「伝わるように伝える」のが我々の責務/鍼灸師:澤口 博

臨床経験なしでの病院勤務。最初は不安しかありませんでした。

臨床経験ゼロ、先輩ゼロの病院勤務。不安はありませんでしたか?
シンタロー
シンタロー
澤口先生
澤口先生
不安は大きかったですね。いきなり病院内で働くことはもちろん、通勤についても悩みました。
家が神奈川県の横浜なので、特急電車を使っても片道3時間はかかります。
あとは看護師さんにいじめられるんじゃないか、とか(笑)。
何より、臨床未経験の自分が病院の鍼灸を任せてもらっていいのか、という思いがありました。
考えただけで恐怖に震えます…。
シンタロー
シンタロー
澤口先生
澤口先生
まぁ、「どうせ3ヶ月だし」と思って、行くしかなかったんですよね。
社会人経験がありましたから、どうにかなるだろうと思いながらとりあえず始めてみました。
「和漢診療センターの基本治療をやれば、あとは自由にやっていいよ」と言われていたので、接触鍼や六部定位脈診をはじめ、いろいろな治療法を試す毎日。
そうこうしていたら、3ヶ月はあっという間に過ぎてしまいました。
ひと区切りですね。3ヶ月の成果はいかがでしたか?
シンタロー
シンタロー
澤口先生
澤口先生
がむしゃらにやり続け、その中で確立した私が現在行っている治療法をしてみると、なんだか患者さんの調子が良くなっていたんですよ。
次第に他科からも紹介していただけるようになり、結果としては好評価でした。
任務の終了日が近づくにつれ、漢方の先生が患者さんに「実は鍼灸の先生は3ヶ月でいなくなっちゃうんですよ」ということを伝えてくださっていて。
そのおかげか、病院の院長宛に「ぜひ鍼灸を続けてほしい」という投書がたくさん届いたんです。
おおっ! 嬉しいですね!
シンタロー
シンタロー
澤口先生
澤口先生
病院側も「そういうことならば続けよう。ぜひやってくれないか」という方向になりました。
私自身は1年間無給でもいいと考えていましたが、後任を迎えることになった場合、ずっと無給でやっていただくわけにはいきません。
「今後も鍼灸外来を続けるならば、このままでは不可能です」と伝えて、病院と話し合いました。
そもそも鍼灸治療で治療費はいただいていたのですか?
シンタロー
シンタロー
澤口先生
澤口先生
最初の3ヶ月は実験的な意味合いもあり、患者さんからは治療費をいただいていませんでした。
保険の範囲内でやろうとしても点数が付かないため、治療費の請求ができません。 無給の理由はここにあったのです。
ですから、鍼灸治療を有料にして担当する鍼灸師にもお給料が支払われる仕組みを考えました。
どのような形になったのでしょうか?
シンタロー
シンタロー
澤口先生
澤口先生
7月と8月を準備期間として、9月から3,300円を自費でいただくことになり、そのうちの一部を鍼灸師に支払うことが決まりました。
最初は1日4枠だったので、おおよそ1万円が日当になる計算でしたね。
大きな変化ですね。有料化した際の患者さんの反応はどうでしたか?
シンタロー
シンタロー
澤口先生
澤口先生
残念ながら利用されなくなった患者さんもいらっしゃいました。
ガクーッと利用者数が減った時は「これが自分の実力かぁ…」ともちろん落ち込みましたよ。
しかし、めげていても仕方がないので、来てくださった患者さんと向き合う日々でした。
そのうちに他科からの紹介も増え、1日の枠が最大で8名になりました。
当初の倍! それだけニーズを作り出したということですね。
シンタロー
シンタロー
澤口先生
澤口先生
ありがたいことでした。もうひとつの変化は、入院患者さんにも鍼灸をおこなうようになったことですね。
外来が終わったあとに、ということですか?
シンタロー
シンタロー
澤口先生
澤口先生
はい。朝から16時までは外来、16時から18時までは入院されている方のベッドを回って治療するという流れができました。
そのような業務と同時に、1年任期で鍼灸師が交替していく勤務システムを病院と一緒に作りました。
残念ながら、今年度で病院自体が閉院してしまいますが、毎年新しい鍼灸師の方にお願いをしながら11年間続けられたのは良かったです。
きちんとしたシステムを作れたからこそですよね。そういえば、3時間の道のりは通勤されていたのでしょうか?
シンタロー
シンタロー
澤口先生
澤口先生
それはさすがに遠すぎて無理でした。
幸い、病院の寮に入れていただいたので生活費は安く抑えられましたし、「せっかくの機会だ。月曜日から金曜日まで現場に出て、できる限り経験を積もう」と決められました。
また、週に2回くらいはドクターの方々が「こいつは無給で働いていてかわいそうだ」と思ったのか飲み会に入れてくださり、ここでもまたお酒を飲んでいました(笑)
結果的にかなり場数を踏めたので、1年間の任期を終えて開業してからも、この経験がとても役に立ちました。本当に助かったなと思っています。
なんとかしなきゃいけないと思ったときの人のパワーってすごいですよね。
和漢診療センター式の治療とは、どのような治療方法だったんですか?
シンタロー
シンタロー
澤口先生
澤口先生
簡単に言えば、腹診をして虚実の判断を行い、それに対する2パターンの治療をします。
虚証であれば電気温鍼をおこない、実証であれば連続輸刺をおこなうというものでした。
電気温鍼とは、脾兪・胃兪・腎兪・志室に置鍼をして、その間に腰を広い範囲で温めます。
連続輸刺というのは、伏臥位で「膀胱経に沿って首から腰まで単刺を繰り返す」という手技です。置鍼はしません。
今でもご自分の治療のベースになっているのでしょうか?
シンタロー
シンタロー
澤口先生
澤口先生
そうですね。和漢診療センター式と同様に、腹診を中心する別の治療法も取り入れているので、2つを合わせたものが今の治療スタイルの基本になっています。

  (注)澤口先生の研修先である保健医療施設内での鍼灸治療(自費)については、「病院と行政が折衝し、当時の行政から許可を得た」とのことです。現在の法的な解釈とは一致しない点もございます。ご了承ください。 

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