患者さんと生活を共有できるのが、訪問鍼灸の魅力です/鍼灸師:山田 誠
鍼灸の専門学校を卒業後、どんな進路に進むか。
すぐに開業できる状況ではない、就職するにも理想的な環境はなかなかみつからない…。そんな悩みを抱える人は少なくないだろう。
山田 誠(やまだ まこと)先生は専門学校を卒業後、すぐに就職して訪問鍼灸の事業を立ち上げるところから始めたという異色の経歴の持ち主だ。
訪問鍼灸には、どんな特徴があり、どんなところにやりがいがあるのか。「鍼灸師として活躍できるのはもちろん、残業が少ないので自分らしい生活ができる」。
そう語る山田先生に「訪問鍼灸」という働き方について、さまざまな角度から質問をぶつけました。
山田 誠(やまだ まこと)先生
1992年 埼玉県生まれ
2012年 日本ウェルネススポーツ専門学校卒業
2016年 了徳寺学園医療専門学校(現 スポーツ健康医療専門学校)柔道整復科卒業
2018年 同校鍼灸科卒業
2018年~2021年 同校チューター講師
2018年~ 訪問鍼灸マッサージ事業所勤務
2021年~ YaMato名義で活動開始。国家試験対策セミナーや訪問鍼灸マッサージ勉強会を主催。
柔整学校3年目で鍼灸学校にも入る
先生は卒後すぐに訪問鍼灸を始めて、7年目だそうですね。どのような資格をお持ちなんですか。
高校卒業後にスポーツの専門学校に通って、そのあとに柔道整復師の専門学校に入学しました。在学中に鍼灸学校にも通い始めて、鍼灸師の資格をとってからは、訪問鍼灸だけでやっています。
プロを目指して高校の部活で陸上競技に打ち込んでいたのですが、捻挫や肉離れを起こしたときに、鍼灸接骨院で治療を受けたのが、きっかけですね。いつかは身体が十分に動かなくなることを考えると、長くスポーツに携われるのはトレーナーなのかなと思い、目指すことにしました。
はい、鍼も受けました。ケガした足をかばっていたせいか、腰痛にもなってしまって…。腰に鍼を打ってもらったのが、初めての鍼体験です。心地よくて、メンテナンスとして鍼も受けるようになりました。
鍼の印象は当初からよかったんですね。高校卒業後、3つの専門で学んでいたことになりますが、就職していた時期もあるんですか。
スポーツの専門学校を卒業したあと、柔整学校の学費を稼ぐために、1年間就職しました。デイサービスと接骨院を運営している会社です。次に、柔道整復師の資格をとったあとは、鍼灸学校に通いながら、整形外科に勤務していました。
学びながら働いたことで、何か得たことはありますか。
1つ目の会社は、午前中がデイサービスで午後は接骨院だったんですが、「不定愁訴の患者さんが、こんなに接骨院に来るのか!」と驚かされました。柔道整復師だけでは十分な患者対応が難しいのではないか…という印象が、柔整学校に入ってからもずっとありました。そこで学校の先生に相談して、そのまま内部進学で鍼灸科にも通うことになりました。
現場を経験して、鍼灸ができた方が良いと思ったのですね。
それにしても、かなりハードですよね。学校を掛け持ちしたり、学校と仕事を掛け持ちしたり…。
たぶん飽き性なんで、いろいろ同時にやるのが向いているんですよね。陸上競技でも最初は短距離でしたが、最終的には十種競技をやっていたくらいですから。
十種競技は、2日間かけて実施されます。 1日目の種目が「100m走」「走幅跳び」「砲丸投げ」「走高跳び」「400m走」。 そして2日目の種目が「110mハードル走」「円盤投げ」「棒高跳び」「やり投げ」「1,500m走」です。
とても過酷な競技ですね。確かに、そんな経験をしていれば、学校と仕事の掛け持ちも乗り越えられるかも。
10種目に比べたら、むしろ少ないくらいです(笑)。
訪問鍼灸は営業に行く
鍼灸学校の卒業後は、就職して訪問鍼灸の会社に就職したんですね。
そうですね。ただ就職といっても、事業の立ち上げからで、本当にゼロからのスタートだったので、なかなか大変でした。患者さんもゼロなので…。
訪問鍼灸の起業ですね。何から始めればよいでしょうか。
まずは事務所を作ります。不動産屋で契約を結んだり、机やコピー機など最低限必要なものをそろえたりしていきます。
患者さんとはどのようにつながればいいですか?
いわゆる鍼灸院だと患者さんが来るのを待つのが一般的ですが、訪問鍼灸だと外出が難しい患者さんが対象になると思うので、待っていても仕方ないですよね。
訪問鍼灸の場合「ケアマネージャーに挨拶回り行く」というのが基本スタイルになります。ケアマネさんからの紹介で患者さんとつながるケースがほとんどだと思います。
訪問鍼灸を必要とする患者さんは、すでになんらかの介護サービスを受けている可能性が高いからですかね。
そのとおりです。通称「居宅ケアマネ」と呼ばれる、居宅介護支援事業所に所属する介護支援専門員の方々がいます。事務所の準備ができたら、いろんな居宅ケアマネさんのところに、ひたすら挨拶にいくというのが、業界のスタンダートな営業方法ですね。
訪問鍼灸でケアマネの心をつかむには?
挨拶に行っただけで、患者さんを紹介してもらえるものですか?
やはり競争はありますよ。いろんな事業所がケアマネジャーのところに挨拶に行きますからね。
私はまず鍼灸を受けてもらいました。立ち上げのときなんて、どうせ仕事もありませんしね(笑)。実際に鍼を体験してもらえれば、話が早いかなと。鍼を体験してもらうと、ケアマネさんがスピーカーになって、患者さんに「鍼を受けてみてよかったけど、どう?」と勧めてくれたりして、だんだん患者さんが増えていきました。
なるほど。いろんなアピールの仕方がありそうですね。
ところで、ケアマネさんって鍼灸を勧めるのは業務ではないですよね。どうして利用者さんと訪問鍼灸をつなげることがあるのか、そのあたりの実情が気になります。
ケアマネジャーは介護保険を取り扱っているので、医療保険の範疇である訪問鍼灸や訪問マッサージに、患者を紹介するメリットはそもそもないんです。
介護度によって介護保険の点数がそれぞれ異なっていて、例えばデイサービスなどの利用で、介護保険で使える分は使っちゃっているというケースもあるんですよ。そんなときに、医療保険で痛みをとってもらえるならば、患者さんとしてはうれしいですよね。
なるほど。患者さんのメリットになるから紹介するケースですね。
だから、まずは鍼灸の良さを知ってもらうのが大事になります。そのうえで、さらに「介護保険では対応しきれない部分を、医療保険でカバーできますよ」とケアマネジャーにちゃんとして説明して理解してもらうことが大切ですね。
その流れだと、確かに鍼灸を必要とする人がいれば勧めてくれそうです。鍼灸の良さを伝えていくのが営業になるんですね。
あとは、鍼灸の有害事象についても包み隠さず伝えることが大切です。ケアマネさんとの信頼関係をいかに丁寧に作れるかがポイントかなと思います。
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