が培われていくと思うんです。いろんな医療職と組んでやっていけるということも、改めて知ってほしいですね。そのために、ぜひみなさん全日にご参加していただいて、一緒に「フェムテック鍼灸」を盛り上げていきましょう。
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