自分にしかできない「挑戦」特別講義編/黄帝内経研究家 松田 博公

黄帝内経の3層構造

いままで鍼灸に携わってきて、宇宙論を感じたことなんて、1度もないです。
ツルタ
ツルタ
松田先生
松田先生
うん、そうかもね。
でも、それは仕方のないことかもしれないよ。
ぼくの取り組み方が甘いからですか?
ツルタ
ツルタ
松田先生
松田先生
そういうわけじゃないよ。
それは『黄帝内経』が3層構造になっているからなんだよね。
3層構造ですか?
ツルタ
ツルタ
松田先生
松田先生
そういうこと。
『黄帝内経』の最下層には、今話した原理論、つまり宇宙論がある。
中層のレベルに、生理学、病理学があって。
一番上層のレベルに臨床論、つまり診断論、病証論、手法論がある。


イラスト:ウラベ
それがどうして、ぼくが宇宙論を感じたことがないということと、関係するんですか?
ツルタ
ツルタ
松田先生
松田先生
うん、上中下の3層の構造になっていて、根底に宇宙論がある。
そして、上のレベルにいけばいくだけ、臨床論の要素が濃くなって、原理論から離れていく。
つまり3層構造の上の方では、臨床的な理論になるから、直接的には宇宙論に対応していないの。
それって、直接は宇宙論と対応しない、臨床的な部分だけ学んでも、宇宙論は感じないってことですよね?
ぼくは臨床論しか学んでいないから、宇宙論を感じたことがなくて当然なのか…。
ツルタ
ツルタ
松田先生
松田先生
そう。これは当たり前なの。
医学が実証的になり、技術が発達していけばいくほど、哲学的な宇宙論からは離れていかざるを得ないわけ。
だけど、もともとは宇宙との関係で身体の全てを捉えてみようとしたのが『黄帝内経』の原理的システムなわけ。
『黄帝内経』は下層が宇宙論の3層構造になっている。
上の層ほど、臨床的になるので、宇宙論と直接結びつかないってことですね。
ツルタ
ツルタ
松田先生
松田先生
そうだね。
具体的に『素問』81篇の半分、『霊枢』81篇の三分の一は、宇宙論を絡めた展開になっている。
それ以外の篇は臨床的な理論になっていて、一見、宇宙論と関係ない。
それが、今言った原理論より上の層、特に最上層に当たる篇なんだ。
でも、それらの篇も、たとえ直接書かれてなくても、宇宙論を前提に読まなければ、正確な理解はできないというのがぼくの考え方なんだよね。
上層の臨床的な部分も、土台で支えているのは下層の宇宙論だからってことですね。
ツルタ
ツルタ
松田先生
松田先生
ところが、宇宙論が展開されている篇は軽く読み飛ばし、ましてや宇宙論が展開されていない篇は、現代人の意識で純粋な臨床論として読むのがフツーの読み方になっている。
江戸の幕末考証学以来、個別の字句の解釈には成果を挙げてきたけど、トータルな伝統医療としての『黄帝内経』の思想の面白さは読めてない。
どんなに臨床的な話であっても、宇宙論を踏まえて読むべきだと、松田先生は考えているんですね。
ツルタ
ツルタ
松田先生
松田先生
そういうこと。
ちなみに中層の生理学、病理学は、上層に比べるとけっこう宇宙論になぞらえて展開されている。
たとえば「上実下虚」ってわかるかな?
気が逆上している状態ですよね。
ツルタ
ツルタ
松田先生
松田先生
これも、じつは宇宙論から導かれているんだ。
『霊枢』経水篇に、「腰以上を天とし、腰以下を地とする」とあるんだよね。人体を天地になぞらえている。
そして、いろんな記述から、天が健康なのは、雲一つなく、からっと晴れて曇らず、穏やかな風が流れる涼しい状態で、地が健康なのは、どっしりと安定し、あらゆる生命を育んで温かい状態だとわかる。
それを人体に当てはめた生理学的な解釈なんですね。
ツルタ
ツルタ
松田先生
松田先生
そのとおり。腰より上は天だから晴れ晴れとした涼しげな気分で気がうっ滞しない「虚」の状態、腰より下は地だから、どっしり安定して温かい生命を育む「実」の状態、つまり「上虚下実」が生理的な理想。
それが逆転し、気がからだの上部、特に頭にうっ滞して熱っぽくなり、下半身の気がなくなって足が冷えている「上実下虚」は病理現象だということになる。
これはイメージしやすいです。
ツルタ
ツルタ
松田先生
松田先生
この「上実下虚」を逆転させ、「上虚下実」の「宇宙の子(天子)」に復帰させるのが『黄帝内経』がイメージする治療なんだよね。
こうした宇宙論に順って治療を行うのは、「天道思想」って言うのね。
「天の道(法則)」に順う思想、って意味だけど。
その「天道思想」は、医療のものというより、もともと戦国時代から漢代の中国を席捲した政治思想だったんだよね。

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