鍼灸師:手塚 幸忠の5冊

(1) 奇跡のリンゴ
(2) 気・流れる身体
(3) 治療家の手の作り方
(4) 鍼灸治療基礎学
(5) 病気にならない暮らし事典-自然派医師が実践する76の工夫

奇跡のリンゴ

■ 石川 拓治(著
■ 幻冬社(2011年)

この本は農薬なしには育てることが不可能と言われていたリンゴを、農薬なしで育てることに成功した農家の男の話だ。

リンゴの木は農薬を使わないと害虫や病気にやられてすぐに弱ってしまう。
しかし、山にあるドングリの木は元気に育っている。その不思議に、主人公である農家の木村さんは、長年の多くの失敗の末に結論にたどり着く。

「病気や虫のせいでリンゴの木が弱ってしまったのだとばかり思っていた。それさえ排除できれば、リンゴの木は健康を取り戻すのだと。そうではない。虫や病気は、むしろ結果なのだ。リンゴの木が弱っていたから、病気や虫が大発生したのだ。ドングリの木だって害虫や病気の攻撃に晒されているはずなのだ。それでもこんなに元気なのは、農薬などなくても、本来の植物は自分の身を守ることが出来るからだ。それが自然の姿だ。そういう自然の強さを失っていたから、リンゴの木はあれほどまでに虫や病気に苦しめられたのだ。自分のなすべきことは、その自然を取り戻してやることだ。」

私の治療院の名前は「自然なからだ」という。私はこの木村さんの考えを、リンゴではなく患者さんで実現したいのだ。この本の紹介文を書くために20年ぶりにこの本を読み返して、治療院の名前を思いついた理由を思い出した。

「自然の中には、害虫も益虫もない。それどころか、生物と無生物の境目すらも曖昧なのだ。土、水、空気、太陽の光に風。命を持たぬものと、細菌や微生物、昆虫に雑草、樹木から獣にいたるまで、生きとし生ける命が絡み合って自然はなりたっている。その自然の全体とつきあっていこうと」

この本を読んでいると、東洋医学の気の思想の本かと錯覚してしまう。

「リンゴの木は、リンゴの木だけで生きているわけではない。周りの自然の中で、生かされている生き物なわけだ。人間もそうなんだよ。」

治療がある程度できるようになってくると、自分の施術の力で治そうと思ってしまう時がある。しかし、患者さんがなぜ病気になったのかをもう一度考え、患者さんの身体全体、そして生活習慣、仕事、もっといえば政治や社会、自然や宇宙のことも考えながら治療をおこなわなければ、本当の根本治療にはならないのだと、改めて考えさせられた。

初めは鍼灸学生だった時に読んだ気がするが、今読むと、以前よりもグサグサと胸に突き刺さる言葉があり、反省しまくりながら読んでいる。

『気・流れる身体』は東洋医学思想から身体と世界や自然との繋がりを論じているのに対し、『奇跡のリンゴ』はリンゴから自然や世界と人間とのつながりを論じている。

分野は全く違うのに同じことを論じているのが、とても面白い。

ぜひ対をなして読んで欲しい。

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