中途失明して盲学校へ、鍼灸マッサージ師になって見えた光/鍼灸マッサージ師:杉野 裕一

治療院を開業して「とにかく触る」

国家試験に合格して資格を取ってからの話を教えてください。
ツルタ
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杉野先生
杉野先生
入学時点では「絶対に仕事がある」と言われていたんですけど、資格をとる頃には、そんなに甘くないことがわかっていました。開業するしかなかったというのが、実際のところです。
人生設計がまた大きく変わりますよね。
ツルタ
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杉野先生
杉野先生
ただ、ちょうど盲学校経由で、「治療院を作りたいから、よかったらやってくれないか」というお話をいただいたんです。50歳代の不動産屋の社長さんで、40代頃から体調不良を抱えていたそうです。毎週1回鍼治療を受けていて「鍼のおかげで自分は仕事をしてこられた」と思っているような方でした。
患者として鍼灸院を作ろうしたわけですか。
ツルタ
ツルタ
杉野先生
杉野先生
その方に治療をしていたのが、盲学校を出た80歳くらいになる先輩だったんですけど、治療院をたたむことになったんです。その社長さんは、これから誰に治療を受けたらいいか困ってしまって、それで自分で治療院を作ろうと思ったそうです。
すごいめぐりあわせですね。
ツルタ
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杉野先生
杉野先生
どうせやるんだったら、これから仕事を始める人を支援したいというのもあったみたいですね。卒業前の11月ぐらいに学校に来て、「整骨院の居抜きのビルを買うから、そこで治療院やらないか」と誘われて…。正直、最初は「何を言ってるんだろう」と思いました。話ができすぎていましたから。
その社長さんの取り分が多いというわけではないんですか。
ツルタ
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杉野先生
杉野先生
それが「施術費は6:4とかでやるんですか」って聞いたら、「全部自分でもらっていいから」って言ってくださって。家賃もいらないというので、開業に踏み切りました。
神様ですか…。よほど、盲学校スタイルの治療に魅せられたんですね。
ツルタ
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杉野先生
杉野先生
開業当初は、一緒に開業した友人と「無料でもいいから経験を積みたい」と話をしていました。それで、まずは「1,000人触りたい」っていう目標を立てて、最初は料金もだいぶ安く設定していました。
うまくなるために、まさに「手に職」ですね。
ツルタ
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杉野先生
杉野先生
自分が納得するまでやりたかったから時間も決めていませんでした。肩こりで来た人に「肩が楽になった」と実感して帰ってもらわないと意味がありませんから。
患者さんには嬉しいシステムですね。
ツルタ
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杉野先生
杉野先生
そのうち紹介でどんどん患者さんが入ってくるようになって、月の終わりには、翌月は全部予約が埋まる感じになっていきました。今は時間も90分に決めていて、それ以上はやらないことにしています。入学前に思い描いていたより、だいぶ収入も良いです。
本当に良かったですよね。今後は後輩を取りまとめて、自分たちの会社を作って大きくしていくような道もあるのかなと勝手な想像を膨らませてしまいました。
ツルタ
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視力を失って得た大切なもの

経験を積むにつれて、治療スタイルに変化はありましたか。
ツルタ
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杉野先生
杉野先生
盲学校からの流れだと、先輩から教わった局所鍼だけをやっていたと思うんですけど、Twitter上で知り合った鍼灸師の先生方が、経絡や古典を使って局所以外の治療もされていたんです。その方たちに教わって、自分自身も治療法の選択肢が増えている感じです。
日本伝統鍼灸学会の学術大会にも参加されていましたよね。勉強熱心だなと思いました。
ツルタ
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杉野先生
杉野先生
1年目はとにかく鍼を刺せるだけで嬉しくてしょうがなかったんですよ。「肩こり取れた」「腰が痛いの治った」とか言われるとすごく嬉しかったですね。
でも、次のステップとして、病院に行っても治らないような難病を抱える患者さんを治療するとなると、いろいろな勉強をしないといけないと感じています。
お話を聞いていると、患者さんに喜ばれたりとか症状がとれたりすることに、仕事の楽しさを見出されていると感じます。
ツルタ
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杉野先生
杉野先生
まさに、それが楽しくてやっている感じですね。私自身が腰痛や肩こりがあったんですが、盲学校に行ったら先生が治してくれました。「あん摩とか鍼灸ってこんなに良いものなんだ」って実感しました。この感覚をたくさんの人に味わってほしいです。
天職に出会われたのかもしれません。
ツルタ
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杉野先生
杉野先生
そうですね。視力を失ったときは、子どもが成長する姿も見られないと思って「人生、終わったな」と絶望していました。でも盲学校では、先生を含めてみんな目が見えないじゃないですか。だけど普通に生きていて、明るくて…そういう先生方をみたら「悲観することはないんだな」と感じましたね。
盲学校に進んだことが、大きな転機になったんですね。
ツルタ
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杉野先生
杉野先生
もっと早くこっちの道に進んでいればよかったなって思うくらいですが、視力を失わなければ、思いもしなかった道です。
視力と引き換えに、私は大きなものを得ることができました。だから目が見えなくなって、この仕事に出会えてよかったと思っています。

お城のにし治療院

【記事担当】
取材 = ゆうすけタキザワツルタ
文 = なるみさわ
撮影 = ツルタ
編集 = くちやまだ

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