標準治療の課題と鍼灸の可能性
より詳細な内容について知りたい方は、「うつ病治療ガイドライン」を参照されるのがおすすめです。
主に薬物療法の推奨度を記載していますが、うつ病患者と接する際の基本的介入や対応方法などについてもまとめられています。
アメリカで実施されたうつ病を対象とした大規模な臨床試験では、初回抗うつ薬による寛解率は60%程で、およそ1/3のうつ病患者は抗うつ薬に反応しないことが分かりました¹⁾。
もっとそういう方に鍼灸治療の可能性を伝えていけたらいいですね。
どうにか再発を予防できたらいいのですが。
残遺症状とは、寛解後に診断基準に満たない程度の症状が持続することです。
うつ病だと、睡眠障害や抑うつ症状、認知機能低下などが多いとされていて、これらの存在が再発のリスクになることが報告されています。³⁾
うつ病に鍼灸治療は効くのか
2021年現在、最もインパクトのある論文は、Macpherson Hらが2013年に発表した大規模なランダム化比較試験(randomized controlled trial: RCT)です⁴⁾。
鍼治療は、一般の臨床現場で行われている鍼灸治療とし、3カ月間のうちに原則週1回で最大12回までで、23名の鍼灸師により平均10.3回行われました。
つまり鍼治療の併用は、通常ケア単独より優れていて、カウンセリングと同等の効果があることが示されました。
このようなデータで患者さんに説明できるのはとてもありがたいです。
この研究では、鍼治療 vs Sham(偽鍼)、鍼治療+抗うつ薬 vs 抗うつ薬単独をデザインとしたRCTの統計学的な解析により、どちらも鍼治療が有意に優れているという結果が得られました。ただし、個々の研究の質は低いため、結果の解釈には注意が必要です。
日本のうつ病患者に日本の鍼灸治療がどれだけ効果があるのか、これから検証して世界に向けて発信していくためにも、精神科との共同研究を進めています。
まとめ
・うつ病とは、気分の落ち込みや興味・喜びの喪失などの精神症状や食欲不振、睡眠障害などの身体症状を呈する気分障害の一種である。
・うつ病患者のおよそ1/3は抗うつ薬に反応しない。
・うつ病の残遺症状への対処として鍼灸治療は有用である可能性があり、結果的にうつ病再発の予防に貢献できる可能性がある。
・現代医学的な通常のケアに、週1回程度の一般的な鍼灸治療を加えた方が、うつ病の症状が軽減する可能性は高くなる。
【参考文献】
1) Rush AJ, et al. Sequenced treatment alternatives to relieve depression (STAR*D): rationale and design. Control Clin Trials. 2004;25(1):119–42.
2) Kessing LV, et al. Recurrence in affective disorder. I. Case register study. Br J Psychiatry. 1998;172:23–8.
3) Judd LL, et al. Major depressive disorder: a prospective study of residual subthreshold depressive symptoms as predictor of rapid relapse. J Affect Disord. 1998;50(0165–0327 (Print)):97–108.
4) MacPherson H, et al. Acupuncture and Counselling for Depression in Primary Care: A Randomised Controlled Trial. PLoS Med. 2013;10(9):e1001518.
5) Armour M, et al:Acupuncture for Depression: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Clin Med. 31;8(8) pii: E1140, 2019.
取材協力:東京有明医療大学
文=松浦悠人
編集・撮影 = ツルタ
(2021.7.29公開)
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