命の格差は止められるか
鍼灸の受療率が低迷しているということを何度も聞くし、目にもする。原因は考察されているようだが、やはり日本の景気の低迷が大きな要因だと思っている。国民が豊かになれないのに鍼灸師だけが豊かになれるはずがない。普通の医療ですら保険適用される医療機関を受けられない方もいる。地方では過疎化が進み地域経済に暗い影を落としている。日本経済の低迷が鍼灸受療率の低迷と関係してはいないだろうか。
昨今プライマリ・ケアでは、健康の社会的決定要因(個人または集団の健康状態に違いをもたらす経済的、社会的状況のこと)とか、社会的処方(なんらかの病気や問題を抱える人に対して薬ではなく、地域の社会的なつながりや活動を紹介(処方)するなどして治療しようという試み)という言葉が広まってきた。言葉を知る中で、経済格差と命の格差について思いを寄せるようになった。
健康寿命、健康格差は経済格差と関係する。富める地域に住むと健康が維持され、貧しい地域に住むとケガや病気が増えるそうだ。また、学歴も関係するともされ、高学歴者ほど健康な者が多くなる傾向にあるという。生活困窮者が増えれば健康格差は広がり、不健康な国民が増えることになる。
鍼灸治療を受けたいが家計の余裕がない。例えば母子家庭やヤングケアラーのいる家庭ではそういうケースが多いだろう。そうした方たちを鍼灸で救うにはどうしたらよいのであろうか。例えば子ども食堂の中に鍼灸ベッドを設置し、廉価で施術してもいいのではないか。そうしたコミュニティ アウトリーチのような考えを持ち、地域に出向くことで鍼灸の受療率は上がるかもしれない。国民が貧困化する日本で健康格差をなくすため鍼灸医療は何ができるのか。そうしたことを思案するのに読んでいる。
関連図書として『健康格差』(マイケル・マーモット.日本評論社)、『経済政策で人は死ぬか?』(デヴィッド・スタックラー他.草思社)、『健康格差』(NHKスペシャル取材班)なども読み、答えは出せないかもしれないが、自身の“地域医療としての鍼灸”の宿題図書として位置づけている。
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