教員にとって臨床は「毒」であり「魅力」/関東鍼灸専門学校・副校長:内原 拓宗

Chapter7 【鍼灸界《オンリーワン》の存在へ】

わたし、内原先生のことを「鍼灸師でSNSを活用されている代表格」のおひとりだと思っているんです。
さまんさ
さまんさ
内原先生
内原先生
わ、嬉しいですね。
ちなみにSNSの目標って何かあるんですか?
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
単純に言えば、フォロワー数ですね。
フォロワー数を増やさないと話にならないです。
影響力?
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
そうですね、自分が良いと思った情報を拡散できるような状況を作りたい。
できれば一般の人も含めて。そう思っています。
そう。そこがわたし、不思議に思っていて。
すでにフォロワー数が1000人以上いらっしゃって、さらに一般の方も含めてフォロワー数を増やしていきたいって考えていらっしゃるのに。
さまんさ
さまんさ
内原先生
内原先生
はい。
「易」と「鍼灸の4択問題」、そして「今朝の家事情報」を毎日毎日ツイートされるじゃないですか。
さまんさ
さまんさ
内原先生
内原先生
そうですね。1日も欠かさず。
でも、それ、一般向けでも何でもないじゃない気がしていて(笑)。
さまんさ
さまんさ
内原先生
内原先生
(笑)。
SNSをがんばっていらっしゃることは伝わってくるんですよ?
でも、「この情報、誰向けなの?」っていつも混乱しちゃうんです。
さまんさ
さまんさ
内原先生
内原先生
そうですねぇ…(笑)。
自分ではよくわかってないです。
でもたしかに「自分は◯◯を発信したい」という欲望に忠実かもしれないですね。
そのあたりは、幼少期からの性格が出ているというか…(笑)。
でも、そこに魅力を感じるんですよね。毎日、先生のツイートを楽しみにしているわたしがいて。
さまんさ
さまんさ
内原先生
内原先生
ありがとうございます(笑)。
群れたいという気持ちを持ちつつも、個性が爆発している感じなのかなぁと。
さまんさ
さまんさ
内原先生
内原先生
ほんと、そうかもしれない。面白いなぁ…。
自分の個性ってなかなか抜けないもんですね(笑)。
内原先生は、内原先生のままってことですよね。
でも、少し前まで、学校の名前「関東鍼灸専門学校」というアカウント名でずっとツイッターをしていましたよね?
どうして個人ではなく、学校名義のSNSを始めたんですか?
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
学校の存続のためです。
職員として広報担当をしていた頃から、なんとか学生を集めようと試行錯誤していました。
なるほど。
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
おしゃれな冊子を作ったり、易を前面に押し出してみたりと、色々としてみたのですがあまり効果もなく…。
本当にどうしたらいいのか…。で、悩んだ挙げ句のSNSです。
なんといってもお金がかからないですから(笑)。
うんうん。
ツルタ
ツルタ
ちなみに「関東鍼灸専門学校の非公式ゆるキャラ・カテン君を作ってみました。わたしが中の人をつとめます。」という感じで始めたんですか?
学校の上層部の方から怒られたりしなかったんですか?
さまんさ
さまんさ
内原先生
内原先生
…幸い、その前に副校長になっていたんですよね。
ラッキーでした。表だって言われることはなかったです。
現場の戸惑いが伝わってくるような…(笑)。
さまんさ
さまんさ
内原先生
内原先生
上司である副校長が始めるんですからね…(笑)。
正直「仕事中にツイッターはどうなの?」という意見はありましたね。
その気持ちはわかりますね。
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
でも申し訳ない気持ちをよそに…、だんだんとツイッターの可能性に気づいてしまったんです。
特にセミナーをやり始めたことで、好回転しちゃって。
リアルとSNSが噛み合ったんですね。
さまんさ
さまんさ
内原先生
内原先生
そうです。人との出会いがあって、自分の考えも深まっていきました。
これを学生に還元できたら、学生の反応も変わるんじゃないかって思いました。
それはある意味「野心」ですよね? その先にどんな目的が?
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
鍼灸の普及と発展です。
おっ、かっこいい…。でも本当にそれしかない?
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
もちろん、うちの学校に学生が集まるようにはしたいです。
なるほど、鍼灸と関東鍼灸専門学校の発展ですね。
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
はい。うちの学校の存続と発展が鍼灸業界に資すると、自分としては確信していますから。
それは先ほどのお話にあった、易や東洋哲学を大切にする独自性のある学校だからということですかね?
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
そうですね。本校の在り方は鍼灸の多様性を保つことに繋がると思っています。
他の鍼灸の否定もしません、多様性が大事です。
最近はSNSに対してどのようにお考えですか?
さまんさ
さまんさ
内原先生
内原先生
最近は、SNSと易をミックスさせることを考えています。
えっ! 易とSNSのミックス!?
ツルタ・さまんさ
ツルタ・さまんさ
内原先生
内原先生
そうです。易の特徴って「問うこと」だと思っています。
そして、その場で結果が出る。その出た結果に対して分析や解釈するのが易なんですが…。
ふむふむ。
ツルタ・さまんさ
ツルタ・さまんさ
内原先生
内原先生
SNSに投稿するのも、自分から「何か」を切り離して、問いや想いをSNSに投げかけるわけです。
たしかにそうですね。
さまんさ
さまんさ
内原先生
内原先生
投げた結果が無反応だったり、特定の人に響いたり、コメントが返ってきたりするわけです。
これって易に似ているじゃないかって思い始めました。
わかったような…。
ツルタ・さまんさ
ツルタ・さまんさ
内原先生
内原先生
だからSNSは問いを投げかける場ですね。特にツイッターは易っぽいなと思います。
なるほどなぁ。内原先生はどこまでも内原先生だ。
ちなみに内原先生はSNSの露出もあって目立つ教員ですよね。
それってどうお考えですか?
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
これは罪悪感というか、気咎めみたいなのが常にあります。
というと?
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
わたしはたまたまラッキーで、好き勝手やらせていただいている部分がありますが、全国の鍼灸学校には思うようにできない、やらせてもらえない状態で苦しんでいらっしゃる教員の先生方がたくさんいると、いつも頭の中にあるんです。
自分以外の教員に思いを馳せるわけだ。
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
わたしの一連の行動が、他校の教員の先生方の足を引っ張ることになったら嫌だなという思いですね。
なるほど。
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
一方で、「鍼灸学校の教育現場にわたしのような先生もいるよ」と発信することで、他の教育現場でがんばっていらっしゃる先生方を、はげます方向になれば良いなと願っています。
(だからアカウント名が「はげ(み)ます」なのか…!)
ツルタ・さまんさ
ツルタ・さまんさ

Chapter8 【SNSからリアルへ。カテンセミナー】

先ほど「セミナーをおこなうことで、SNSとリアルが噛み合った」というお話があったんですが、どういった意図でセミナーを開催されていたんですか?
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
そうですね…。
学会などに出てこないような先生や、表にあまり出ない先生を引っ張り出す機会を作りたいという意図ですね。
あとは「出会いの場の提供」みたいな意識もありました。
若手のセミナーもバンバン打っていましたよね。
画期的だなぁと思っていて。
ぼくも数回参加しましたけど、挑戦的ですごくおもしろかったです。
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
ありがとうございます。
でも、個人で開催するセミナーと、学校が開催するセミナーって意味が異なりますよね?
個人なら好きにやればいいけど、学校なら学校に相応しい内容の基準がありませんか?
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
そうですね…。いちおう学校が開催するとなると基準は生まれます。
企画内容によっては、厳しい意見をいただいたこともありましたね。
ですから、会場は学校だけど、学校は巻き込まず、自分の責任で開催するようにしていました。
えっと(汗)??
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
「基本的にトラブルが起こったら、内原が勝手にやったこと」、そういう風に切り離せるようには気をつけていましたね。
えっと、えっと(汗)?
何か問題になったら責任は内原先生がとるっていうお話だったんですか?!
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
ええ。
そんな共通認識だったんですか?
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
わたしと校長では…(笑)。
それは校内の話ですよね?
カテンセミナーの演者や協力者も把握していました?
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
そこは出さないようにしていました(笑)。
いやぁ…。なんて言ったらよいものか(汗)。
挑戦的すぎでしょう…。
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
もし何かあったら、学校をやめることになっていたかもしれないです。
エキサイティングでしたけれど…今も無事です(笑)。
よくそこまでできますね。
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
わたしは社会人経験や、回り道をけっこうしているので…。
なんとかなるんじゃないかって(笑)。
過去のいろいろな誤算や、思い通りにいかない経験が、ここに活きるのか…。
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
でも、やっぱり門を開きすぎたかなぁと。
自分が消費されている感じもしてきたので、一区切りつけて、今は力をためる方向でいます。

Chapter9 【教育者】

内原先生って、鍼灸学校の教員としては、やはり特殊ですよね。
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
そうかもしれませんね(笑)。
ぼくの意見ですが、鍼灸専門学校の先生は大きく3つに分けられると思っています。
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
というと?
「国試を合格させることに特化した講師」、「技術を教える臨床家」、「鍼灸を通して人を育てる教育者」。
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
なるほど。
もちろん重なる部分もありますが、内原先生は教員としてどうありたいという姿はありますか?
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
今の話なら…3つ目ですね。
職業訓練校や予備校といわれる現状はありますけど…。
でも、やっぱり教育機関なので、教育のプロフェッショナルでありたいという思いを強く持っています。
元々教員志望だったので、その気持ちは人より強いほうかもしれません。
社会科の教師になれなかったことが、ここに活きると。
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
そうです。だから関東鍼灸に教員をやってほしいと言われた時は「これも縁だな、こういう形で教育に携わることになるとは驚きだな」と思ったんですよね。
現実の教育現場では、どういう先生が求められていますか?
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
実際に鍼灸学校の学生は…「技術を教える臨床家」を求めてくるんですね。
「教育者」を求めてないんですよ。
なるほど…。
教員に「臨床家」として、鍼灸の技術を教えることを求めてくると。
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
そのギャップというのはずっと感じていて、それこそ教員になりたての頃は、そのニーズに応えようと「良い臨床家」になろうとしたことがありました。
うんうん。
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
でも、教員がやるべきなのは教育ですよ。
そこに至るまで時間がかかってしまいましたが、「教える」「伝える」ということにどれだけスキルがあるか、そういうことを考えているかが大事だと思います。
そして、とにかく「人」を育てなきゃいけないと気が付きました。
つまり教育者ですね。
ちなみにその育てたい「人」は、どういう「人」なのか教えてください。
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
この問いに至ったのはまだ最近のことですが…。
「自立型」ですね。
自分で問いを設定して、それを問い続ける。
そんな鍼灸師を育てたいという自分のこだわりがあるみたいです。
西野亮廣さんのSNS活用法や易につながるんだ…。
さまんさ
さまんさ
内原先生
内原先生
そうです。「自問自答できる人」ですね。
課題を人から与えられるばかりでなく、自分からも生み出して進化していくような…。
具体的に「自立型の鍼灸師」を作るのに何が必要ですかね?
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
そこが課題というか…(笑)。まさに試行錯誤しています。
今ちょうど教員になって10年で、まだまだ駆け出しなので。
10年で駆け出しって…(汗)。
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
でも実際に、鍼灸の教育業界って、10年前後で臨床に転じる先生が多いんです。
それこそ生涯、教育者として道を示せる人が少なくて…。
たしかに鍼灸業界は、「純粋な教育者」が極めて少ない印象がありますね。
でも、学生時代に臨床がしたくて鍼灸師を目指すのが普通ですから、理解はできます。
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
そうなんです。
わたしの勝手なイメージかもしれませんが…。
教員養成科に「教員を一生の仕事にする」つもりで進学する人ってほとんどいないですよね?
臨床家より教育者でありたい先生ってどれくらいいるんだろう…。
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
…少ないかもしれないですね。
「教育の専門家の不在」が実際に起こっているんですかね。
さまんさ
さまんさ
内原先生
内原先生
そうですね。
自分が「教育のプロフェッショナルである」という自負を持てるような人間が必要だと思います。
ちなみに鍼灸の教員養成科で「教育学」を学ぶ時間ってあるんですか?
さまんさ
さまんさ
内原先生
内原先生
まぁ、ありますが…少しですよね。
わたしの場合は大学で教育学に触れていたので。
その点で、回り道してほんとうに良かったと思うんです。
教員志望というより、鍼灸をもっと深く学びたいから養成科に進む方もいませんか?
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
一定数いらっしゃいます。
ただ現実に、教員がそんなに必要とされない時代があったんですよ。
そこで養成科自体が、専門学校の卒業後の臨床教育機関というふうに軸を移した時期もあったかと思いますね。
カリキュラムも素晴らしいので。
なるほど、そういう役割もあったんですね。
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
いまは…とにかく鍼灸教員が誇りを持って仕事をできるような環境が必要だと思うんですよね。
鍼灸教員はディスられすぎというか、下げられすぎていて…。
どうしても学生は、教員より「技術力のある臨床家」に憧れるので。
たしかにそういう場面は見かけます。
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
そういう風潮があるゆえに、教員が「教育現場を離れて臨床をやりたい」という流れになっていくので…。
「生涯をかけて、教育に力を注いでいくことへのプライド」。
多くの教員が、それを持つに至らないという現実がありますね。
なるほど。
教員のスペシャリストを目指す人は、「臨床」に惹かれないようにする努力が必要になるのか。
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
そう! まさに。
わたしたちにとって、臨床のすばらしさって、心惹かれる「毒」であり…代えがたい「魅力」なんです。
そんな中、卒業生が臨床家になっていくのか…。つらいな。
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
そうなんです。
育てた生徒たちが、臨床の経験を積んで母校に訪れてくれたとき…。
「こんなのが治った」「あの症状が治った」と話してくれるんですが、そういう報告は嬉しい反面、臨床家にならなかった自分にとって、「毒」として突き刺さるっていう…。
なるほど…。
教育のスペシャリストと言っても、原点は「鍼灸師」だから、臨床はやっぱり魅力に感じちゃいますよね…。
苦しい。
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
だから…、やっぱり教員の構造は理解してほしいですね。
無自覚にやられるので…。
どんどん追い詰められて教員を続けたい人が減っていくように感じます。
うんうん…。
ツルタ・さまんさ
ツルタ・さまんさ
内原先生
内原先生
ちなみに、SNSで露出を増やすことで、その問題を一緒に解決できる「教育者たる教員の仲間」が増えたらいいなと思っています(笑)。
え…。
ツルタ・さまんさ
ツルタ・さまんさ
ほんと、なんていうか…。
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
はい?
遠回りしているようで…してませんよね。
ツルタ
ツルタ
内原先生
内原先生
…そうかもしれませんね(笑)。


内原 拓宗(うちはら たくしゅう)先生


1997年 慶應義塾大学文学部史学科 卒業
2005年 関東鍼灸専門学校 卒業
2009年 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ教員養成科 卒業
同年4月より関東鍼灸専門学校専任教員
2016年4月より同校 副校長・理事
兼業主夫として二人の娘を育てる。
2017年頃より同校の非公認キャラクター「カテンくん」の中の人としてSNS上での活動を始め現在に至る
ツイッターアカウント:https://twitter.com/kanshinko

【記事担当】
取材・文=ツルタ
取材・撮影・編集=さまんさ

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