講座 近代日本と漢学 第3巻 漢学と医学
■ 戎光祥出版(2020年) |
本書には、江戸から明治時代にかけての医学が、漢学、洋学を受容・折衷しつつ、いかなる変遷及び発展過程を経たかを解明することを目的として、16 名の研究者からの論考が寄せられています。
編者の町泉寿郎氏による「あとがき」にあるように、「近代化過程における漢学と洋学の関係を、対立的なものとして捉えるのではなく、補完的なもの相即的なもの等」として再考する一助となる書です。
ここでいう漢学は中国伝来の、洋学は西洋伝来の学問を意味し、国学に対して用いられています。
江戸時代の漢方医学は中国が最先端とされ、先進的な知見を得るためには、漢籍(中国において著された書籍)を読むことが必要不可欠でした。
つまり、当時の医者は、学習教材である中国医書を読むためには、訓点を付して日本語の文体に置き換える漢文訓読を体得しなくてはなりません。
このことからも、漢学と医学は密接な関係にあるといえるでしょう。
そして時代が下るにつれて、漢方医学は洋学の影響を受け、取捨選択及び折衷しながら、多様な諸相を呈して近代化を迎えます。
このような背景から、日本の漢方医学を理解するためには、他国からの影響を歴史的に踏まえて検証する必要があると考えています。
僭越ながら、私も第Ⅰ部「近世近代の「学び」」第三章に「江戸時代経穴学にみる考証と漢蘭折衷―小坂元祐と山崎宗運を事例に」と題し、幕府直轄の医学校・江戸医学館及びその前⾝・躋寿館が医学公教育を担う過程において展開した、経穴学の考証と折衷の態様について執筆いたしました。
本論文が、江戸時代における経穴学の形成及び発展過程について、一考を投じる機会となれば幸いです。