経験で終わらせない。次のステップに進むためのエビデンスを/鍼灸師:坂口 俊二

捉えにくい“冷え症”をいかに解明するか?

研究には、どんなふうに取り組んでこられたんですか。すごく興味があります。
ゆうすけ
ゆうすけ
坂口先生
坂口先生
最初は研修生で入って、そこから職員にしてもらって、附属の鍼灸治療所で臨床に取り組んでいました。3年目に助手という形で、研究者としてもスタートすることになったんです。
どんな研究をされていたのか気になります。
ゆうすけ
ゆうすけ
坂口先生
坂口先生
私の研究の師は藤川治先生という、現在は関西鍼灸短期大学の名誉教授です。藤川先生は、サーモグラフィーを利用した冷え症の研究にずっと取り組んでいらっしゃいました。高額で貴重な機器であるサーモグラフを使わせてもらえるというのもあって、冷え症の研究をそこからスタートさせたんです。
基礎研究から始められたんですね。冷え症の定義が難しそうですが…。
ゆうすけ
ゆうすけ
坂口先生
坂口先生
いろんなタイプの冷え症がありますから、研究ではさまざまな条件を整える必要があります。
サーモグラフィーで冷え症を評価するために、かなり厳密な環境下で足の冷えている人に冷たい水に足をつけてもらう。上げると縮んだ血管が一定の時間で戻ってくるんですけど、この戻りがかなり遅い人がいるので、こういうものが冷え症の1つの特徴じゃないかというふうに考えたんです。
なるほど。どんな介入をおこなったのですか。
ゆうすけ
ゆうすけ
坂口先生
坂口先生
それで太渓に鍼をすると回復が早くなるっていうことを「男性・女性」、「春・夏・秋・冬」というふうに分けて検証しました。結果的に、男性に比べて女性の方が冷えの頻度が高く、回復率も遅延するということが分かりましたね。
いわゆる“研究”という感じで、すごくワクワクするお話ですね。
ゆうすけ
ゆうすけ
坂口先生
坂口先生
手を水につけるっていうのは、自律機能検査でも一般的にあるんですけど、足を水につけるっていうのはなかなかなくて苦労しながらやりました。この研究が一定の形ででき上がった時に、京都で開かれた世界鍼灸学会でも発表させてもらったんです。
それは大きな自信になりますね。
ゆうすけ
ゆうすけ
坂口先生
坂口先生
やりきった感がありましたね。それで基礎から臨床研究へ移行することにして、今度は人を対象に、実際の治療に近い形のことを一定期間おこなったらどうなるか検証したんです。
いよいよ臨床研究に移行されたんですね。
ゆうすけ
ゆうすけ
坂口先生
坂口先生
ただ、冷え症は病態として非常に捉えにくかったですね。冷え症を瘀血証とみて、一定期間鍼灸治療をしたら瘀血のスコアがどうなるかとか、足部の低い皮膚温がどうなるかとか。その延長としてRCT(ランダム化比較試験)という形でいろいろ試行的なことをしながら、冷え症をテーマにして、最近はセルフケアということでお灸を自宅でやってもらうようなこともしていました。
冷え症で悩む人は多いですもんね。
ゆうすけ
ゆうすけ
坂口先生
坂口先生
臨床研究をどういうデザインにしていくかということで、お灸とレッグウォーマーを比較した研究もおこないました。お灸は非常に効果が良かったです。デザインも国際的なルールがあったりするんですけど、できるだけそれに則ってやることができ、非常に綺麗な結果が出ました。それを共同研究者の辻内敬子先生が主となってパンフレットにおこして、皆さんに還元するようなこともできたので非常に良かったと思っています。
そのパンフレットは女性鍼灸師フォーラムのホームページからダウンロードできますよね。印刷して患者さんに渡すと、とてもわかりやすいので喜ばれます。
ゆうすけ
ゆうすけ
坂口先生
坂口先生
冷え症だけじゃなくて、冷え症と関連してどういう症状が変化しやすいかも分かってきました。たとえば冷え症と睡眠の関係がわかってきたので、今はそういう睡眠の問題にも取りくみたいと考えています。

第72回(公社)全日本鍼灸学会学術大会 神戸大会の見どころ

先生が実行委員長を務められる「第72回(公社)全日本鍼灸学会学術大会神戸大会」についてもお伺いさせてください。
大会テーマ「鍼灸学の次代展望−経験から学び、持続可能なエビデンスをつむぐ−」には、どんな思いが込められているんでしょうか。
タキザワ
タキザワ
坂口先生
坂口先生
エビデンスという言葉を入れているとおり、医鍼連携も進むなか、科学的な根拠を持ってやらなければならない時代になってきています。これは臨床研究だけではなくて、教育や東洋医学的診断などに関してもいえることです。
「経験から学び」という言葉も入っていますね。
タキザワ
タキザワ
坂口先生
坂口先生
はい、長らく蓄積された経験は大事です。ただ、そこで終わらせるのではなくて、そこから次のステップへつなげることが学会の任務だと思っています。
顔面神経麻痺のシンポジウムもおこなわれるんですよね。
タキザワ
タキザワ
坂口先生
坂口先生
ちょうどガイドラインが変わって、鍼灸に関する推奨度が上がったのでいいタイミングかなと思います。「顔面神経麻痺、診療ガイドライン2023年版からみる鍼灸の現状と可能性」と題打ちました。
ホットな話題ですね。まさにこの大会のテーマにも通じるものだと思います。
タキザワ
タキザワ
坂口先生
坂口先生
新潟医療福祉大学教授の粕谷大智先生にシンポジストと座長も務めてもらう予定です。演者にはガイドラインに携わった医師の先生方に来ていただきます。主に、どういうふうに推奨度が上がったのかということを、お話しいただこうと思っています。
「災害」のワードが目を引きました。阪神淡路大震災を経験した神戸の地ならではのプログラムではないでしょうか。
タキザワ
タキザワ
坂口先生
坂口先生
「災害を学び、災害に備える」というシンポジウムを開催予定です。あと特別講演では、今話題になっている脳と腸との相関について、最前線で研究をされている京都府立医科大学大学院教授の内藤裕二先生をお呼びすることも決まっています。また、日本で初めて気象痛を研究した中部大学教授の佐藤純先生にもご登壇いただく予定です。
お灸をテーマにしたシンポジウムやワークショップも開催されるんですね。多岐にわたるプログラム内容に、ワクワクしてきました。
タキザワ
タキザワ
坂口先生
坂口先生
鍼に偏りがちですが、お灸のエビデンスを総括する必要があると思いシンポジウムを組みました。また、日本の鍼灸領域には圧倒的に研究者が少ないんですが、普段の臨床のデータをしっかりと取って、それを世に発表している臨床家は意外とたくさんいるんですよね。これからもそういう先生がたくさん出てくるように、統計を専門としている先生に来ていただいて臨床データの分析方法なども、お話ししてもらう予定です。
まさに、先生が取り組んでこられた先ほどの臨床研究ですね。
タキザワ
タキザワ
坂口先生
坂口先生
もう1つ力を入れているのは、特に専門学校の先生方に向けてのシンポジウムです。鍼灸の教育は圧倒的に専門学校が多いので、教員が鍼灸の魅力や情報をきちんと学生に伝えられることが大切だと考えています。鍼灸の教科書の改訂について、それに関わった先生方に、その狙いなどについてもお話しいただく予定です。
教科書の改訂は業界でそこまで中身が浸透していないようですからね。臨床家も知っておかないと…。
タキザワ
タキザワ
坂口先生
坂口先生
それから若手鍼灸師のパネルディスカッションや、これまでやっていなかったテクニカルステップアップセミナーも開催します。業者とタイアップして筋電図や心電図、皮膚血流のデータをとれる機械を動かして、機械の特性などを説明しながらデータを使ってどんな研究ができるかをご紹介します。
実技が多い点も特徴ですね。
タキザワ
タキザワ
坂口先生
坂口先生
実技に関しても学ぶところが多い学会になると思います。実技もやはりテーマに沿っており、すごく特殊な技術や名人芸を見せるようなものではありません。「治療法を披露する」というより、「どうしてそこに鍼をするに至ったのか」とか「こんな刺し方でこうすると、こんな効果が期待できる」というのを伝えたいですね。

学会は自分を成長させるまたとない場

多方面に広い視野で、今の鍼灸師が興味のあるプログラムを組んでいると感じました。幅広い層に参加してもらいたいですね。
タキザワ
タキザワ
坂口先生
坂口先生
鍼灸師を目指している方や、鍼灸師になったばかりの人たちには、学会という雰囲気をぜひ一度味わってもらいたいと思います。単純に「これだけ自分たちと同じ職業の人がいるんだ」っていうことを感じることができるでしょう。
新たな交流が生まれるのも学会の魅力ですよね。
タキザワ
タキザワ
坂口先生
坂口先生
今回の神戸大会は、神戸国際会議場にて対面でおこないます。基調講演や特別講演、シンポジウムなどは撮影をしてアーカイブで視聴いただけますが、それ以外は原則、現地開催です。懇親会も予定しています。会場では書籍でしかその考えを知れなかった先生が、その場にいるわけですからね。実際に声を掛けることも、手を挙げて質問することもできる貴重な機会だと思いますよ。
業界全体で盛り上げていきたいですね。
タキザワ
タキザワ
坂口先生
坂口先生
自身が興味を持ったプログラムに参加することも、企業の展示ブースで鍼灸の道具や機器を観たりすることも、すべてが「学び」につながります。
鍼灸業界では、この規模の学会はなかなかありません。学会への参加を楽しんでもらいながら「次は発表してみよう」とか「会員になって学会で生涯研修を受けよう」という、自分をステップアップさせる目標を持つ、1つのきっかけにしてほしいですね。

「第72回(公社)全日本鍼灸学会学術大会 神戸大会」の参加申し込みは下記URLよりどうぞ!
「第72回(公社)全日本鍼灸学会学術大会 神戸大会」事前参加登録
事前登録受付中!(一次募集は2023/5/14まで)

取材協力:関西医療大学

【記事担当】
取材 = ゆうすけタキザワツルタ
撮影 = ツルタ
文   = なるみさわ
編集  くちやまだ

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