福島で、ゼロから体制を作り上げる
現在所属されている福島県立医科大学会津医療センター附属研究所に入職されたのは、その論文を投稿された後ということですか。
ゆうすけ
鈴木先生
そうです。漢方や鍼灸の部門を立ち上げるから来ないかとお誘いいただいて、2013年に福島に来ました。今年で10年になりますね。
福島に行こうと決意されたのは、何か理由があったんでしょうか。
ゆうすけ
鈴木先生
2011年の東日本大震災が1つの理由です。話をいただいたのがちょうど震災の翌年で、いわゆる被災の支援みたいなものも業務に含まれるっていうのを聞いて、何か手助けになればと思って決心したんです。
鍼灸のボランティアも被災地でおこなわれていた時期ですね。
ゆうすけ
鈴木先生
偶然にも僕の敬愛する大学の先輩が会津出身で、会津という場所にもすごい興味があったんですよ。それまでは福島県自体に行ったことがなかったんですが、ほぼ二つ返事で「行きます」と答えました。
今はどのような形で鍼灸に取り組まれているんですか。
ゆうすけ
鈴木先生
まずは学生に鍼灸を教えています。6年生まで漢方の授業や実習が全部組まれているんです。そのうち全体の1/3で鍼灸をおこないます。西洋医学メインの中で鍼灸っていうと、ちょっと敬遠しちゃうような人もいますよね。なので、特にメカニズムやエビデンスを中心とした授業と、そこに付随する東洋医学をしっかり教えています。福島県立医大の学生たちは、みんな押手とか切皮の練習をして鍼を打っているんですよ。
そうなんですか、実際に鍼を打つんですね。
ゆうすけ
鈴木先生
僕の体に打ってもらったり、場合によっては患者さんに打ってもらったりしています。後は研修医や鍼灸研究生の教育にも取り組んでいます。臨床では、緩和ケア科の入院患者さんをメインに診療しています。病棟に往診で鍼灸をおこなって、後は困ったような症例があれば紹介してもらうような形ですね。
病院で鍼灸が受けられる体制がつくられているんですね。何か工夫されていることはありますか。
ゆうすけ
鈴木先生
病院で鍼灸が受け入れられている大きな理由は2つあると思っています。
1つは僕ら鍼灸師の活動を医師たちが見ていて、「この人たちならまあいいかな」みたいに信頼してくれているのかなと。普段の行動や電子カルテの内容を見ていくうちに「この鍼灸師なら大丈夫だろう」と信頼してくれるようになっているんだと思います。
1つは僕ら鍼灸師の活動を医師たちが見ていて、「この人たちならまあいいかな」みたいに信頼してくれているのかなと。普段の行動や電子カルテの内容を見ていくうちに「この鍼灸師なら大丈夫だろう」と信頼してくれるようになっているんだと思います。
鍼灸師への信頼が大きいのですね。
ゆうすけ
鈴木先生
そんな感じがありますね。
もう1つは鍼灸研修生の1年目は各科をローテーションするんです。鍼灸師がそこの科に配属されて研修を受けるので、そこで色々なコミュニケーションが生まれたり、人の輪が広がったりするんですよね。各科の先生からすると、自分たちが教育した鍼灸師が次に上がってくるので、さらに信頼できるというか。だから、この信頼はいきなり始まったわけじゃなくて、10年かけて醸成されてきたものかなと感じていますね。
もう1つは鍼灸研修生の1年目は各科をローテーションするんです。鍼灸師がそこの科に配属されて研修を受けるので、そこで色々なコミュニケーションが生まれたり、人の輪が広がったりするんですよね。各科の先生からすると、自分たちが教育した鍼灸師が次に上がってくるので、さらに信頼できるというか。だから、この信頼はいきなり始まったわけじゃなくて、10年かけて醸成されてきたものかなと感じていますね。
やはり10年前、始めた当初は大変だったなっていうのはありましたか。なかなか鍼灸が受け入れられないみたいな。
ゆうすけ
鈴木先生
鍼灸が医療者の間で受け入れられないケースは、今でも一定数あるのかもしれません。その背景には、自分たちが教わってきたこととは違うものが入ってくる恐怖や混乱みたいなものがあるんじゃないかなと思います。ただ、ここでは後から僕らが入ってきたわけじゃないので、一緒にやってきた仲間みたいなところがありますね。
それが今の協力体制につながっていそうですよね。
ゆうすけ
鈴木先生
そうですね。準備室から始まっているので、いろんな話をしながら「いいじゃん、やってみようぜ」とかってなるんですよ。もちろん「ダメじゃん」もありますけど。
育てたいのは「医療がわかる鍼灸師」
教育では、どんな人材を育てたいとか、何か目標みたいなものはありますか。
タキザワ
鈴木先生
まず1つは医療機関の中で働ける鍼灸師、医療がわかっている鍼灸師を育てることですね。
あとは後期になると教育研究にも参画するっていうのが目標になっています。福島県立医大での鍼灸研修制度は2段階となっていて、前期が2年間、後期が3年間という医師と同じ仕組みにしたんですよ。私が大学院教授でもあるので、鍼灸研修には医学修士や医学博士を次のステップとして進んで欲しいと思っています。
あとは後期になると教育研究にも参画するっていうのが目標になっています。福島県立医大での鍼灸研修制度は2段階となっていて、前期が2年間、後期が3年間という医師と同じ仕組みにしたんですよ。私が大学院教授でもあるので、鍼灸研修には医学修士や医学博士を次のステップとして進んで欲しいと思っています。
福島県立医大がおこなっている鍼灸師の卒後研修は毎年大人気だと聞きます。我こそはって学生さんにぜひチャレンジしてほしいですね。
タキザワ
鈴木先生
はい、お待ちしています。鍼灸は古くて新しい医学っていう印象が強くて、今どんどんエビデンスが構築されていますよね。僕はできるだけエビデンスを公表しているんですよ。「ネイチャー出ています」とか、「こんな効果あります」とか広めるのも大事な役割かなと思っていて。エビデンスを臨床に落とし込むよう努めています。
臨床で印象に残っている症例はありますか。町の鍼灸院とどんな違いがあるのかも気になります。
タキザワ
鈴木先生
診ている患者層はだいたい似ていると思います。「肩こりがある」とか「寝れない」とか。唯一違う点は、病院が併設されているので医師から紹介された患者さんが来ることが多いですね。中には「小脳脊髄変性症です。鍼灸で何とかなりませんか」というような、重篤病名の患者さんが紹介されるケースもあります。
医師からの相談は、けっこう気軽にくる感じなんですか。
タキザワ
鈴木先生
垣根は低いかもしれないですね。僕はなるべく断らないようにしているので「診れますか?」って相談されたら、基本的に「診れます」って言って、1回来てもらって、というところからスタートするので。あと病院なので、レントゲンや血液検査、MRIなどの医療情報が手に入りやすいのも特徴です。
医師やコメディカルとの共通言語を確立するにも、理想的な環境のようですね。
タキザワ