「伝わるように伝える」のが我々の責務/鍼灸師:澤口 博

「伝わるように伝えること」が必要なんです。

休みのない忙しい日々の中で、あえて勉強会を開催している理由はなんですか?
シンタロー
シンタロー
澤口先生
澤口先生
私には、学会への参加や勉強会を続けていることに対して、共通する思いがあります。
私が鍼灸師として暮らしていけているのは、先輩方が連綿とつないできた文化や技術があるからです。
だからこそ「自分が教わってきたものを、後ろの世代に伝えるのは義務である」と考えています。
自分の知識を後輩たちに渡すことで、できれば自分と同じ職業で生活をしてほしいのです。
同じ思いを持つ先生は多いと思います。
では、澤口先生が鍼灸師として生きている上で、やりがいとはなんでしょうか?
シンタロー
シンタロー
澤口先生
澤口先生
やはり「患者さんに喜んでもらえること」が一番ですね。
鍼灸は、自分がやりたいことができるわけではありません。ここを履き違えてはいけないのだと思っています。
「患者さんが良くなるためのことをするのが治療なんだから、それをまず考えないといけないよ」と後輩や教え子には伝えています。
そうでないと患者さんも良くなりません。
確かに…鍼灸師が自分本位の治療をするのは本末転倒ですね。
気をつけていないと、大切な部分を忘れてしまいがちです。
ほかに、勉強会を通じて学生さんたちに伝えていることはありますか?
シンタロー
シンタロー
澤口先生
澤口先生
そうですね。なぜ、「劇団四季」がこれだけ大きな事業になっているのかと考えると、それは「伝わるように伝える」を徹底しているからです。
「伝わるように伝える」とはどのようなことでしょうか?
シンタロー
シンタロー
澤口先生
澤口先生
例えば、「劇団四季」の仕事から学んだ一つに「母音法」という発声方法があります。
舞台では、演じている内容やセリフが観客に伝わらないといけません。
普段の会話として聞くと少し変に聞こえるのですが、舞台からだと観客の皆さんにしっかりと言いたいことが伝わる。
伝われば、飽きないし、感動していただけるんです。
単純に聞こえますが、すごく難しいですね。
シンタロー
シンタロー
澤口先生
澤口先生
難しいですが、この考え方は鍼灸治療にも通じます。
私の治療は深刺が多いのですが、一部の患者さんにとっては痛く感じると思います。
「なぜ患者さんは、値段が高く、痛いにもかかわらず、私の鍼を受けに来ているのだろうか」と考えると、その理由は「どこにいっても良くならない。このつらさをどうにかしてくれ」に尽きます。
だとすれば、「なぜこの治療をするのか」や「今あなたの身体にはこういうことが起こっているんですよ」と、患者さんが腑に落ちる言葉で伝えるのは、我々の責務です。
しっかりと患者さんへ寄り添いながら、我々の考え方を伝えられれば、患者さんは来てくれるし、その人も鍼灸師を続けていけると思います。
きちんと伝えられれば、患者さんから信頼していただける。ぼくも開業してから伝え方の大切さを実感しています。 学生さんにはどのように教えていらっしゃいますか?
シンタロー
シンタロー
澤口先生
澤口先生
まずは、ちゃんと実技で実際に見てもらうことからですね。
例えば、外転ができなかった足が鍼1本で開くようになった。その上で「こうなった理由はわかりますか?」と学生に問いかけるようにしています。
そうすると「肝虚だからだ」「胆経を瀉したからだ」とそれぞれが自分なりに考えてくれます。
理論だけでもダメだし、実技だけでも伝えられません。両方の経験を積み重ねることで、患者さんへの伝え方も自然とわかるのではないかな、と思っています。
わかりやすく伝えるためには、目的や理由を理解して噛み砕く必要があります。
その基礎を丁寧に教えていただけるのは、すごく嬉しいですね。
でも、勉強会を続けるのがつらいなと思ったことはありませんか?
シンタロー
シンタロー
澤口先生
澤口先生
まぁ、やり続ける中ではもう嫌だと感じることもありますが(笑)、先輩方も私と同じような気持ちで伝えてきてくれたのでしょう。
だから、もしも受け継いでもらえるならば、そのまた次にバトンを渡してほしい。
知識や技術の継承ができれば、結果的に教えてくださった先輩方への恩返しになると思っています。

「一所懸命にできる人」が鍼灸師を続けていける。

先生が考える鍼灸師の資質ってなんでしょうか。
シンタロー
シンタロー
澤口先生
澤口先生
ほかの方もそうおっしゃるかもしれませんが、「一所懸命にできる人」だと思います。最初は誰しも技術がなく、治せるかどうかもわかりません。
でも、一所懸命にやると患者さんって不思議と治っていくものです。鍼灸師が「全力で治すぞ」と治療をしていると、患者さんにも気持ちが伝わります。
その場で治らなくても、自分のことを信じてまた来てくださる。だから、その時までに必死で勉強する。その繰り返しです。
一方で、120%を続けることは大変ではないでしょうか?
シンタロー
シンタロー
澤口先生
澤口先生
そうですね。120%だと3人治療したら鍼灸師が倒れてしまいます。だからこそ技術が必要なんですよ。
反対に言えば、「自分が大事な人は続かない」という面もあると思います。
ただ単に「脾虚だから、このツボね」のようにマニュアル通りの仕事をしている方は、鍼灸師を続けるのが難しいのではないでしょうか。
患者さんは治らないし、自分の技術も上がらない。少しずつ仕事の楽しさもなくなり、しんどい思いをするだけだと思います。
今のお話を聞いて、自分は一所懸命にできているのだろうかと考えました。 先生が大事にしていることはほかにも何かありますか?
シンタロー
シンタロー
澤口先生
澤口先生
私は「何でもできるのがプロだ」と最初に教わったので、そういう思いで治療をしています。
経絡治療学会の岡田明三先生に「虫歯とお産以外は全部やれ」と言われたのがきっかけですね。
患者さんが悩みを持った状態で治療院まで足を運んでくださったのに、「うちは専門が〇〇なので、その症状は診ることができません」とは言えません。
鍼灸が全人的な治療であるとするならば、「何でもできる」ことを目指して研鑽を積んでいくべきだと思います。
それでも苦手な疾患ってありますか?
シンタロー
シンタロー
澤口先生
澤口先生
そうですね、ぶっちゃけて言えば整形外科疾患は苦手です(笑)
ありがとうございます(笑)
シンタロー
シンタロー
澤口先生
澤口先生
得意、と言っていいのかはわかりませんが、目黒の患者さんは「疲れ」を主訴に来る方が多いです。30代から40代の方が多いからかもしれません。
反対に鹿島の場合は、高齢の方が多いからか、「痛みのケア」の治療をメインにしています。
地域や環境によって、患者さんのニーズは変わりますよね。 最後に、先生がこれから挑戦したいことはありますか?
シンタロー
シンタロー
澤口先生
澤口先生
そうですねぇ。実は、経営についてあまり苦労したことがないんですよ。
2院経営されていてその発言はうらやま…もとい、すごい。
シンタロー
シンタロー
澤口先生
澤口先生
目黒院の場合は住宅街の中にあって周辺にお店もないですし、路面店にしたことで、ある程度認知をしていただいたというのが大きいですね。
開業当初はチラシをポスティングしたこともありましたが、それくらいです。
もう9年もやっているのに「前から気になっていたんです」と言って来院していただく方もいます(笑)
9年間、治療院を維持できているのは、先生の技術や人柄が患者さんに伝わっているからでしょうね。
それに加えて、先生が考えていた経営方針と患者層がうまくマッチしたのではないでしょうか。
シンタロー
シンタロー
澤口先生
澤口先生
そうかもしれません。
だからこそ、10年目にしてちゃんと集患のことを考えようと思っています。
10年目の挑戦ですね。

■ ウィル鍼灸院 http://www.willacu.com/
目黒店:東京都目黒区目黒2-3-1 ディアプレイス目黒1F
神栖店:茨城県神栖市土合東1-10-17-1 サンケン荘 北 10

【記事担当】
取材・文・撮影=シンタロー
編集=さまんさ

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