ゆりかごの前から墓場まで、鍼灸はずっと寄り添える /鍼灸師:藤田 恵子

目指すのは「自然なお産」

藤田先生
藤田先生
その後、約1年でたつの先生は「助産師に戻る」と言って、千歳烏山の一軒家で助産院を始められました。私はそのときに「Be bornを受け継いでほしい」と言われたんですけど、まだ下の子が小さくて東松原に通うのが大変でした。そこで、自宅を改装してベッド1台で「ヒーリングゆう」を開業したんです。
自宅で始めようと思った理由は。
タキザワ
タキザワ
藤田先生
藤田先生
どこか借りるとなると家賃を払わないといけないですが、自宅ならテナント代がかかりません。それと母が、「仮に失敗しても、改装してきれいになった家が残るじゃない」って言ってくれたのも大きかったですね。
そこから、開業鍼灸師として、産科領域の鍼灸に取り組まれたのですね。藤田先生は、赤ちゃんを取りあげるところまで、妊婦さんと寄り添うと聞きました。立ち会いの目的はどういうところでしょう?
タキザワ
タキザワ
藤田先生
藤田先生
和痛と陣痛促進です。鍼灸を使って少しでも楽に産むことを手助けするっていうことですね。
妊娠中から上手に身体を作って、上手に産んであげたら、痛みの少ない気持ちの良いお産ができるんです。そういうお産を体験すると、また産みたくなるんですよ。
それが動物の本能に働きかけるお産だと私は思っているから、そういうお産を体験してもらいたいんですよね。
最初の出産がつらかったから、2人目を躊躇するという話はよく聞きます。
タキザワ
タキザワ
藤田先生
藤田先生
そうですね。「取り出す、取りあげる」みたいなことではなくて、「お母さん自身の産む力と赤ちゃんが産まれようとする力」。それを医療的にサポートする立場でいたいという気持ちがあります。
例えば、助産院がそうですよね。陣痛促進剤も使いませんし、会陰切開もしません。自然に逆らった出産ではないんです。赤ちゃんにも「産まれる!」という最初の成功体験や、達成感があると、自己肯定感のある人生が始まるんじゃないかと思うんですよね。
鍼灸でサポートしながら、母子ともにトラウマにならない気持ちの良いお産をすることが大切だということですね。
タキザワ
タキザワ

分娩の瞬間まで鍼灸でサポート

妊娠中からも、鍼灸師として関われることはありますか。
タキザワ
タキザワ
藤田先生
藤田先生
妊娠前からも、たくさんありますよ。例えば妊活の時点から鍼灸をしていると、悪阻が楽になると思います。そこから、マイナートラブルの少ないマタニティーライフのための治療もしつつ、いざ生まれるときには、分娩のための鍼灸もあるので、ずっと関わることができます。
鍼灸師が分娩に立ち会える病院もあるんですか。
タキザワ
タキザワ
藤田先生
藤田先生
東京都内には、分娩時に鍼灸師の立ち会いができる病院がいくつかあります。例えば、日赤(日本赤十字社医療センター)はOKで、私も何例か立ち会っています。今はコロナ禍なので状況は違いますが、うちのスタッフなんかは、私が立ち会える病院を選んで出産しています。病院でも火を使わないお灸「太陽」などでお灸もできるので、できるだけ痛みを和らげてあげることができるんですね。
妊娠前から出産の瞬間まで、妊婦さんと寄り添うわけですね。
タキザワ
タキザワ
藤田先生
藤田先生
もちろん、産後も関わることができます。体型を戻すための生活指導をおこなったり、育児相談に乗ってあげたりしています。うちの治療院は助産師さんにも入ってもらっていて、「レイ助産院」と併設になっているので、授乳や卒乳のときのおっぱいケアもできるようになっているんですよ。
妊活から産後のケアまでひとりの方と長く付き合うので、強い信頼関係が生まれます。ひとりの患者さんと末長くお付き合いをできるのは、治療家冥利に尽きるところです。
一生のお付き合いになるんですね。
タキザワ
タキザワ
藤田先生
藤田先生
お産に関わることっていうのは、大きな感動と喜びがある人生の一大イベントに関わるわけです。そうすると一時離れていても、今度は更年期のときにお戻りになります。ですから、妊活だけでさようならじゃなくて、お産に立ち会いができて、産後のアドバイスもできる鍼灸師になることは、治療家としてとっても大きな意味があると思います。
産科領域の鍼灸というと、特化したジャンルのように聞こえますが、お産をきっかけに、女性の身体に起きる不調に対して、トータル的に携わることができるわけですね。
タキザワ
タキザワ

産科領域の鍼灸師を育成する

今後は産科領域に関わる鍼灸師を育てていきたいお気持ちがあるんですか。
タキザワ
タキザワ
藤田先生
藤田先生
そうですね。この先のライフワークとして、それを皆さんにお伝えしたいなと考えています。女性の一生に深く関われる鍼灸師さんになってもらいたい。そう考えるとお産に鍼灸師が関わることは、突拍子もないことではないと私は思うんです。
妊婦さんのケアをするにあたって、どの程度まで鍼灸が介入していいのか分からないというのが、施術者の悩みとしてはありそうです。
タキザワ
タキザワ
藤田先生
藤田先生
私としては、20年やっている経験があるので、「このツボを使って、間違いがあったことはないよ」ということは、お伝えできます。だから、「ここを押さえていれば大丈夫」というマニュアルを作って、ご提供できればいいなと思っています。
産科領域の鍼灸を勉強するために、どんなことから始めたらいいですか。
タキザワ
タキザワ
藤田先生
藤田先生
大事なのは、関心の向くままに一歩踏み出すこと。全然知らない鍼灸師さんから「先生、どうしたらいいんでしょう?」って電話がかかってきて、相談に乗ることもあります。以前、大阪の専門学校に産科鍼灸の講義で呼ばれたことがあって、そのときの受講生が、和歌山から東京に出てきて、2〜3日研修していったこともありました。
とにかく行動を起こすことが大切なんですね。
タキザワ
タキザワ
藤田先生
藤田先生
治療院内の寝泊まりでもよろしければ、1週間ぐらいなら、うちに来て学んでいってください。無償ではありますが、学びたいお気持ちがあれば受け入れますよ。
「研修生を受け入れます」って言ってくださる鍼灸師の先生って少ないですよね。
治療院のホームページに「20人ぐらい研修生も含めたスタッフがいます」と書いてあったので、すごいと思いました。
タキザワ
タキザワ
藤田先生
藤田先生
月1回来る子や、週1で来ている子もいます。学びたい気持ちがあれば、まずは門戸を叩いてください。
実は、私が藤田先生を初めて知ったのが、ある講座での会場でした。藤田先生が同じクラスで、一緒に講義を受けていらしたんです。
タキザワ
タキザワ
藤田先生
藤田先生
そうでしたか。どこかでお見かけしたなと思っていました。
そのときに、講師の先生が「藤田先生ともあろう方に、この講座に来ていただいて…」とおっしゃっていたんですよ。私はそのとき卒後3年目くらいだったのですが、それを聞いて「何歳になっても学び続ける鍼灸師になりたいな」って思ったんです。
タキザワ
タキザワ
藤田先生
藤田先生
まだまだですよ。いまだに長野式の基礎講座を受けたりしますから。年を取ると頭がついていかなくて、いくらやっても忘れてしまう(笑)。教える側に立場に回っても、勉強はずっと続けていきたいです。

女性の身体につねに寄り添う

20年間臨床をされてきて、喜びを感じる瞬間ってどういうときでしょうか。
タキザワ
タキザワ
藤田先生
藤田先生
それはやっぱり「逆子が治りました!」「無事に生まれました!」という、ご報告があったときですね。妊活中からの患者さんだと喜びもひとしおですね。
逆子って、施術をしたその瞬間にクルっと回るんですか。
タキザワ
タキザワ
藤田先生
藤田先生
治療が終わって、自宅で寝ている時が多いですね。治療院で治ることもないわけじゃないですけど、ほとんどが自宅です。だいたいが、深いリラックスを得られた時に治ります。
なるほど。大切なのはリラックス。
タキザワ
タキザワ
藤田先生
藤田先生
母体がリラックスすると、赤ちゃんも当然リラックスするのでしょう。
逆に、交感神経が緊張状態だと、お腹が張ってしまうんです。
検診で「逆子です」って言われると、すごく不安になるでしょうから、先生のように経験のある方に話を聞いてもらって治療してもらえるって、それだけでもすごく安心できると思います。
タキザワ
タキザワ
藤田先生
藤田先生
なかには、なかなか逆子が治らない人もいます。ギリギリまでお仕事をなさってる方もそうですね。「リラックスしてください」って言っても、仕事、仕事っていう人。ずっと逆子のままで、34週になっても産休に入らなかった方が、36週で産休に入った途端に治りましたよ。
週数だけでみないで、その人がいかに休めているか、いかに準備ができているかも大切なんですね。
タキザワ
タキザワ
藤田先生
藤田先生
そうです。面白いことに、赤ちゃんに「お母さんは仕事で大変だったから、あなたも逆子から治れなかったのね。ごめんなさいね」って謝ったら、次の日に治っていたっていう例もあります。
鍼灸を通じて、おなかの赤ちゃんとお母さんのコミュニケーションをうながすんですね。
タキザワ
タキザワ
藤田先生
藤田先生
「赤ちゃんは意思を持ってお腹にいます。だからちゃんと人として扱ってあげてください」っていうのはそういうことです。お腹の中で全部聞いていますから。
あと、妊活にも鍼灸はお役にたてると思います。うちでやっている長野式は非常にわかりやすい処置法なので、習得して健康の底上げをしてもらうと、妊娠しやすい身体作りができます。
妊活から、妊娠中、分娩と産後。女性の身体につねに寄り添うお仕事ですね。
そして更年期から、その先までも。
タキザワ
タキザワ
藤田先生
藤田先生
この歳になるとね、もう何人も見送っています。
どういうわけか、私の友人は旦那ががんで末期のとき、私に来てって言うんです。病院にもうすぐ亡くなる人の治療をしにいくのも、少しでも楽にしてあげたいという気持ちからです。
亡くなる間際でも、少しでも楽にですか。
タキザワ
タキザワ
藤田先生
藤田先生
そう、死の瞬間まで楽でいられる。そういう治療も鍼灸ではできるんです。
ゆりかごの前から墓場まで、患者さんに寄り添えるのが鍼灸。それって、すごくやりがいがあることだと思うんです。

Healing you

【記事担当】
取材 = タキザワツルタ
文 = タキザワ
撮影 = ツルタ
編集 = くちやまだ

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