無名のまま死んでいくのが自分にはお似合いだと気付きました/元鍼灸師:土田 健一

鍼灸院のコンセプトから迷走していた

資格取得から13年、ついに院を構えての開業ですね。
ツルタ
ツルタ
土田さん
土田さん
テナントはイベントやセミナーなどができるように広いところを借りました。広さは25坪(82.64㎡)です。しかも、地下鉄駅から徒歩1分でアクセスも良かったんですよ。
ひとり鍼灸院をやるにはじゅうぶん過ぎるくらい立派で条件の良い物件だったんですね。
ツルタ
ツルタ
土田さん
土田さん
それでも隣のビルに競合が入っていたのは気になりました。今ってどこも整体とか治療院だらけじゃないですか。同じ建物に競合が入っていない物件を探すのも大変でしたよ。
駅近は競合が多いんですね…。例のコンセプトはどのように作っていったのですか。
ツルタ
ツルタ
土田さん
土田さん
まずは「他の治療院がやっていないことをしよう」というところから入りました。それが「未病治療」です。健康な人を呼ぼうって。
健康な人に鍼灸治療。どうやって受けてもらう流れを作ったのか気になります。
ツルタ
ツルタ
土田さん
土田さん
そういう流れは作れませんでした。きっとコンセプトから迷走していたんでしょうね。だからうまくいかなかった。(笑)
その迷走について、詳しく聞きたいです。
ツルタ
ツルタ
土田さん
土田さん
まず一番初めに思ったのが、腰痛とか膝痛とか治療するのは大変じゃないですか。治療をしてさっぱり良くならないまま帰すのは、自分にとっても心の負担になるんですよ。
たしかに心苦しいですよね。
ツルタ
ツルタ
土田さん
土田さん
だったら健康な人に来てもらって、リラクゼーション的な鍼灸施術をすれば良いと思ったんです。それで未病治療をコンセプトに始めたんですけど、未病治療について答えが出る前に閉院してしまいました。(笑)

オンラインサロン頼みの集客では限界がある

集客はどういうふうにやっていたんですか。
ツルタ
ツルタ
土田さん
土田さん
実は、あるインフルエンサーのオンラインサロンに入会していたので、集客はそこを頼みにしていました。ほら、最近なんか鍼灸でもフェスをやっていた…。
ああ、わかりました。芸能人がやっているかなり大きなオンラインサロンですよね。集客の効果はどうでしたか。
ツルタ
ツルタ
土田さん
土田さん
とても良かったですよ。オンラインサロンのツテでいろんな人が来てくれました。
それってオンラインサロンの外へも広がるものですか。
ツルタ
ツルタ
土田さん
土田さん
いや、サロン内では広まったけど、サロン内から外の世界には飛ばなかったです。
中での盛り上がりを、一般に広げるのは難しそうですよね。ただ集客ツールとしても、一定の効果があるというのはすごいと思いました。
ツルタ
ツルタ
土田さん
土田さん
出だしは絶好調で、そこから急降下という感じでした。オンラインサロンのつながりでプロのブロガーが来てくれたのが、大きかったです。その方がうちの鍼灸院を紹介する記事を書いてくれて、その記事がオンラインサロンの公式ブログに載ったんです。そこからかなりサロンの人が来てくれました。
インフルエンサー界隈の人が、立ち寄る治療院としてスタートしたんですね。そこから急降下した理由というのは…。
ツルタ
ツルタ
土田さん
土田さん
オンラインサロンのつながりで来てくれた場合、自分も来てくれたお客さんのお店に行ったりするんですよ。そういうふうに「ギブ&テイク」みたいにやるケースが多いのですが、次第に手一杯になって、対応できなくなって、パンクしてしまいました。
メリット、デメリットがあるんですね……オンラインサロンから離れての集客はいかがでしたか。
ツルタ
ツルタ
土田さん
土田さん
低空飛行が続きました。だから2年でポシャッたんでしょうね。(笑)

「自分だけの強み」なんて考えなくていい

開業をする前にどなたかに相談はされましたか。
タキザワ
タキザワ
土田さん
土田さん
自院を構える5年くらい前に商工会議所の開業セミナーに参加したことがあります。やっぱりそこでも「自分だけの強みを持て」という話が出てくるんですよ。
たしかに、どこでもけっこうよく聞く言葉かもしれません。
タキザワ
タキザワ
土田さん
土田さん
自分の強みと言われてもよく分からなくて、とりあえず世の中の治療院にないものをふわふわと考えていったんですね。それでたどりついてしまったのが「未病治療」だったんです。
開業当初のコンセプトですね。
タキザワ
タキザワ
土田さん
土田さん
でもそれは失敗でした。「自分だけの強み」みたいな言葉に踊らされないで、がっちりとレッドオーシャンに飛び込んで、普通の治療院を作るべきだったなというのはありますね。「自分の強みを見つける前に、当たり前のことをやれ!」というのが、今思うところです。
ここでのレッドオーシャンというのは。
タキザワ
タキザワ
土田さん
土田さん
初めから「未病治療」とか言わずに、腰痛と肩こりとかライバルも多いけど需要のある治療をやるのが大事だと、今は思います。
もしかしたら、無難にうまくいったかもしれないですよね。
タキザワ
タキザワ
土田さん
土田さん
ええ、世の中の当たり前の、鍼灸院らしい鍼灸院をがっちりやるべきでした。独自路線とか強みとかバカみたいなことを言うな、と思いますね。
個性とかいらないですか。
タキザワ
タキザワ
土田さん
土田さん
個性はやっていく中で出てくるのかなって。開業前に考えさせられる個性って、ゴテゴテした作り物じゃないですか。それって世の中には求められていないと思いますよ。
患者さんはどうして鍼灸院を探すのか、これを真面目に考えるべきかもしれませんね。
ゆうすけ
ゆうすけ
土田さん
土田さん
まず患者さんが鍼灸を探す時に体のどこかが悪くて鍼灸院を探すという常識、そこを破っちゃいけなかったんですね。未病治療が受けたいから鍼灸院を探す人って、基本的にいないんですよ。これが自分のポシャッた最大の原因です。

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