社内の疲労解消は、私たちヘルスキーパーの役割/鍼灸師:松坂 英紀
少子高齢化が進行するなか、深刻な人手不足に悩む企業は少なくありません。社員一人ひとりの健康とパフォーマンスの向上は、企業にとって大きな課題といえるでしょう。
別名、企業内理療師とも呼ばれるヘルスキーパーの仕事は、業務による疲労や症状の解消を目的に、従業員に対してマッサージなどの施術をおこなうことです。導入によって、社員のパフォーマンス向上につながる効果が期待できるといわれています。
実際にヘルスキーパーは、どのような取り組みをおこなっているのでしょうか。導入によるメリットや、通常の治療院との違いも気になるところです。
株式会社コスモスイニシアにヘルスキーパーとして勤務されている松坂 英紀(まつざか ひでき)先生と、同企業で保健師として働かれている藤澤 由香(ふじさわ ゆか)さんにお話を伺いました。
松坂 英紀(まつざか ひでき)先生

【略歴】
2004年 筑波技術短期大学(現筑波技術大学)卒業
2006年 筑波技術短期大学付属診療所(現筑波技術大学東西医学統合医療センター)研修課程終了・健康堂治療院勤務
2006年4月~現在 株式会社コスモスイニシア ヘルスキーパー
ヘルスキーパーコンサルタント 代表
日本視覚障害ヘルスキーパー協会 前会長
一枝の夢財団 全国あん摩マッサージ指圧コンテスト審査員
筑波技術大学リカレント教育
ヘルスキーパー教育講師世界盲人連合アジア太平洋地域マッサージ協議会(WBUAP)において、コスモスイニシアのリフレッシュルームが、ヘルスキーパーとして世界初デモンストレーションショップ受賞
視力の低下がきっかけで、あはきの世界へ

まずは、松坂先生がこの世界に入ったきっかけを教えてください。
高校生の時に網膜色素変性症という病気が発覚したことがきっかけです。病気の影響で大学生の頃には視力が落ちてきて「視覚障がい者でもできる楽しい仕事はないかな」と探して、あはきの世界に入りました。
東洋医学には信じがたい部分があったので、そこを見極めたいという思いもありましたね。
そうです。筑波技術短期大学に入りました。免許を取ったのは30歳頃です。2年間大学の附属診療所で研修生として学びながら、東京の治療院で指圧の修行をしました。
その後2006年に弊社に入社をして、以来約18年間ヘルスキーパーとして勤務しています。
これは私の勝手な想像ですが、従業員数が一定以上の大きな企業に直接雇用されるヘルスキーパーは就職先として人気があったのではないでしょうか。どのように就職が決まったか気になります。
人気はあったと思います。私はやや特殊だと思うんですが、ヘルスキーパーのことを当時は一切知らなかったんです。治療院を開業しようと考えていた時に、附属診療所の指導教官である坂井友実先生に「リクルートコスモス(現・コスモスイニシア)という会社がヘルスキーパーを募集している」とたまたまご紹介いただいたんです。
それはヘルスキーパー部門の立ち上げから入られた形ですか。
立ち上げは2001年なので、スタートから5年ほど経ったところに入りました。開設1年目はマッサージだけで、2年目から会社の了承を得て鍼灸を始めたと聞いています。
企業内で活動する「ヘルスキーパー」とは?
そもそもヘルスキーパーとは、どのような仕事なんでしょうか。
ヘルスキーパーは「理療の国家資格を持つ者が、企業等に雇用され、雇用されている従業員等に対して施術をおこなう人」のことですね。30年程の歴史があります。
30年とは、けっこう歴史があるのですね。知りませんでした。
歴史はあるんですが、数はそこまで増えていないのが現状です。約200社がヘルスキーパーを雇用していて、ヘルスキーパー自体の数は400名前後と推定する報告もあります。
企業全体の数から考えると、かなり少ないですよね。ヘルスキーパーの施術を受ける一連の流れを教えてください。
まずは予約システムから施術の予約をしていただきます。治療費は給料から天引きされるので、予約の時間になったらお金を持たずにスーツのままお越しいただく形です。時間になったらお部屋にご案内し、患者着に着替えていただきリラックスした空間で施術を受けていただくというのが流れです。
仕事内容は、社内の方が患者であること以外は、いわゆる一般的な治療院とほぼ同じと考えてよいのでしょうか。
治療院との大きな違いは、基本的には元気な方が多いことだと思います。変形性膝関節症とか、五十肩とか、重い症状を訴える方はあまりいらっしゃらないですね。内勤の方が多いので肩こり、腰痛、頭痛がメインになります。
デスクワークの方に多い症状ですね。施術をしていて、手応えのようなものはどうですか。
重い症状を治療する機会は少ないので、開業を志していた立場からすると最初は正直、少し物足りない部分もありました。
でも若い世代や働いている方々の疲労の解消は、私たちあはき師の責務だと思うので、それを全うできることに今はやりがいを感じています。また同じ会社の社員として、営業や設計など業務の内容から、不調の原因を把握しやすいのはメリットだと思います。
働いている姿をイメージしやすいのは、治療院との大きな違いでしょう。仕事内容を知った上で生活の様子を聞いて、アドバイスすることができます。
患者さんが同僚にあたるわけですものね。より生活に即したアドバイスができそうです。御社の場合、実際にどれくらいの方が利用されているのですか。
弊社の場合は、新人から社長まで幅広くご利用いただいています。従業員の7割程に利用していただいている状態です。
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