「ハリトヒト。」では、さまざまな鍼灸師のキャリアパスを紹介しています。
鍼灸学校を卒業して、開業する人もいれば、治療院に勤務する人もいるでしょう。教員や研究者の道を歩む人もいます。
そして、鍼灸の免許を取ったけれども、全く関係のない業界へとキャリアチェンジする人もいます。
土田さんは鍼灸師13年目で開業、その鍼灸院は2年で廃業となり、現在は全く違う道を歩んでいます。
なぜ、閉院を決断することになったのか。そして、今は鍼灸に対して、どんな思いを抱いているのか。現在の新たな夢とともに聞いてきました。
今回は鍼灸師をやめたヒトのお話です。
土田 健一(つちだ けんいち)氏
略歴
2000年 国立北見工業大学 工学部 機能材料工学科 卒業
2000年 アウトソーシング業の企業に入社
2001年 アウトソーシング業の企業を退社
2001年 札幌青葉鍼灸専門学院 入学
2004年 札幌青葉鍼灸専門学院 卒業
2004年 自営の訪問治療を開始
2004年 内科クリニック併設の鍼灸院に入職
2006年 内科クリニック併設の鍼灸院を退職
2006年 高齢者施設訪問の鍼灸マッサージ院に入職
2018年 高齢者施設訪問の鍼灸マッサージ院を退職
2018年 「くらさろ」 開業
2020年 「くらさろ」 廃業
2020年 土木業に従事
2021年 建物管理業に従事
15年間、鍼灸がおもしろいからやってきた
土田さんとはtwitterを通じて知り合って、「ハリトヒト。」を応援してくれている縁から、今回のインタビューが実現しました。
開業されてから、どれくらいで廃業を決意されたのですか。
開業されてから、どれくらいで廃業を決意されたのですか。
ゆうすけ
土田さん
開業して2年後に廃業ですね。
2年ですか…。
ゆうすけ
土田さん
ただ、開業前に13年にわたって勤務していたので、臨床経験はありました。
なるほど。開業した時にはそれなりにベテランだったわけですね。
ゆうすけ
土田さん
どうなんでしょう、ダラダラやっていただけかもしれません。でも鍼灸がおもしろいからやってきたというのが大きいですね。
鍼灸のおもしろさは、どういうところに感じていましたか。
ゆうすけ
土田さん
鍼灸師ごとに正解があって、完全な正しさがないところがいいところですね。
たとえば安らぎを求めている患者さんがどれだけ間違ったことをしゃべっていても、それを肯定してあげられる懐の深さが、鍼灸師という仕事の醍醐味だと思っています。
たとえば安らぎを求めている患者さんがどれだけ間違ったことをしゃべっていても、それを肯定してあげられる懐の深さが、鍼灸師という仕事の醍醐味だと思っています。
間違いも肯定してあげられる、ですか。
ゆうすけ
土田さん
ええ。間違ったことを言われても、鍼灸師はそこをうまいように言葉を作っていけるじゃないですか。そういうところがすごく良いですね。
治療というより、患者さんとの会話や交流みたいな部分に魅力を感じていたんですね。
ゆうすけ
土田さん
そうです。「ハリトヒト。」の猪飼先生の記事にありましたが、鍼灸って針金と枯草じゃないですか。これが鍼灸の限界だと思っていたので。でも、だからこそ鍼灸師の想像力で、無限の治療ができるとも思っていたんですけどね。
土田さんの鍼灸院って、何かコンセプトはありましたか。
ゆうすけ
土田さん
「未病治療」をコンセプトに掲げました。健康な人にも鍼灸を受けてもらおうと思ったんです。でも、うまくいきませんでした。
医師の同意書が取れなくなり退職
それだけ鍼灸への想いがあるにもかかわらず、廃業へと至ってしまったんですよね…。その経緯をお聞きしたいのですが、まずは鍼灸師を目指したきっかけについて、教えていただけますか。
ツルタ
土田さん
地元北海道の工業大学を卒業して、新潟県で就職したんですけど、あるとき親から「鍼灸の学校が札幌にできるから行かないか」と言われて、それで鍼灸の道に入りました。
親御さんはどうして鍼灸学校を勧めたんですかね。
ツルタ
土田さん
おそらく、楽に儲かると思ったんでしょう。20年ぐらい前だと接骨院は景気が良かったですからね。うちの親は柔道整復師と鍼灸師の違いがよく分かっていなかったんだと思います。
卒業後はどのような働き方をしたんですか。
ツルタ
土田さん
卒業してすぐに、病院併設の治療院に勤務します。それと並行して自営で自費の訪問治療もやりました。これが最初の3年間です。
治療と経営、両方の経験を積んだんですね。3年で次のステップにいこうと思ったのは、何かきっかけがあったんですか。
ツルタ
土田さん
何となくで、特に理由はなかったです。次は保険を使って老人ホームで治療をする会社に10年ほど勤めました。
けっこう長く勤めましたね。
ツルタ
土田さん
治療というより話を聞くのがメインな感じだったのが合っていました。老人ホームにいると、入居者同士だけでなく職員にも言えない悩みが出てくるじゃないですか。そういうのを二人だけの世界なら話せるので、利用者さんに喜ばれていたと思います。
なるほど、会話や交流を大切にする土田さんにとって理想的な職場だったんですね。ここはどうして退職されたんですか。
ツルタ
土田さん
医師の同意書が取れなくなってきて、治療の件数が減ってきたからです。給料をもらっている額と売上がトントンになってしまって、これなら辞めたほうがいいと思ったんです。
あぁ、同意書の問題でしたか…。
ツルタ
土田さん
地域差はあると思いますが、僕の所はどんどん厳しくなってきた印象です。だから辞めるにはいいタイミングだったのかもしれません。それで退職して開業することにしました。