自分ががん患者として鍼灸治療を受けたとき、「ごほうびだな」と感じました/鍼灸師:赤星 未有希

がん(悪性腫瘍)は思っているよりも身近な存在で、現在の日本人の約半数はがんを経験すると言われています。
私たちはこれから先、きっと何人もの人をがんで失うことになるでしょう。
生きている中でがんを患う可能性も、とても高いと思います。

赤星 未有希(あかぼし みゆき)先生は、現在「がん患者さんへの鍼灸治療」をおこなっている鍼灸師さんです。
そこに至るまでの経歴と決意、そして人生の転機になる大きな出来事。
しっかりと覚悟を決めて、ご自身の言葉で伝えてくださいました。

赤星 未有希(あかぼし みゆき)先生

デザイン業界を経て転職、地元の兄の鍼灸整骨院、都内の治療院、美容鍼灸サロン、ホテルスパを経験し、現在は、虎ノ門で鍼灸治療院を開業。
同時に、がん情報サイト「オンコロ」(https://oncolo.jp/)で月刊誌の編集やメディカルイラストを主に担当する。
自身の病気の経験から、特に緩和ケアや難病、女性や頑張る人に自分自身と向き合う時間を提供したいという想いがあり、大学の通信課程でも哲学を学び中。
がん情報ナビゲーター取得。

本気で彫刻をやりたくて、イタリアに留学しました

こんにちは。ウラベともうします。
インタビューをするのは初めての経験で、至らないことも多いかと思いますが、よろしくお願いします。
ウラベ
ウラベ
はじめまして、ツルタです。同じくよろしくお願いします。
ツルタ
ツルタ
赤星先生
赤星先生
よろしくお願いします。
まずは、赤星先生が鍼灸師になったキッカケを教えてください。
ウラベ
ウラベ
赤星先生
赤星先生
高校を出た後、福岡のデザイナー学校でデザインを学びました。
造形の授業で彫塑にすごく没頭していました。
その後、一旦デザイン会社に就職しますが、体調を崩してしまったこともあり、辞めてしまいました。
まぁ、あららら。
ウラベ
ウラベ
赤星先生
赤星先生
ちょうどその時、兄が鍼灸の資格を取得し、地元広島で開業することになりました。
仕事を探していた私に、兄から「人の身体を毎日触ることは、彫刻の勉強にもなるんじゃない?」と、そそのかされて(笑)。
それがこの業界に入ったきっかけです。
彫刻がきっかけ!
ウラベ
ウラベ
赤星先生
赤星先生
はい(笑)。
でも、その時は鍼灸師になる気は全然ありませんでした。
大理石彫刻を学ぶためにイタリアに留学したいと思っていたので、広島の兄の鍼灸接骨院で働いてお金をためて、まず、イタリアに語学留学をしました。
本気で、彫刻を学ぼうとしていたのですね。
ウラベ
ウラベ
赤星先生
赤星先生
ええ、超本気で。
で、彫刻をやる夢のためにイタリア語を勉強しながら、現地でお世話になった方々にボディケアを施したところ、とても好評で。
「アートに興味がある日本人より、ボディケアができる日本人のほうがウケる」のだと気づきました。
また、兄の治療院でも女性の患者さんに、鍼灸師になって女性を診てほしいと言われたこともありました。
おもしろい展開ですね。
ウラベ
ウラベ
赤星先生
赤星先生
鍼灸師になるか、イタリアで彫刻をするか迷ったのですが、 「将来的に両方やれば良いじゃん(笑)! まずは手に職を付けよう」 と決めました。
帰国して、25歳の時に新宿鍼灸柔整専門学校に入学しました。
彫刻からの、イタリアからの、鍼灸!
ウラベ
ウラベ
赤星先生
赤星先生
はい(笑)。
でも、彫刻の夢も捨てきれなかったので、整骨院でバイトをしながら武蔵野美術大学のアートスクールで彫刻を学び、鍼灸の専門学校の夜間部に通っていました。

抗がん剤の治療にくらべたら、国試なんて楽勝でした

きっと3年生の今の時期(取材は2月)は、国試対策で大変だったでしょう。
ウラベ
ウラベ
赤星先生
赤星先生
ええ、でも国試なんて楽勝でしたね! と、強がってもいいですか?(笑)
楽勝! さすがですね!
ウラベ
ウラベ
赤星先生
赤星先生
ええ(笑)。
(意を決した表情で)
…キャリアを伝える中で避けて通れないので、今日初めて公の場でお話します。
実は専門学校3年生の6月に、ステージ3の進行がんが見つかりました。
遺伝性ではない若年性の大腸がんはとても珍しいものです。
手術と術後抗がん剤治療をしました。
そして、たくさんの方の助けもあり、現役で卒業・資格を取得しました。
3年生の国試の半年前にがんが見つかったんですか?!
ウラベ
ウラベ
赤星先生
赤星先生
はい。 当時は、外来の化学療法センターで抗がん剤の点滴を受けながら、国試の勉強をしたり、モグサをひねったりしていました(笑)。
だから、その大変さに比べれば国家試験なんて「屁」かもしれません(笑)。
あぁ…(絶句) …その経験を持ってしたら国試なんて「屁」ですね…
ウラベ
ウラベ
赤星先生
赤星先生
私はがんに関しては標準治療を選びましたが、検査の段階でかなり身体にダメージがあって。
その時に経絡治療の恩師に出会い、がんの検査や治療に疲れたときに鍼灸治療をしていただきました。
抗がん剤治療は薬剤蓄積によって、副作用の症状がだんだん重くなるんです。
その状態に、希望が見えなくなりました。
がんの標準治療を乗り越えることができたのは、鍼灸治療のサポートのおかげで、身体が楽になれてメンタル面も癒されたからだと思います。
それで、同じようにがんの患者さまを治療できる鍼灸師になりたいな、という思いを持って、専門学校を卒業しました。
卒業してからは、往診専門の鍼灸マッサージの会社に就職し、その後は、赤坂にある美容鍼灸もおこなっている治療院に勤めていましたが、今度は膠原病を発症しました。
頬の円盤状紅斑がどんどん大きくなり、美容鍼灸どころではなくなってしまいました。
がんの次は、膠原病…
ウラベ
ウラベ
赤星先生
赤星先生
その時、実はまだがんの手術の後遺症なども強く出ており、体力もなかったので、自分の治療に専念するために辞めました。
それでも、治療費の為に働かなければならないので、自分の体力に合わせた形で経営ができるレンタルサロンという手段で開業しました。
現在は虎ノ門のレンタルサロンで「白砂虎ノ門鍼灸院」、美容鍼灸サロン、外資系ホテルのスパ、がん情報サイト「オンコロ」でメディカルイラストと月刊誌を担当しています。
1つの所に勤めるのではなくて、体力と将来きちんと開業することを考えて、少しずつ色々な働き方をしています。
働き方を選べるのも、鍼灸師の良いところですよね。
ウラベ
ウラベ
赤星先生
赤星先生
ただし、貧乏ですけどね(笑)。
ただし貧乏(笑)。
ウラベ
ウラベ
赤星先生
赤星先生
術後2〜3年は、毎日定時で働く体力がありませんでした。
フルタイムで働くと、次の日は1日寝ていました。
短時間でも休みながらなら働ける。土日にも細切れに仕事を回せば何とかカバーできます。
自分の体力に合わせてやっていたら、この働き方になった感じです。

「オンコロ」で発行している月刊誌。
編集はもちろん、メディカルイラストも赤星先生が担当している

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