うつ病の鍼灸治療と臨床研究のススメ 前編/鍼灸師・博士(鍼灸学):松浦悠人

今回の学びは「うつ病の鍼灸治療と臨床研究」がテーマです。
前、中、後編を3週連続で公開します。

うつ病を中心とした精神科領域の患者さんに対する鍼灸治療の臨床研究を行っている、東京有明医療大学の松浦 悠人(まつうら ゆうと)先生に執筆をお願いしました。

以前、松浦先生にご協力いただいたインタビュー『臨床に還元するのが研究者の役目です』に寄せられた感想。
「うつ病の鍼灸治療に興味がある」、「日々の臨床と研究を結びつける方法が知りたい」、そんな声をヒントに…。

いただいた原稿を、ハリトヒト。編集部が対談形式に再構成しています。

松浦 悠人(まつうら ゆうと)先生

略歴
群馬県 高崎市出身
2014年 東京有明医療大学 保健医療学部 鍼灸学科 卒業
2016年 東京有明医療大学大学院 保健医療学研究科 博士前期課程 修了 修士(鍼灸学)
2016年-現在 埼玉医科大学東洋医学科 施設派遣研修生を経て、同 非常勤職員
2019年 東京有明医療大学大学院 保健医療学研究科 博士後期課程 修了 博士(鍼灸学)
2019年-2021年 東京有明医療大学 保健医療学部 鍼灸学科 助手
2021年-現在 東京有明医療大学 保健医療学部 鍼灸学科 助教

【所属学会・研究会】
全日本鍼灸学会、日本東洋医学会、日本温泉気候物理医学会、日本うつ病学会、日本自律神経学会、現代医療鍼灸臨床研究会

【学会活動】
2018-2020年 全日本鍼灸学会 データベース委員会委員
2020年-現在 全日本鍼灸学会 臨床情報部 エビデンス委員会委員

臨床研究に参加する前に

松浦先生
松浦先生
ぼくの専門分野であるうつ病への鍼灸治療を例に、臨床と研究の実際についてお話します。
インタビューで「開業鍼灸師と一緒に臨床研究をやれるようになるのが理想的」とおっしゃっていましたね。
あれ以来、わたしも機会があれば臨床研究に挑戦したいと思っているのですが、参加する開業鍼灸師に何か求めることはありますか。
タキザワ
タキザワ
松浦先生
松浦先生
大前提として、その研究をする分野でしっかりと臨床ができることです。
しっかりと臨床っていうのは…。
タキザワ
タキザワ
松浦先生
松浦先生
患者さんの評価や病態把握、標準的な治療法を理解し、他の医療職種と共通言語でコミュニケーションをとれることが求められます。
やっぱり参加へのハードルは高そうですが。
タキザワ
タキザワ
松浦先生
松浦先生
そんなことはありませんよ。
例えばうつ病だと、医療面接や様々なツールによって「何によるうつ状態か?」「どのような病期・程度のうつ病か?」などを推測することができるようになります。
なるほど。
タキザワ
タキザワ
松浦先生
松浦先生
それに「どんな患者さんにどんな鍼灸治療をしたら何がどうなったのか」が分からなければ、せっかくの報告も意味をなさなくなってしまいますよね。
学術的な場で通用するやり方ってことですね。そのあたりもこの機会に知りたいです。
タキザワ
タキザワ
松浦先生
松浦先生
そういう専門性を持つことで、臨床的に意義のあるRQ(リサーチクエスチョン)を見出すことができます。
今回の「学び」が、うつ病の疾患概念やうつ病に対する鍼灸治療、臨床研究の方法論についての理解を深める一助になれば幸いです。

まずは現代医学的に理解する

松浦先生
松浦先生
まずはうつ病を現代医学的に正しく理解するために、基本的なお話からしていきたいと思います。
よろしくお願いします。
ゆうすけ
ゆうすけ
松浦先生
松浦先生
うつ病とは、気分の落ち込みや興味・喜びの喪失などの精神症状や食欲不振、睡眠障害などの身体症状を呈する気分障害の一種です。
そういった訴えの患者さんは、鍼灸院にも多く来ますね。
ゆうすけ
ゆうすけ
松浦先生
松浦先生
日本の有病率は、過去の報告をまとめると35人に1人が過去1年以内に、15人に1人が生涯にうつ病を経験しています。
決して珍しい病気ではなく、誰もがうつ病を患う可能性があります。
会社に行けないなど、日常生活に支障をきたすほど症状が強くなると大変なイメージがあります。
ゆうすけ
ゆうすけ
松浦先生
松浦先生
うつ病は経済的にも大きな損失をもたらします。
うつ病による生産性の低下や休職によって被る経済損失は3兆円とも試算されていて、患者個人だけでなく、社会に与える影響も甚大なんですよ。
鍼灸師も社会の一員として取り組むべき課題といえそうですね。
ゆうすけ
ゆうすけ
松浦先生
松浦先生
WHOは、障害調整生命年(疾病負荷を総合的に示す指標=健康的生活の損失)において、2030年にはうつ病が第1位の障害になると予想していて、現代の最も対策が必要な疾患のひとつであるといえます。
今後さらに重要になってくる分野だけに、なおさらきちんと勉強したいと思いました。
ゆうすけ
ゆうすけ
松浦先生
松浦先生
そういう先生が増えると嬉しいです。
うつ病の診断と症状について、研究でよく使われる診断基準を要約したので、こちらも参考にしてみてください。

うつ病の診断と症状
米国精神医学会が発刊している精神疾患の診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders: DSM)
A)以下の9つの症状のうち2つの基本症状(抑うつ気分、 興味または喜びの喪失)のどちらかが必ず存在し、他の症状と合わせて5つ以上が2週間以上存在する。
(1)抑うつ気分
(2)興味または喜びの喪失
(3)食欲の減退あるいは増加
(4)不眠または過眠
(5)精神運動焦燥または制止
(6)疲労感または気力の減退
(7)無価値観または自責感
(8)思考力や集中力の減退
(9)希死念慮または自殺念慮
B)症状により社会的に障害が生じている。
C)物質の影響、他の医学的疾患によるものは否定。
D)精神病性障害(統合失調症および類縁疾患)ではうまく説明できない。
E)躁病/軽躁病エピソードが存在したことがない。
※DSM-5をもとに松浦先生が要約

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