TRPチャネルと免疫細胞
熱い刺激に反応するTRPV2(52℃以上)は肥満細胞に発現し、温かい刺激に反応するTRPM2(36℃以上)はマクロファージの他、樹状細胞、単球、好中球に発現していることが報告されています。
このことは、発熱すると免疫細胞が活性化されることを証明したものですが、灸刺激がマクロファージを活性化して免疫系に与える影響についても示唆を与えてくれます。
お灸の効果を推測する
しかし、感覚神経を介した反射を誘発したり、表層にある組織(皮膚や腺細胞、免疫細胞など)そのものを直接刺激して何らかの生体反応を起こしたりしていることは推測できます。
・侵害性の熱刺激を与える透熱灸
鍼と似たような効果も有し、即効性があり、比較的急性の症状にも適応する。
鎮痛作用があり、半米粒大や糸状灸などの小さい艾炷の施灸では抗炎症作用を示す。
侵害性の熱刺激を感受するTRPV1やTRPV2が感覚神経によく発現していることから、熱い温度の場合には神経反射を介して鍼と似たような速い反応が生じていると推測される。
・非侵害性の温刺激を与える間接灸
熱感がマイルドで慢性症状に適している。
血流改善作用に優れているため、局所の血行障害が原因の慢性痛に有効である。
主に局所の組織(皮膚や腺)や免疫細胞に作用してその反応を介して作用するため、持続的に繰り返し灸刺激を行うことで組織が変化したり、免疫細胞が活性化することによって、持続性の反応を起こすのではないかと推測される。
新たな可能性を感じたので、もっと温度を意識してお灸をしたいと思いました。
まだ名称と簡単な説明だけですが、今後研究が進んでいくことによって、TRPチャネルを介したお灸の効果の解明に期待しています。
―お知らせ―
(公社)全日本鍼灸学会関東支部学術集会
2021年11月28日(日)開催
実行委員長 三村直巳先生
テーマ
「今、知りたいお灸の効果―温熱刺激による生体反応を探る―」
この記事にも登場した、温度感受性TRPチャネル発見者のお一人である富永真琴先生が教育講演されます。
お灸好きの鍼灸師のみなさん、ぜひ視聴ください。
【参考文献】
1)Caterina, M.J. et al. : Nature, 389 : 816-824, 1997
2)富永真琴 ほか : 実験医学, 32 (4) : 504-511, 2014
3 )Tominaga, M. & Caterina, M.J. : J. Neurobiol., 61 : 3-12, 2004Ka
4)Mandadi, S. et al. : Pflungers Arch., 458 : 1093-1102, 2009
5)Kashio, M. et al. : Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 109 : 6745-6750, 2012
取材協力:東京医療専門学校
文=三村直巳
編集・撮影 = ツルタ
(2021.6.30公開)
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