大好きな自然が健康につながったら、これ以上幸せなことはない/鍼灸師:石川 弘樹
自然が大好きと語るのは、「癒しの里・長柄鍼灸マッサージ」を運営する石川弘樹先生です。
里山の自然の力を活かして、日々患者さんを癒す取り組みをおこなっています。
施術の前に、畑仕事を手伝ってくれた患者さんから「元気になったので、今日は治療はいいです」と言われた経験もあるのだとか。
鍼灸治療だけにとどまらない石川先生の取り組み、そして自然や東洋医学への想いについて聞きました。
石川 弘樹(いしかわ ひろき)先生
略歴
千葉県千葉市出身
獨協大学 外国語学部ドイツ語学科 卒業
東京医療福祉専門学校 はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧科(本科)卒業
癒しの里・長柄鍼灸マッサージ 開業
大好きな場所で鍼灸院を
すごく癒される場所ですね。この土地で開院された経緯を聞きたいです。
ここは私の先祖が代々住んでいた土地です。江戸時代に漢方医を開業して、東洋医学を実践していたと聞いています。
そんな歴史が…。最初からここで開業しようと決めていたんですか。
決めていたわけではないんですが、もともと祖父母が住んでいて私も大好きな場所だったんです。たまたま母が病気になりまして、ケアも含めて、ここにいる時間が徐々に長くなっていったのが大きなきっかけですね。
もともとは物置小屋みたいな感じだったんです。でも天井を剥がしたら立派な梁(はり)が出てきて、「ここを直して拠点にできたらいいな」っていう気持ちが強くなりました。
東洋医学自体、自然から学んで体系立てられたものじゃないですか。私が小さな頃から親しんできた大好きな自然を楽しんでもらって、それが皆さんの健康につながったら、これ以上幸せなことはないと思ったんです。
自然の中の「1つの生き物」になれる場所
先生は鍼灸治療だけではなくて、患者さんに体験してもらうことを大切にしていますよね。
東洋医学を学び始めた頃、目に見えない部分を理解することがすごく難しく感じました。でも頭が追いつかない分、感覚が育ったというか…。
そんな経緯もあったので、ここでは体験してもらうことを1つのテーマにしています。治療にウエイトを置くと、どうしても患者さん側は100%受け手になってしまうので、体験してもらってご自分の感覚を育んでいただくことを大切にしています。
農業体験をしたり、お灸に使う枇杷の葉をお庭で選ぶことも可能だと聞きました。屋号に「癒しの里」と付いていることからも「里込みで体験してほしい」っていう思いが伝わってきます。
自分が調子の悪い時も、ここに帰ってきて休むことが結構あったんです。ただ自然の中でボーッとすることが、自分の不調を癒すのにとても役立ったという経験がありました。
自然の中にいることが、なぜ癒しになるのでしょうか。
どうしても都会にいると自分が主体になる感覚がありますが、自然の中に身を置いてみると、自分主体の割合がちょっと薄れるように感じます。「自然の中の1つの生き物」っていう位置付けに意識が変わるというか。気持ちの持ちようもだいぶ変わるんですよね。自分の悩みでいっぱいになっていたのが、うまく切り替えられるようになるのだと思います。
考えすぎちゃったり、頑張りすぎちゃったりすることって、現代人にはすごく多いですよね。ストレス過多の方って、もちろん鍼とお灸だけでもリラックスしてもらえますけど、この環境に入ることでより癒されるのだろうと思いました。
鍼灸だけではなくて、自然が癒してくれるっていうもう1つの手段を提案できるのがいいところかなと思っています。例えば野草のお茶を飲んで、深呼吸をして、香りの力でリラックスできますよって提案できますから。
院の入り口のところの時計が止まっていたじゃないですか。そういうのどかな雰囲気も魅力かもしれませんね。
ありがとうございます。でも時計が止まっているのは偶然で、早く電池をいれるようにずっと怒られているんです…。
土地を整えることと、治療は同じ
ここは自然を求めて遠方から来る方も多いのではありませんか。
車で30分以上かけて来られる方がほとんどです。車を停めるところから歩いて来るまでにも、いろんな自然の音や匂い、植物の感じが移り変わっていく様子を見ることができて「あのお花が咲いていましたね」、「まだカエルが鳴いていますね」とか、そんな会話が生まれることも多いです。
ネットの口コミに「鳥の声を聞きながら治療が受けられる鍼灸院」というのがあって驚きました。鍼灸師として自然から感じることはありますか。
やはり自然から多くのことを学んでいると思います。日々の治療では、体の中の「気・血・水」の巡りを整えることを意識していますけど、外の手入れをして土を耕して水の流れを良くして、ちょっと枝葉を整えて、空気の巡りを良くしてって作業していたときに、これって治療と全く同じことをやっているなと気づいたんです。
手つかずの自然とも違うんですね。よく見ると建物の周りや畑は、勾配や竹の溝で水はけの手入れがされてました。
正直大変ですけど、例えば吹いてきた風がすごく気持ちよくて、これって土地の気の流れを整えたことで生まれているんだっていうのを感じたんですよ。すごくハッとしました。治療の仕事も、こういうことを人に対してやっているのかと。それは、とても大きな気づきだったと思いますね。
人も土地も、水や気とかの通り道を整えてやるのが大切ってことですか。
本当に不思議なんですけど、裏の林を整えたら枇杷の実がなるようになったんですよ。子どもの頃からあったのに実ができたことがなかったので、驚きましたね。
施術室の横庭
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