2023年版 顔面神経麻痺診療ガイドラインの学び/鍼灸師・博士(心身健康科学):粕谷 大智

麻痺を取り巻く今後の動き

粕谷先生
粕谷先生
これから日本顔面神経学会は、一般向けQ&Aを作成し、ホームページから麻痺に関する正しい情報発信や啓蒙活動を始めます。
また、先ほど紹介した学会認定の相談医やリハビリテーション指導士の動画による説明も設ける予定です。この情報発信には鍼灸のQ&Aも掲載され、私が鍼灸関係の担当をします。
粕谷先生の地道な活動には頭が下がります。専門医学会で、ガイドライン作成やQ&Aに鍼灸師が関わり、鍼灸の役割、患者さんが鍼灸治療を受ける際の注意点などを伝えるのはとても大事なことですね。
ゆうすけ
ゆうすけ
粕谷先生
粕谷先生
実際に患者さんは「麻痺発症後にどう対応し、どんな治療を選択するか?」、「鍼灸治療は行って良いのか否か、そのタイミングは?」というような悩みを持ちます。
SNSなどに情報が溢れている中で、日本顔面神経学会からの適切な情報発信は患者さんのためにもベストです。また、学会が認定した指導士の所属する施設を掲載することは、患者さんにより良質な治療を選択してもらえる情報の発信にもつながります。
患者さんの利益をしっかり考えていきたいですね。鍼灸の良さを一方的にアピールするだけでなく、誠実な医療人としてありたいです。
ゆうすけ
ゆうすけ
粕谷先生
粕谷先生
今年の6月9日から11日に全日本鍼灸学会全国大会が神戸にて開催予定です。そこでシンポジウム『顔面神経麻痺診療ガイドライン 2023年版からみる鍼灸の現状と可能性(案)』が企画されています。
内容は、ガイドライン作成・編集委員長の愛媛大学医学部耳鼻咽喉科教授 羽藤直人先生にガイドラインの作成のプロセスと顔面神経麻痺のCQの作成についてお話しいただき、作成委員リハビリ担当で豊橋市民病院リハビリテーション部・技師長 森嶋直人先生にリハビリテーションのエビデンスと日本顔面神経学会「顔面神経麻痺のリハビリテーション認定指導士」が果たす役割をお話しいただきます。
それは楽しみです。鍼灸学会に専門の医師を講師としてお呼びするのは、医療連携という意味でも価値ある取り組みですよね。盛り上げていきたいです。
ゆうすけ
ゆうすけ
粕谷先生
粕谷先生
シンポジウムの最後にガイドライン委員鍼灸担当の私が、2011年版の鍼灸治療はC2の推奨しないから、2023年版は弱く推奨するになった過程とCQの「鍼灸は回復を早めるか?」、「後遺症を軽減できるか?」の内容について紹介します。
ガイドライン作成過程や麻痺の鍼灸のエビデンスに興味がある方は、ぜひ神戸大会にお越しください。

鍼灸の役割を提示しよう

粕谷先生
粕谷先生
麻痺の鍼治療の目的は、自然経過が存在する麻痺において回復の促進よりも病的共同運動や拘縮、すなわち麻痺の後遺症の予防、軽減が主です。そして後遺症の発症には、強い筋収縮が関与します。したがって、発症初期から百面相のような強い筋収縮は禁忌です。
「発症初期から百面相のような強い筋収縮は禁忌」ということですね。これは顔面の通電治療にも関わることだと思いますが、現在、顔面の鍼通電について、さまざまな意見、情報があるものと認識しています。ベネフィットとリスクのバランスから、その患者さんにとって最適と考えられる選択をしていきたいです。
ゆうすけ
ゆうすけ
粕谷先生
粕谷先生
そうですね。それから後遺症の評価には、sunnybrook法やFacial Clinimetric Evaluation Scale(FaCE Scale)日本語版などが用いられており、エビデンスレベルでは、病的共同運動やこわばりなどの後遺症は鍼灸治療で軽減が期待できる可能性があります。
後遺症に対しての鍼灸施術が、一般的な選択肢として広がると良いですね。今回の顔面神経麻痺診療ガイドラインにおける鍼灸の前進が、医療連携を加速させることに期待しています。
ゆうすけ
ゆうすけ
粕谷先生
粕谷先生
今後は医療機関との連携を密にしながら後遺症の程度を把握し、その病期に応じたセルフケアの指導も麻痺の予後を左右する重要な点です。そして、鍼灸の臨床研究では専門医と共同で、先に挙げた病的共同運動や拘縮など、後遺症の予防、軽減に対して鍼灸の役割を提示できるかがポイントと考えています。これからも老体に鞭打って頑張ります。

図作成の参考文献
1)Tong FM, Chow SK, Chan PY, et al. A prospective randomised controlled study on efficacies of acupuncture and steroid in treatment of idiopathic peripheral facial paralysis. Acupunct Med 2009;27:169–173.
2)Liang F, Li Y, Yu S, Li C, Hu L, Zhou D, Yuan X, Li Y. A multicentral randomized control study on clinical acupuncture treatment of Bell’s palsy. J Tradit Chin Med. 2006 Mar;26(1):3-7.
3)岡村由美子,新井寧子,荒牧元,菊池尚子.置針を併用した顔面神経麻痺の初期治療 一続報一.Facial N Res Jpn 20:123-125, 2000.
4)Öksüz CE, Kalaycıoğlu A, Uzun Ö, Kalkışım ŞN, Zihni NB, Yıldırım A, Boz C. The Efficacy of Acupuncture in the Treatment of Bell’s Palsy Sequelae. J Acupunct Meridian Stud. 2019 Aug;12(4):122-130. doi:10. 1016/j.jams.2019. 03. 001. Epub 2019 Apr 1. Erratum in:J Acupunct Meridian Stud. 2020 Dec;13(6):192.
5)Kwon HJ, Choi JY, Lee MS, Kim YS, Shin BC, Kim JI. Acupuncture for the sequelae of Bell’s palsy:a randomized controlled trial. Trials. 2015 Jun 3;16:246.

文=粕谷 大智
編集・撮影 = ツルタ
(2023.1.23公開)

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