「熱いお灸」と「温かいお灸」を使い分ける
三村先生
温熱刺激には、“熱い”侵害性の熱刺激と、“温かい”非侵害性の温刺激があります。熱刺激は直接灸、温刺激は間接灸として、臨床上の作用を観察して比較しました。
直接灸と間接灸の違い。
タキザワ
三村先生
これからする話は、実験的に確かめられたものではないので注意してくださいね。
はい、気をつけます。
タキザワ
三村先生
まずは、侵害性の熱刺激を与える直接灸についてです。
透熱灸には、鍼と似たような効果もあり、即効性があるので比較的急性の症状にも適応できます。
透熱灸には、鍼と似たような効果もあり、即効性があるので比較的急性の症状にも適応できます。
そういえば透熱灸って、鍼の響きみたいな感覚がありますね。
症状がある時は、特効穴にチクッと熱いお灸をすることが多いです。
症状がある時は、特効穴にチクッと熱いお灸をすることが多いです。
タキザワ
三村先生
鎮痛作用があり、半米粒大や糸状などの小さい艾炷の施灸では抗炎症作用を示します。
透熱灸ってすごい。もぐさを捻るお灸を大事にしていきたいです。
タキザワ
三村先生
次は、非侵害性の温刺激を与える間接灸についてです。
温灸は、熱感がマイルドなので慢性症状に適し、血流改善作用に優れていると考えます。
温灸は、熱感がマイルドなので慢性症状に適し、血流改善作用に優れていると考えます。
慢性症状には、温かいお灸が合うんですね。
タキザワ
三村先生
慢性痛の場合には局所の血行障害が起きていることが多いので、間接灸が有効であることがあります。
冷えている箇所などは面で捉えて温めてみるようにします。
これからは、患者さんの状態や治療の目的に合わせて、熱いお灸と温かいお灸を使い分けていきたいです。
これからは、患者さんの状態や治療の目的に合わせて、熱いお灸と温かいお灸を使い分けていきたいです。
タキザワ
温度感受性TRPチャネルの発見
三村先生
温熱刺激が感覚神経終末でどのように感知されるかについて、詳しく説明していきますね。
難しそうだけど、よろしくお願いします。
タキザワ
三村先生
1997年にCaterinaらは、トウガラシの成分であるカプサイシンに反応するチャネルが、43℃以上の熱刺激によっても活性化することを明らかにして、大きな話題となりました¹⁾。
わりと最近になってわかったことなんですね。
タキザワ
三村先生
実験グループのメンバーであった富永真琴先生(岡崎統合バイオサイエンスセンター細胞生物学部門教授)は、その時の興奮を「当時、温度刺激でチャネルが開口するという発想がなく、熱した溶液を注いでイオンチャネルが開くことを観察したときの感動は今も忘れられない。」と、記事に執筆されています²⁾。
日本人の先生も参加されていたとは。そして、大発見だったということが伝わってきます。
タキザワ
三村先生
このチャネルがカプサイシンで化学的に活性化されることはすでにわかっていましたが、温度のような物理的刺激でも活性化されることは知られていませんでした。
トウガラシを摂取したときの感覚“Hot”と、熱い温度“Hot”が同じ言葉であることにヒントを得て発見に至ったようです。
トウガラシを摂取したときの感覚“Hot”と、熱い温度“Hot”が同じ言葉であることにヒントを得て発見に至ったようです。
辛いと熱いは似てるけど、受容体が同じというのは驚きました。
タキザワ
三村先生
このチャネルは、のちにTRP(トリップ)チャネルの一種であることが判明し、TRPV1(トリップブイワン)と名付けられます。
TRPチャネルのさまざまな働き
TRPチャネルって、いくつか種類がありましたよね。
ゆうすけ
三村先生
現在までに9種のTRPチャネルが温度感受性を持つことがわかっていて、それぞれ異なる温度で活性化することが報告されています³⁾。
三村先生
特に高い温度と低い温度の受容体(TRPV1、TRPV2、TRPM8、TRPA1)は感覚神経に多く発現することがわかっています。
なにか理由があるのかな…。
ゆうすけ
三村先生
一般に、識別性が高く刺すような鋭い痛み(一次痛)を伝えるAδ線維にTRPV2(52℃以上)が多く発現し、鈍く持続性の強い痛み(二次痛)を伝えるC線維にTRPV1(43℃以上)が多く発現していることがわかっています。
より高温(52℃以上)の侵害性熱刺激を感受するTRPV2が伝達速度の速い有髄のAδ線維に発現していることにより、有害な情報を速く伝えることができます。
より高温(52℃以上)の侵害性熱刺激を感受するTRPV2が伝達速度の速い有髄のAδ線維に発現していることにより、有害な情報を速く伝えることができます。
防御システムとして理にかなっているんですね。
ゆうすけ
三村先生
一方、温かい温度を感受するTRPV3、TRPV4は皮膚の上皮細胞に多くみられます。
皮膚バリア機能は皮膚を温めることによって高まることが知られていますが、その機構にTRPV4が関与することが報告されています。
皮膚バリア機能は皮膚を温めることによって高まることが知られていますが、その機構にTRPV4が関与することが報告されています。
神経終末だけでなく、皮膚も温度を感じているんですか。
ゆうすけ
三村先生
皮膚のケラチノサイトにTRPV3が発現していて、ATPなどを遊離して感覚神経を活性化させることで間接的に温度感覚受容に関わることが報告されています⁴⁾。
皮膚そのもので感じた温度が感覚神経に伝達されるってすごいですよね。
皮膚そのもので感じた温度が感覚神経に伝達されるってすごいですよね。
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