うつ病の鍼灸治療と臨床研究のススメ 中編/鍼灸師・博士(鍼灸学):松浦悠人

3週連続公開
うつ病の鍼灸治療と臨床研究のススメ』第2弾

執筆は東京有明医療大学の松浦 悠人(まつうら ゆうと)先生です。

日々の臨床で浮かんでくる漠然とした疑問…。
このような疑問を解決するにはどうしたらいいのでしょうか。

前編では、うつ病の基本的な知識と鍼灸治療の可能性について学びました。

中編は、PICO(ピコ)という形式で構成しています。

PICOとは、臨床上の疑問を定式化する、研究の骨組み作りに利用される手法です。
Patients (P: 対象)・Intervention (I: 介入)・Comparison (C: 比較)・Outcome (O: アウトカム)、
4つの要素をそれぞれ明確化することで、「うつ病に対する鍼灸治療とその臨床研究」について理解を深めていきましょう。

いただいた原稿を、ハリトヒト。編集部が対談形式に再構成しています。

>>> 「うつ病の鍼灸治療と臨床研究のススメ 前編」はこちら。

松浦 悠人(まつうら ゆうと)先生

Patients(対象)

松浦先生
松浦先生
「対象」とは、この研究にどんな患者さんが参加したか、ということです。
研究に参加できる患者さんの基準を「組入れ基準」、参加できない基準を「除外基準」といって、対象には選択基準があります。
研究に参加できる患者さんの基準を設定しているわけですね
ゆうすけ
ゆうすけ

松浦先生
松浦先生
この基準が非常に重要で、その研究で得られた結果がどんな患者さん(=母集団)に適用できるのかが決まるからです。

対象の基準は、研究に参加できる患者さんの基準であり、その研究結果が当てはまる患者さんの基準でもある。
ゆうすけ
ゆうすけ

松浦先生
松浦先生
研究成果を臨床に還元できるかは「外的妥当性」と言われ、論文では組入れ基準と除外基準から判断されます。

研究は臨床に還元するのが大切だとおっしゃってましたよね。
基準の設定で気をつけていることはありますか。
ゆうすけ
ゆうすけ
松浦先生
松浦先生
例えば、「日本のうつ病患者」では対象が広すぎてしまいます。
広すぎる基準は「研究の実施可能性」を高めますが、結果をどんな患者さんに還元できるかが曖昧になり「外的妥当性」は損なわれます。
対象が広すぎても、かえって実際の患者さんに当てはまりにくくなってしまう。
ゆうすけ
ゆうすけ
松浦先生
松浦先生
逆に、「クリニックに通院する50歳代の女性でうつスコアが中等度のうつ病患者」のような基準では狭すぎます。
狭すぎる基準は「外的妥当性」を高めますが、研究参加者が集まりにくいため「研究の実施可能性」が低くなってしまうんです。
参加者が集まらなくて実行できなかったでは仕方ないですね。
ゆうすけ
ゆうすけ

松浦先生
松浦先生
ですから、「研究の実施可能性」と「外的妥当性」のバランスの取れた基準を作っていくことが重要となります。
研究もバランス感覚が大事になる。実際に松浦先生は、どのような基準を設定されているんですか。
ゆうすけ
ゆうすけ
松浦先生
松浦先生
ぼくは、「鍼治療開始以前、2種類以上の薬物による十分な治療で改善または寛解しなかった者」という基準を作りました。
この理由は、鍼灸臨床で遭遇頻度の高いような「薬で改善しなかった患者」を想定したためです。
その研究で良い結果がでれば、薬が効きづらくて困っている患者さんの助けになるはずだし、鍼灸治療が選ばれる機会も増えそうですね
「どんな患者か」の重要性がわかります。
ゆうすけ
ゆうすけ

松浦先生
松浦先生
例えばここで「自殺念慮のあるうつ病患者」という基準を作ったとしても、倫理的でないため実行できません。
そのような患者さんは鍼灸の適応ではないからですね。
ゆうすけ
ゆうすけ
松浦先生
松浦先生
そういうことです。
「どんな患者さんに研究の成果を適用したいか?」が重要になります。

Intervention(介入)

松浦先生
松浦先生
ここでの「介入」は、治療方法のことです。
まず、うつ病への鍼灸治療についてですが……。
「これ!」という確立された方法はありません。
やっぱりそうですよね(笑)。
臨床研究に複数の開業鍼灸師が参加する時は、どのように治療のやり方を統一しているんですか。
ゆうすけ
ゆうすけ
松浦先生
松浦先生
場合によっては統一も必要ですが、開業鍼灸院での効果をみたいのであれば、治療方法は各々のやり方で良いというのが私の考えです。
それは意外です。ある程度、みんなで同じような治療をするのかと思っていました。
せっかくの機会なので、なにか治療に関するアドバイスをいただけませんか。
ゆうすけ
ゆうすけ
松浦先生
松浦先生
「どんなツボを使えばいいですか?」と聞かれることが多いので、うつ病の鍼治療で使用されたツボを調査したことがあります¹⁾。
臨床試験での使用経穴なのであくまでも参考程度ですが、この論文に使用頻度の高い経穴を一覧にしてあります。
実際に松浦先生はどのような治療を行っているんですか。
ゆうすけ
ゆうすけ
松浦先生
松浦先生
ぼくの研究では、基本の10穴(百会、風池、心兪、肝兪、脾兪、内関、合谷、足三里、三陰交、太衝)を共通治療穴として、あとは患者さんの症状・所見に合わせた治療をします。
この基本穴も先行研究を参考に決めているんですよ。

過去の研究を参考に治療穴を選んでいるとは…。
やはり論文には臨床のヒントがたくさんあるんですね。
ゆうすけ
ゆうすけ
松浦先生
松浦先生
先行研究で最も頻用されていたのは百会と印堂の鍼通電療法で、周波数は100Hzの高頻度で行われることが多いです。
僕の場合は、印堂だと刺激が強いので百会と神庭にアレンジしています。
百会-神庭パルス、臨床的にはいかがですか。
ゆうすけ
ゆうすけ
松浦先生
松浦先生
けっこう患者さんの満足度も高い印象です。
治療が行き詰った時の一手として、頭皮への鍼通電を試してみるといいかもしれません。
多くの研究に用いられている治療法って気になります。
そして論文になっているから、こうして共有され、さらなる研究につながるんですね。
ゆうすけ
ゆうすけ
松浦先生
松浦先生
「治療方法は各施術者の自由」と言いましたが、臨床研究を論文化していく際は、介入を再現できるような記載が求められます。
ここでやっかいなのが、日本鍼灸の特徴でもある多様性に富んだ治療方法なんです。
流派や技術など、さまざまですからね。
ゆうすけ
ゆうすけ
松浦先生
松浦先生
さらに鍼灸治療は感覚的なところに頼る部分も多いので、自身の行っている治療でも、言語化することは簡単ではありません。
言語化を諦めている鍼灸師も少なくないと思います。
ゆうすけ
ゆうすけ
松浦先生
松浦先生
そのサポートツールとして「鍼の臨床試験における介入の報告基準(Standards for Reporting Interventions in Clinical Trials of Acupuncture: STRICTA)」が使用されています²⁾。
STRICTAは鍼灸治療の最低限記載しなければならない事項を定めた基準で、臨床研究を行う場合は、こうしたツールを使って、施術者の行った鍼灸治療を詳細に報告しています。
サポートツールを使えばうまくいくものですか。
ゆうすけ
ゆうすけ
松浦先生
松浦先生
正直、かなり使いにくいです。
じつは、STRICTAの使いやすいバージョン(日本普及版)の作成を進めていて、普段は研究に携わらない開業鍼灸師の先生でも使いやすいようなツールを目指しています。
いろんな角度から、臨床研究が盛んになるように取り組まれているんですね。
ゆうすけ
ゆうすけ

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